2025年04月22日

家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 2025年2月の個人消費は1年前と比べれば改善しているが足踏み状態が続いている。この背景には、実質賃金の上昇に不足感があることがあげられる。今年の春闘は、高水準であった昨年を更に上回る結果であったが 、相対的に賃上げ率の低い中小零細企業勤務者や、従来から正規雇用者と比べて賃金水準の低い非正規雇用者など、先行き不安の強い労働者は多いだろう。
     
  • 総務省「消費動向指数」にて二人以上世帯の消費支出を見ると、世帯当たりの消費は単身世帯を含めた全体と比べて抑制傾向にある。内訳を見ると、食料や日用品などの生活必需的な消費を抑制しながら、旅行やレジャーなどの娯楽やそれに付随する消費は一定の支出を維持する傾向があり、「メリハリ消費」の傾向が見て取れる。
     
  • なお、娯楽関連の中でも温度差があり、相対的に費用を抑えやすい国内旅行や遊園地などは選ばれやすい一方で、円安の影響もあり割高感の強い海外旅行は控えられる傾向がある。交通関連では、「レンタカー・カーシェアリング料金」が増加傾向にあり、公共交通機関と比べて自由度の高い移動手段を選好する傾向が強まっている
     
  • 外食の伸び率は緩やかだが改善傾向を維持している。2024年夏にかけては米不足への懸念や価格上昇を背景にした買い込み需要から、「米」を中心に穀類全体の消費が伸びている。電子書籍などのデジタルコンテンツについては一定の支出が維持されており、生活の中で一定の価値を持つものとして定着している様子がうかがえる。
     
  • 消費行動には、可処分所得の水準や消費者の中長期的な経済見通しが大きく影響を与える。2025年も昨年に続き高い賃上げ水準が見込まれており、年後半には賃金の上昇率が物価上昇率を安定的に上回るとの予測がある 。こうした環境が整えば、消費者の実質的な購買力が高まり、これまでの「節約」を重視したメリハリ消費にも変化が生じ、全体として消費が活発化していくことが期待される。


■目次

1――はじめに~1年前より改善しているが足踏み状態、実質賃金の伸びに不足感
2――二人以上世帯の消費支出の概観
 ~生活必需品を抑え、娯楽は維持するメリハリ消費
3――主な個別費目の状況
 ~物価高で使途(メリハリ消費)の工夫、利便性重視やデジタル娯楽は定着化
 1|旅行・レジャー
 ~暖冬で屋内より屋外の娯楽、物価高で費用を抑えやすい国内旅行やレジャーが選好
 2|交通
 ~価格上昇でも公共交通機関より自由度の高いカーシェアが選好、バス・タクシーは供給不足も
 3|アパレル・メイクアップ用品
 ~スーツ需要は一時的な需要喚起の後に反転、女性服は横ばい
 4|食事
 ~外食は回復基調、物価高で高価格な食品は買い控えも利便性食品は堅調、米の買い込み行動
 5|デジタル娯楽
 ~物価高でも支出額を減らさない、デジタルコンテンツは生活に定着
4――おわりに
 ~物価高で模索されるメリハリ消費、賃金上昇が節約志向を和らげ消費活発化への期待も

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月22日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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