2022年10月21日

物価高進行下の消費者の状況-低収入層や子育て世帯で負担感強、高収入層は海外ブランド品や不動産で実感

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 物価高が進行する中、消費者の物価高に対する意識や行動について、ニッセイ基礎研究所の調査を用いて分析したところ、20~74歳の86.6%が1年前と比べて国内の物価が上昇したと回答しており、女性や高年齢層ほど上昇との回答が多い。また、このうち47.4%が3カ月以内に物価上昇を実感したと回答しているが、40歳代では1年以前が23.9%を占め、他年代と比べて比較的早期から物価上昇を実感している。
     
  • 物価高を実感した理由は、食料や日用品、光熱費などの値上がりのほか、価格据え置きで容量を減らす「実質値上げ」、報道の影響などがあがる。専業主婦や高齢層で生活必需品の値上がり、若い年代で報道の影響が多く、収入減少層が比較的多い子育て世帯(特に中学生のいる世帯)では多方面から物価高を実感しており、負担感が強い。一方、高収入層では海外ブランド品や不動産。外食代の値上がりなどが多くあがる。
     
  • 物価高を実感してとった行動は、不用品の購入控え(66.9%)、ポイントなどの活用(45.5%)、低価格製品への乗り換え(33.1%)の順に多い。女性や子育て世帯はあらゆる面での支出抑制、高齢層は娯楽支出の抑制や貯蓄の切り崩し、自営業では仕事を増やす、といった行動が多い一方、男性や学生、高収入層では何もしないとの回答が目立ち、物価高への対応には消費者の経済状況によって温度差がある。
     
  • 円安の更なる進行で日本企業のコスト増が進み、賃金の上昇を圧迫するような状況が続けば、高収入層など比較的余裕のある層にも厳しい状況は広がる可能性は高い。また、急速な円安進行が緩和されても賃金が上がりにくい状況が続けば家計負担が改善されるわけではない。欧米と比較して日本の賃金水準が低い背景には、雇用者の約3割が賃金水準の低い非正規雇用者であり、正規雇用者でも、終身雇用や年功序列が色濃い日本型雇用では高い能力や成果に対する報酬が低く抑えられていることがある。
     
  • 生活困窮世帯を中心に喫緊に生活支援策を講じることは重要だが、根本的に改善するには、生産性を高めることで高い報酬を得られるような賃金構造に抜本的に変えていく必要がある。コロナ禍で未婚化・少子化が一層進行しているが、将来的に賃金が伸びていくという明るい見通しを持ててこそ、将来世代が家庭を持ちたいと考えるのではないか。


■目次

1――はじめに~物価高の進行で家計負担増、現在の消費者意識や行動は?
2――1年前と比べた日本国内の物価に対する意識
 ~高齢層やコスパ意識の高い層ほど物価上昇を実感
  1|全体及び性年代別の状況
   ~86.6%が物価上昇を実感、年齢が高いほど実感しており60歳以上で9割超
  2|他の属性別の状況
   ~高齢層の多いライフステージやコスパ意識の高い層で物価上昇をより実感
3――物価上昇を実感しはじめた時期
 ~3カ月以内が約半数、40歳代は1年以前など比較的早期から実感
  1|全体及び性年代別の状況
   ~47.4%が3カ月以内で高齢層で多い、40歳代は比較的早期から実感
  2|他の属性別の状況
   ~40歳代の多いライフステージや年収帯で比較的早期から実感
4――物価高を実感した理由~専業主婦や高齢層で生活必需品の値上げ、高収入層で海外ブランド品
  1|全体の状況
   ~生活必需品の値上がりや価格据え置きで内容量を減らす「実質値上げ」、報道の影響も
  2|性年代別の状況
   ~女性や高齢層で「実質値上げ」や生活必需品の値上げ、若い年代で報道の影響も
  3|ライフステージ別の状況
   ~中学生のいる世帯では収入減少層が比較的多く、物価高の負担感が強い
  4|職業別の状況
   ~専業主婦で生活必需品、経営者でガソリン代・外食費・海外ブランド品の値上げなど
  5|個人・世帯年収別の状況
   ~高収入層ほど日常的に物価上昇を実感する機会が少ないが高額品で多い
  6|購買意識別の状況
   ~費用対効果志向は「実質値上げ」、高品質志向は海外ブランド品の値上がり
5――物価高を実感して取った行動~要品の購入控えやポイント等の活用は皆共通
  1|全体の状況
   ~不要品の購入控えが圧倒的、ポイント活用が約半数、低価格製品への乗り換えは約3割
  2|性年代別の状況
   ~女性は多方面で支出抑制、高年齢層ほど不要品や娯楽支出抑制や貯蓄切り崩し
  3|ライフステージ別の状況
   ~物価高の負担感が強い中学生のいる世帯ではあらゆる面で支出抑制
  4|職業別の状況
   ~自営業・自由業で仕事を増やす、無職・学生で特に何もしていないが多い
  5|個人・世帯年収別の状況
   ~低収入層ほど支出全体を抑制、高収入層は3割前後が特に何もしていない
  6|購買意識別の状況
   ~低価格志向で商品価格を抑える工夫、貯蓄・投資志向で家計の見直し
6――おわりに~更なる物価高進行の懸念、生活支援策も必要だが賃金構造の抜本的な改革を
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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【物価高進行下の消費者の状況-低収入層や子育て世帯で負担感強、高収入層は海外ブランド品や不動産で実感】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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