2021年09月01日

世界各国の金融政策・市場動向(2021年8月)-金融政策正常化の動きが進む

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:金融政策正常化の動きが進む

8月に各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【金融政策】


【株価・対ドル為替レートの動き】
・株価は月中に下落する局面も見られたが、月末にかけて上昇した(図表1)。
・為替レートはドル高傾向が持続した(図表2)。

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する50か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:新興国を中心に金融引き締め・正常化の動き

まず、主要地域の金融政策を見ていく。

8月は日本・米国・ユーロ圏では金融政策を決定する会合は開催されていない。その他の国では、チェコ、ブラジル、メキシコ、ハンガリー、韓国で政策金利の引き上げが決定され、コロナ禍後の金融緩和からの正常化を模索する動きが目立った。

これらの国のうち、韓国はコロナ禍後で初めての利上げ、チェコとメキシコは6月に続く2会合連続の利上げ、ハンガリーは6・7月に続く3会合連続の利上げ、ブラジルは4会合連続の利上げとなっている。特にブラジルでは足もとの消費者物価の上昇(7月で前年同月比8.99%、インフレ目標は3.75±1.5%)を懸念し、今回の会合では1%の利上げを決定、5.25%と2019年10月(5.5%)以来の水準まで引き上げている。また、ハンガリーでは、今回の利上げと同時に資産購入策における購入ペースの減額を決定している。

また、8月は27日にジャクソンホール会議が開かれ(昨年と同様にオンライン開催)、特にFRBのパウエル議長の発言に注目が集まっていた。実際の発言内容は、量的緩和の縮小(テーパリング)の開始時期について年内開始が適当であるとの見解など事前予想に沿ったものと言え、サプライズはなかったと言える。

3.金融市場:株価は上昇、為替はドル高傾向が継続

MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比+2.4%、先進国が前月比+2.3%、新興国が前月比+2.4%となった。月中に大きく下落する局面もあったが、月末にかけて回復している。
(図表3)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 国別の株価の動きを見ると、8月は対象国50か国中、40か国が上昇、10か国が下落となった(図表3)。新興国のうち、7月に大きく下落した中国については、前月比ではほぼ横ばいだった。

今月は、アルゼンチンの株価の急騰が目立っている(図表4)。首都ブエノスアイレスで発生していた対外債務不履行の再編が進展しているとの報道や、同国がIMFから借り入れている450億ドル規模の債務に関する再編や追加支援交渉を行うとの動きが市場に好感されたと見られる2
(図表4)各国の株価変動率
通貨の騰落率を見ると、対ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比▲1.5%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比▲1.3%となりドル高が継続している3(前掲図表2)。
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、39通貨中20通貨が対ドルで下落(ドル高)となっているが、個別の通貨でみると自国通貨高(ドル安)となっているものも散見される(図表5)。

前月比で大きな変動を見せた通貨はなかったが、コロンビアペソやインドルピーなどで上昇が見られた。ジャクソンホール会議においてパウエル議長が早期のテーパリング懸念を払拭した形になったため、新興国の弱含み安い通貨で反動増(自国通貨高)が見られた形になっている(図表6)。なお、パキスタンルピーは下落しているが、これにはアフガニスタン情勢の緊迫化も影響を及ぼしていると見られる。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
 
2 ただしMSCIに組み入れられているアルゼンチンの銘柄は3銘柄のみで、特に1銘柄(IT関連株のGlobant)のウエイトが高いので、株価変動の要因としては特定銘柄の起因するものも大きい。
3 名目実効為替レートは2021年8月23日の前月末比で算出。

 
(参考)主要国の新型コロナウィルス拡大後の金融政策一覧
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年09月01日「経済・金融フラッシュ」)

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