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- 若年層の消費実態(2)-食料費や被服費の減少と住居費の増加、薄まる消費内容の性差
2016年06月13日
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■要旨
■目次
1――はじめに
2――消費支出主要項目の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の変化
~「食料」・「被服及び履物」の減少と「住居」の増加
2|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の男女差
~「食料」・「教養娯楽」以外は女性が多い、薄まる消費内容の男女差
3――おわりに
- 「若年層の消費実態(2)」では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出の主要項目の変化を確認する。男女とも「食料」や「被服及び履物」はおおむね減少、「住居」や「光熱・水道」は増加している。
- 1989年と2014年を比べると、男女とも「食料」の支出は約3割減少しており、男性では外食費、女性では個別品目の全体的な減少が影響している。また、「被服及び履物」は男女とも約6割も減少しているが、個別品目を見ても全体的に減少している。
- 一方、「住居」は増加しているが、若者が住環境にこだわるようになったというよりも、調査対象の変更や景気低迷による企業の福利厚生制度の縮小等により「家賃」への支出が増えた影響と考えられる。
- 消費支出主要項目の男女差を見ると、「食料」や「教養娯楽」を除くと、おおむね女性の方が多い。また、1989年と2014年の支出の男女差を比べると、主要10項目のうち7項目で男女差が小さくなっており、若年単身勤労者世帯では消費内容の性差が薄まっている可能性がある。
■目次
1――はじめに
2――消費支出主要項目の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の変化
~「食料」・「被服及び履物」の減少と「住居」の増加
2|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の男女差
~「食料」・「教養娯楽」以外は女性が多い、薄まる消費内容の男女差
3――おわりに
1――はじめに
「若年層の消費実態(1)」では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の家計収支に注目した。よく世間では、「今の若者はお金がない」「お金を使わない」と言われるが、単身勤労者世帯の可処分所得はバブル期より増えており、「今の若者はお金がない」わけではないようだ。一方、消費支出は2009年頃までは増加傾向にあったが、可処分所得の増加に対して抑えられており、直近ではバブル期より減っていた。つまり、手元のお金が増えても消費を控えるようになっており、今の若者は確かに「お金を使わない」傾向がある。
第二弾の本稿では、消費支出の変化に注目する。「全国消費実態調査」では、消費支出の内訳を「食料」をはじめとした10の項目で捉えており、本稿ではそれら主要項目の変化を確認する。
第二弾の本稿では、消費支出の変化に注目する。「全国消費実態調査」では、消費支出の内訳を「食料」をはじめとした10の項目で捉えており、本稿ではそれら主要項目の変化を確認する。
2――消費支出主要項目の変化
1|若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の変化~「食料」・「被服及び履物」の減少と「住居」の増加
30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出主要項目の推移を見ると、男女とも「食料」や「被服及び履物」はおおむね減少傾向、「住居」や「光熱・水道」は増加傾向にある(図表1)。また、「交通・通信」や「教養娯楽」は1999年前後頃に増加し、近年はやや減少している。
これらの変化により、1989年では、男性の消費支出額は1位「食料」(4.9万円)、2位「交通・通信」(2.8万円)、3位「教養娯楽」(2.4万円)の順に多かったが、2014年では1位「住居」(3.9万円)、2位「食料」(3.7万円)、3位「教養娯楽」(2.5万円)と変わり、「住居」が上位にあがっている。一方、女性では、1989年は1位「食料」(3.1万円)、2位「住居」(2.7万円)、3位「被服及び履物」(2.1万円)であったが、2014年は1位「住居」(4.2万円)、2位「交通・通信」(2.9万円)、3位「食料」(2.7万円)と変わり、男性と同様に「住居」の順位が上がっている。また、女性では、上位に「交通・通信」があがる一方、「被服及び履物」は姿を消している。
なお、「食料」や「被服及び履物」の消費者物価指数(CPI)は、1989年と比べて2014年では上昇しているため(図表2)、これらの支出額の減少は価格下落による影響ではない。仮にCPIが支出額と同程度に低下していれば、価格下落の影響により支出額が減ったことになる。
「食料」と「被服及び履物」について、CPIを考慮した実質増減率を見ると、いずれも大幅に低下している(図表3)。「食料」について1989年と2014年を比較すると、男性では4.8万円から3.7万円(実質△34.7%)、女性では3.1万円から2.7万円(△25.8%)へ減少しており、男女とも3割程度も支出が減っている。また、「被服及び履物」は男性では1.1万円から約5千円(実質△58.6%)、女性では2.1万円から約9千円(△61.6%)へ減少しており、男女とも実に6割程度も支出が減っている。男女とも「被服及び履物」の実質増減率は、消費支出の主要項目の中で最も低下している。
30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出主要項目の推移を見ると、男女とも「食料」や「被服及び履物」はおおむね減少傾向、「住居」や「光熱・水道」は増加傾向にある(図表1)。また、「交通・通信」や「教養娯楽」は1999年前後頃に増加し、近年はやや減少している。
これらの変化により、1989年では、男性の消費支出額は1位「食料」(4.9万円)、2位「交通・通信」(2.8万円)、3位「教養娯楽」(2.4万円)の順に多かったが、2014年では1位「住居」(3.9万円)、2位「食料」(3.7万円)、3位「教養娯楽」(2.5万円)と変わり、「住居」が上位にあがっている。一方、女性では、1989年は1位「食料」(3.1万円)、2位「住居」(2.7万円)、3位「被服及び履物」(2.1万円)であったが、2014年は1位「住居」(4.2万円)、2位「交通・通信」(2.9万円)、3位「食料」(2.7万円)と変わり、男性と同様に「住居」の順位が上がっている。また、女性では、上位に「交通・通信」があがる一方、「被服及び履物」は姿を消している。
なお、「食料」や「被服及び履物」の消費者物価指数(CPI)は、1989年と比べて2014年では上昇しているため(図表2)、これらの支出額の減少は価格下落による影響ではない。仮にCPIが支出額と同程度に低下していれば、価格下落の影響により支出額が減ったことになる。
「食料」と「被服及び履物」について、CPIを考慮した実質増減率を見ると、いずれも大幅に低下している(図表3)。「食料」について1989年と2014年を比較すると、男性では4.8万円から3.7万円(実質△34.7%)、女性では3.1万円から2.7万円(△25.8%)へ減少しており、男女とも3割程度も支出が減っている。また、「被服及び履物」は男性では1.1万円から約5千円(実質△58.6%)、女性では2.1万円から約9千円(△61.6%)へ減少しており、男女とも実に6割程度も支出が減っている。男女とも「被服及び履物」の実質増減率は、消費支出の主要項目の中で最も低下している。
このように、若年単身勤労者世帯では「食料」や「被服及び履物」の支出が大きく減っている。それぞれの内訳の変化を大まかに述べると、「食料」の減少は男性では主に外食費の減少、女性では各種食材の全体的な減少によるものである。また、「被服及び履物」の減少は、男女とも「洋服」や「シャツ・セーター類」をはじめとした個別品目の全体的な減少によるものである。これらの詳細については後続レポートの個別分析にて、社会環境の変化等にも触れながら見ていくこととする。
一方、「住居」はCPIの上昇幅を上回って増加しており、物価上昇の影響以上に増えている。1989年から2014年にかけて、「住居」は男性では1.8万円から3.9万円(+79.3%)、女性では2.7万円から4.2万円(+29.6%)へ増えており、特に男性で著しく増加している。
この点については、「全国消費実態調査」では、2009年より調査対象から下宿や賄い付き世帯を除いている。よって、「住居」の内訳の大半を占める「家賃」の平均額が増えたことで住居費が増えた可能性がある。また、このことは「光熱・水道」の支出増にも影響している可能性がある。
また、バブル期以降で長らく続く景気低迷を背景に、福利厚生制度を縮小する企業も出てきたこと(社宅保有率の低下1、住宅補助制度の縮小等)や若年層における非正規雇用者の増加などから、勤務先の福利厚生制度を利用できずに、自ら家賃を払わざるを得ない層が増えたことで、「家賃」の平均額が増えた可能性もある。
以上より、住居費の増加は、若者が住環境にこだわるようになり、お金をかけるようになったというよりも、調査対象の違いや景気低迷といった外的要因の影響が大きいだろう。
さて、1999年前後で増減している「交通・通信」と「教養娯楽」については、それぞれの内訳に近年のCPIの動向が大きく異なるものが含まれているため、項目全体としては傾向が捉えにくい。例えば、「交通・通信」のCPIは、1989年から2009年まで低下傾向を示して2014年に上昇しているが、内訳に含まれる「交通」のCPIは一貫して上昇傾向にあり(1989年を100.0とすると2014年は121.2)、「通信」は低下傾向にある(同様に2014年は68.9)2。また、「教養娯楽」のCPIは一旦上昇した後に近年低下しているが、内訳である「教養娯楽用耐久財(テレビやパソコン、カメラなどの家電製品等)」のCPIは大幅に低下している(1989年を100.0とすると2014年は5.9)。一方、「教養娯楽サービス(旅行費や月謝類等)」のCPIは上昇している(同様に2014年は119.7)。よって、後続レポートにて個別品目の状況を見ていきたい。
1 財団法人労務行政研究所「社宅・独身寮の最新動向(2008)」
2 総務省「消費者物価指数」
一方、「住居」はCPIの上昇幅を上回って増加しており、物価上昇の影響以上に増えている。1989年から2014年にかけて、「住居」は男性では1.8万円から3.9万円(+79.3%)、女性では2.7万円から4.2万円(+29.6%)へ増えており、特に男性で著しく増加している。
この点については、「全国消費実態調査」では、2009年より調査対象から下宿や賄い付き世帯を除いている。よって、「住居」の内訳の大半を占める「家賃」の平均額が増えたことで住居費が増えた可能性がある。また、このことは「光熱・水道」の支出増にも影響している可能性がある。
また、バブル期以降で長らく続く景気低迷を背景に、福利厚生制度を縮小する企業も出てきたこと(社宅保有率の低下1、住宅補助制度の縮小等)や若年層における非正規雇用者の増加などから、勤務先の福利厚生制度を利用できずに、自ら家賃を払わざるを得ない層が増えたことで、「家賃」の平均額が増えた可能性もある。
以上より、住居費の増加は、若者が住環境にこだわるようになり、お金をかけるようになったというよりも、調査対象の違いや景気低迷といった外的要因の影響が大きいだろう。
さて、1999年前後で増減している「交通・通信」と「教養娯楽」については、それぞれの内訳に近年のCPIの動向が大きく異なるものが含まれているため、項目全体としては傾向が捉えにくい。例えば、「交通・通信」のCPIは、1989年から2009年まで低下傾向を示して2014年に上昇しているが、内訳に含まれる「交通」のCPIは一貫して上昇傾向にあり(1989年を100.0とすると2014年は121.2)、「通信」は低下傾向にある(同様に2014年は68.9)2。また、「教養娯楽」のCPIは一旦上昇した後に近年低下しているが、内訳である「教養娯楽用耐久財(テレビやパソコン、カメラなどの家電製品等)」のCPIは大幅に低下している(1989年を100.0とすると2014年は5.9)。一方、「教養娯楽サービス(旅行費や月謝類等)」のCPIは上昇している(同様に2014年は119.7)。よって、後続レポートにて個別品目の状況を見ていきたい。
1 財団法人労務行政研究所「社宅・独身寮の最新動向(2008)」
2 総務省「消費者物価指数」
(2016年06月13日「基礎研レター」)

03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/02/18 | 家計消費の動向(~2024年12月)-物価高でメリハリ傾向が強まるが、全体では緩やかに改善傾向 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/02/13 | 2025年の消費動向-節約一服、コスパ消費から推し活・こだわり消費の広がり | 久我 尚子 | 研究員の眼 |
2025/02/12 | 少子化とランドセル市場-2024年はやや縮小するも、10年前と比べて2割増 | 久我 尚子 | 基礎研レター |
2025/02/06 | インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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【若年層の消費実態(2)-食料費や被服費の減少と住居費の増加、薄まる消費内容の性差】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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