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- 二極化するアベノミクスの浸透度~若年層と地方部ほど差の出る景況感
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今年4月、消費税率が上がったが、個人消費の落ち込みは想定内の範囲、現在は徐々に戻りつつあり、7-9月期で回復に向かうという見通しが多い。しかし、消費者の実感としては、本当に景気は良くなっているのか?暮らし向きは良くなっているのか?という疑問の声もある。
昨年から、賞与や残業代などが増え、名目賃金は増加しているが、物価の上昇がそれを上回っているため、実質賃金は減少している。日常生活に関わる商品では、値上げが相次いでおり、円安による輸入飼料や原材料の高騰で、卵やバター、牛乳、食用油などの値段が上がっている。物価の優等生と言われてきた卵も、1パック(Lサイズ10個入り)の値段は、ここ数年は220円前後を推移していたが、今年に入り240円を上回っている 1。海外旅行についても、円安による割高感が解消されず、海外旅行業者の業況指数はマイナスが続いている 2。
一方で、活発な消費が見られる領域もある。百貨店の売上高は、増税直後の4-5月を除けば、その他はおおむね前年同月を上回っている 3。特に、美術・宝飾・貴金属といった贅沢品の売上高の上昇幅は大きく、2013年1月から前年同月比+5%以上を維持し続けている。また、今夏の海外旅行の予約状況をみると、比較的値段の高い「中距離方面へのシフト」がキーワードのようだ。今年の1位はホノルルであり、ロンドンやパリも、羽田発着枠の拡大も影響しているようだが、順位をあげている 4。一方、昨年1位のソウルは5位へと順位を落としている。
このように温度差のある背景には、消費者の間で二極化が生じていることが考えられる。二極化には、(1)正規雇用者と非正規雇用者、(2)有価証券などの金融資産保有率が高い世帯と低い世帯、(3)都市部居住者と地方部居住者、などがあげられる。
(1)正規雇用者と非正規雇用者については、正規雇用者では、この春、一部企業ではベースアップの話題もあり、名目賃金だけでなく実質賃金が増加した雇用者もいるだろう。また、実質賃金が増えていない場合でも、雇用が安定的な正規雇用者では、賞与や残業代などの一時的な賃金増であっても、消費意欲は高まりやすい。しかし、正規雇用者より賃金水準が低く、不安定な立場で働いている非正規雇用者では、目先の賃金が増加しても消費意欲は高まりにくいだろう。
(2)有価証券保有率の違いについては、株高の恩恵を受けているかどうかということだ。日本では、世帯主の年齢が高い世帯ほど有価証券保有率は高く、若年世帯では保有率が低い傾向がある 5。
また、(1)の雇用形態についても、若年層ほど雇用者に占める非正規雇用者の割合は高い。よって、(1)と(2)については、若年層と比較的年齢の高い層における二極化と言い換えることもできるだろう。
(3)都市部居住者と地方部居住者については、都市規模別に実収入や可処分所得の推移をみると、いずれも、昨年から名目賃金は増加しているものの、物価の上昇により実質賃金は低下、という同様の傾向を示している。しかし、マイナスに転じた時期やその度合いが異なっている。都市規模が小さいほど、物価の上昇に対して賃金が増加していない。安倍政権発足以降の実収入と可処分所得の増減率の前年同月比の平均値を計算すると、都市規模が小さいほど、値は小さくなる(図)。
企業業績は全体的に改善傾向にあり、2013年度の地方税収は、業績が改善した企業からの税収が増え、2008年度以来の高水準だ。しかし、都市部と地方部では業績の改善状況に差があり、賃金への反映にも差が出ているということだろう。
このまま景気回復が進めば、じわじわと二極化は解消されるのだろうが、現在のところ、(1)~(3)より、若年層と地方部居住者ほど、アベノミクスの恩恵を受けられておらず、景況感を感じにくいということになる。
5月に「日本創成会議」は、人口の再生産力を示す20~39歳の女性人口を推計し、2040年までに当該人口が半分以下になる「消滅可能性都市」は、49.6%に上ることを発表した 6。少子化の進行を食い止め、人口規模を維持するために、より出生率の低い都市部への人口集中に歯止めをかけ、若者にとって魅力ある地方拠点都市を創設することなどをまとめている。地方拠点都市とその周辺に就労環境や教育・研究機関を整備し、通勤時間や生活コストの軽減を図ることで、地方部に若者が安心して子を生み育てられる環境を整備する。
個人が選択する働き方や家族形成について、人口1億人維持という大義を振りかざされても、若者の心には響きにくいだろう。しかし、若者にとって真に利点があり、豊かな生活を想像できるような魅力的な地方拠点都市ができるのであれば、若者は自然に移動する。そして、現在のような二極化も生まれにくい、多くの国民が豊かさを感じる社会の形成につながる。
(2014年07月15日「研究員の眼」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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