2016年06月06日

若年層の消費実態(1)-収入が増えても、消費は抑える今の若者たち

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
  • 総務省「全国消費実態調査」は、1959年から続く5年毎調査で、国民の消費生活を捉える上で最も大規模なものである。これから数回に渡り、同調査の最新値等を用いて若年層の消費実態を見ていく。分析では、「お金を使わない」現在の若者と消費意欲が旺盛な「バブル期」の若者を対比する。第一弾では家計収支の動向を示す。
     
  • 1989年以降、30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得は男性では増加傾向、女性では2009年まで増加し2014年で減少。バブル期と直近を比べると、男女とも実質増減率が増加しており(男性では1割以上)、決して「今の若者はお金がない」わけではない。
     
  • 一方、若年層では経済状況の厳しい非正規雇用者の増加により、一人暮らしが難しい層も増加。20代の非正規雇用者の手取り収入を推計すると、30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を下回るが、20代後半で大卒以上であれば月々20万円以上手にしており、バブル期の単身勤労者世帯より手にしている。非正規雇用者でも一律に「今の若者はお金がない」わけではない。
     
  • 30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出は2009年頃までやや増加傾向にあったが、2014年で減少。一方、消費性向は1989年以降で低下傾向。また、概ね男性より女性で消費性向が高く、男性より女性の方が消費意欲は強い。
     
  • 今の若者は手元のお金が増えても消費は控える傾向が強まっており、「お金がない」わけではないが、「お金を使わない」ようになっている。

■目次

1――はじめに
2――可処分所得の変化
  1|若年単身勤労者世帯の可処分所得と貯蓄現在高
    ~バブル期より概ね増加、男性の増加が目立つ
  2|若年非正規雇用者の手取り収入
    ~20代後半の大卒・大学院卒はバブル期の単身勤労者世帯より多い
3――消費支出の変化
  1|若年単身勤労者世帯の消費支出の変化~バブル期より増加、
    可処分所得は増えても消費は抑える、女性の方が高い消費意欲
4――おわりに

1――はじめに

1――はじめに

2年前に、拙著「若者は本当にお金がないのか?―統計データが語る意外な真実」(光文社新書、2014年6月)にて、総務省「全国消費実態調査」をはじめとした政府統計を用いて若年層の消費状況について分析した。「全国消費実態調査」は1959年から5年毎に実施されている政府の基幹統計調査で、国民の消費生活を捉える上で最も大規模な調査である。著書執筆時点では2009年のデータが最新であったが、その後、新たな調査結果が公表された。そこで本稿を皮切りに、これから数回に渡って、「全国消費実態調査」の最新値等を用いて若年層の消費実態を見ていきたい。なお、「お金を使わない」と言われる現在の若者の特徴をより明確に把握するために、消費意欲が旺盛と言われた「バブル期」の若者と対比していく。まず、第一弾の本稿では、家計収支全体の変化に注目する。
 

2――可処分所得の変化

2――可処分所得の変化

図表1 30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得と貯蓄現在高 1若年単身勤労者世帯の可処分所得と貯蓄現在高~バブル期より概ね増加、男性の増加が目立つ

よく世間では「今の若者はお金がない」と言われるが、実際のところ、毎月どれくらい手にしているのだろうか。また、過去と比べてどうだろうか。

30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得は、2014年では男性23.0万円、女性18.3万円である(図表1)。1989年以降の推移を見ると、男性は2009年でやや減少しているものの、概ね増加傾向にある。女性は直近の2014年では減少しているが2009年までは増加傾向にある1。また、バブル期の1989年と2014年を比較すると、男性は+4.6万円、女性は+2.0万円増加しており、消費者物価指数を考慮した実質増減率は男性+12.2%、女性+0.5%である(図表2)。

また、30歳未満の単身勤労者世帯の貯蓄現在高は、2014年では男性190.3万円、女性148.9万円であり、女性は調査年による増減が大きいが、男性は概ね増加傾向にある。1989年と2014年を比較すると、男性は+52.3万円(実質+23.8%)、女性は+16.9万円(同+1.3%)である。

以上より、30歳未満の単身勤労者世帯では、男性はバブル期より可処分所得が1割、貯蓄が2割増え、女性でもいずれも若干増えている(2009年では1989年を大きく上回る)。つまり、30歳未満の単身勤労者世帯に注目すると、決して「今の若者はお金がない」わけではない。
図表2 30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得と貯蓄現在高、及び実質増減率(対1989年)
 

1 総務省「全国消費実態調査」では単身勤労者世帯の集計世帯数が減少傾向にあり、特に2009年から2014年にかけて30歳未満の女性の世帯数で減少が目立つ。よって、当該年度だけでなく過去からの傾向にも留意する必要がある。
2若年非正規雇用者の手取り収入~20代後半の大卒・大学院卒はバブル期の単身勤労者世帯より多い

一方、若年層では非正規雇用者が増えており2、経済状況の厳しさから親元同居率も上昇している3。よって、現在の単身勤労者世帯、つまり、一人暮らしができる若者には、大企業の正規雇用者をはじめ同年代の中でも経済状況に余裕のある層が多い可能性がある。そこで、より経済状況の厳しい若者として、非正規雇用者に注目して月々の可処分所得を推計する。

図表3に、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から非正規雇用者の月当たりの手取り額を推計した結果を示す。なお、同調査で示される賃金は所得税や社会保険料等を控除する前の税込み額である。よって、可処分所得を確認するために、同調査から推計した月収推計から、総務省「全国消費実態調査」の30歳未満の単身勤労者世帯の非消費支出(実収入と可処分所得の差分)を差し引いた。また、図表3の注1に示した通り、「正社員・正職員以外」の非消費支出は単身勤労者世帯のものより小さい可能性があり、さらに20~24歳では年齢区分の違いも加わって、図表3の非正規雇用者の月当たりの手取り額の推計値は実際より少ない可能性がある。

図表3を見ると、非正規雇用者の月当たりの手取り額は、男性の学歴計では20~24歳が16.6万円、25~29歳が19.8万円、女性の学歴計では20~24歳が15.4万円、25~29歳が17.6万円であり、いずれも2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を下回る。また、非正規雇用者の月当たりの手取り額は、20代前半より後半の方が多く、同じ年齢階層では女性より男性、学歴計より大学・大学院卒の方が多い。この中で比較的手取り額の多い大学・大学院卒の25~29歳では、男性は22.1万円、女性は20.2万円であり、年齢区分の違いもあるが、いずれも1989年の30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を上回る(実質ベース)。さらに、大学・大学院卒で25~29歳の非正規雇用女性は2014年の30歳未満の単身勤労者世帯をも上回る。なお、「正職員・正社員以外」のうち大卒・大学院卒は、20~24歳では男性15.2%、女性15.9%、25~29歳では男性32.8%、女性30.5%を占める。

以上より、20代の非正規雇用者の収入は、男性では同年代の一人暮らしの若者より少ないが、女性では20代後半で大卒以上であれば上回る。また、非正規雇用者でも、男女とも20代後半で大卒以上であれば(同年代の非正規雇用者の約3分の1)、月々20万円以上手にしており、バブル期の一人暮らしの若者の収入を上回る。つまり、より経済状況の厳しい非正規雇用者でも、20代後半で大学・大学院卒であれば、バブル期よりも収入があり、一律に「今の若者はお金がない」わけではないようだ。
図表3 20歳代の正社員・正職員以外の月当たりの手取り額の推計(万円)
 
 
2 総務省「労働力調査」より、若年雇用者に占める非正規雇用者の割合は上昇傾向にあり、2015年では15~24歳の男性47.2%、女性53.6%、25~34歳の男性16.5%、女性41.3%を占める。
3 総務省「親と同居の若年未婚者の最近の状況(壮年未婚者も含む)(2012年)」
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久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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