2022年09月15日

物価高と消費者の暮らし向き(2)-物価高でも消費機会減少や収入増で約1割の消費者はゆとりあり

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • ニッセイ基礎研究所が20~74歳を対象に暮らし向きについて調査した結果では、コロナ禍を経て暮らしにゆとりが出てきたと回答した層は9.2%を占める。ゆとりが出てきた理由は圧倒的に、コロナ禍による消費機会の減少が多く、48.5%を占める。次いで、収入増(27.2%)、コロナ禍関連の助成金や給付金の受給(14.6%)などがあがる。
     
  • 属性によらず消費機会の減少は首位にあがるが、男性は金融資産や自身の収入への好影響が、女性は世帯収入の増加や生活費負担の軽減といった理由が多い傾向がある。年代別には高年齢層で消費機会の減少がやや多いほか、60歳以上の自由回答では退職金の受給やローン完済といった回答もある。職業別には正規雇用者で収入増、無職でコロナ禍関連の給付金の受給が多い傾向がある。
     
  • ゆとりが出てきて取った行動では、特に何もしない割合が32.6%を占めて目立つほか、貯蓄(24.7%)や株式等の金融資産の購入(15.9%)、国内旅行(15.5%)、グルメ(10.0%)などがあがる。
     
  • 属性によらず、特に何もしないや貯蓄が目立つが、男性は金融資産や自動車の購入、リフォームなどまとまった予算を必要とする消費、女性は日常的な消費や貯蓄、子育て世帯は金融資産や自動車購入等の家庭生活上の大きな出費、高収入世帯は旅行など趣味・嗜好性の高い消費に積極的な傾向が見られる。暮らし向きにゆとりが出た理由が収入増の層では多方面に渡る消費、コロナ禍による消費機会減少を理由とする層は貯蓄に留めている傾向が強い。
     
  • 今後、物価高が一層進行すれば、低所得世帯を中心に多くの世帯で家計負担が増していく。一方で一部の高所得世帯やコロナ禍でも収入が増えた世帯では、物価上昇の影響を吸収できるだけでなく、消費意欲も比較的旺盛な傾向があり、世帯間の格差が拡大する可能性がある。
     
  • 家計負担が増すと低価格志向が高まると見られがちだが、ゆとりがなくなると「低価格製品への乗り換え(38.5%)」より「不要なものは買わない(67.6%)」という消費者が多い。この背景には高いサステナブル意識が醸成されつつあることも無関係ではないだろう。消費者は物価高への対応とサステナブル意識との両立をどのように図っていくのか。ニッセイ基礎研究所では今後とも定期的に分析を実施する予定だ。


■目次

1――はじめに
 ~物価高でも消費者の約1割はコロナ禍前と比べて暮らし向きに「ゆとりが出てきた」と回答
2――暮らし向きにゆとりが出てきた理由
 ~新型コロナ禍で消費機会減少が約半数、収入増も約3割
  1|全体の状況
   ~「新型コロナ禍で、お金を使う機会が減ったから」が48.5%で圧倒的
  2|性別の状況
   ~男性は金融資産や自身の収入への好影響、女性は世帯収入増や生活費負担減
  3|年代別やライフステージ別の状況
   ~高年齢層で消費機会減少がやや多いほか、退職金やローン完済も
  4|職業別や個人年収、世帯年収別の状況
   ~正規雇用者は収入増、無職は給付金の受給
3――ゆとりが出て取った行動
 ~消費へ向けるのは少数派だが高所得層や収入増層では多方面の消費へ
  1|全体の状況
   ~特に何もしていないが約3割、貯蓄が約4分の1、ゆとりが出ても消費へ向けるのは少数派
  2|性別の状況
   ~男性は金融資産や自動車の購入、リフォーム、女性は日常的な消費や貯蓄へ
  3|年代やライフステージ別の状況
   ~子育て世帯は金融資産や自動車購入等の家庭生活上の大きな出費
  4|職業別や個人年収別、世帯年収別の状況
   ~高収入世帯は旅行など趣味・嗜好性の高い消費に積極的
  5|暮らし向きにゆとりが出た理由別の状況
   ~収入増でゆとりが出た層では多方面に渡る消費へ
4――おわりに
 ~物価高の更なる進行で格差拡大の懸念、また、高まるサステナブル意識との関係は?
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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