2021年07月26日

ECB政策理事会-新戦略のもとフォワードガイダンスを大幅修正

経済研究部 准主任研究員   高山 武士

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1.結果の概要:フォワードガイダンスを修正

7月22日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
フォワードガイダンスを変更(戦略見直しを受けインフレ見通しと紐づける形で修正)
具体的な金融政策手段についての変更はなし(PEPPの購入ペースも維持)

【記者会見での発言(趣旨)】
足もとの状況は6月の資金調達環境とインフレ見通しの評価に沿うものである
リスクは中立的である(変更なし)
多くの企業・家計に対する資金調達環境は引き続き良好な水準にある
以前ほど感染拡大が経済に悪影響を及ぼさないようになっている

2.金融政策の評価:戦略見直し後の初めての理事会

今回の政策理事会は、7月上旬に公表された戦略見直し1後の初めての理事会となった。

今回の理事会では、新戦略を受けて声明文におけるフォワードガイダンスが大きく修正され、また一般市民との情報伝達を企図したと見られる「一目でわかる金融政策声明(Our monetary policy statement at a glance)」のページ2が設けられている。

一方、声明文の公表、記者会見における冒頭説明や質疑応答については従来の形式に沿って実施され、戦略見直しを受けて、フォーマットについてはやや変更されたが、それほど抜本的な変更ではないような印象だった(現在の金融政策運営と整合的になるように、戦略を見直したのであるので当然かもしれない)。その中では、例えば、以前からECBが重要視している「良好な資金調達環境」について、金融・通貨環境のなかで「良好な水準になる」と明文化するなど、定性的な評価を示したことでECBのスタンスが分かりやすくなった部分があるなど工夫も感じられた。

また、大幅に変更されたフォワードガイダンスについては、理事会のインフレ見通しに紐づける形で従来よりも具体的で分かりやすくなった。

ラガルド総裁は質疑応答でも3つの重要な基準からなると言及しており、(1)見通し期間(四半期毎にECBのスタッフにより作成される経済見通しの対象期間)の中頃でインフレ見通しが2%に達すること、(2)その後、見通し期間終了までに安定的に2%となること、(3)足もとのインフレ基調が中期2%の達成に照らしてきちんと進展していること、の3条件が現在の政策金利を引き上げる条件になった。

ユーロ圏では世界金融危機後のほとんどの期間においてインフレ率が2%を下回っていることに鑑みれば、戦略見直しで目標を2%と対称にした(これまでは「2%に近いがやや下回る」だった)ことで、これまでよりも利上げに対しては慎重になったと言えるが、それがフォワードガイダンスでより明確に明文化されたことになった。

なお、今回はPEPPの購入ペースなど具体的な金融政策手段については変更されなかった。質疑応答では、6月の見通しにおけるインフレ率見通しが22・23年で1.5%以下であることや、フォワードガイダンスと照らして追加緩和すべきではないかとする質問が見られた。ラガルド総裁は、今回は追加緩和への明言を避けたが、次回の9月の会合では新しい見通しが公表されるタイミングであるので、PEPPのペースの変更を含めて理事会の評価・判断がより注目されるだろう。

3.声明の概要(金融政策の方針)

7月22日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 最近の戦略見直しで、理事会は中期的に2%という対称的なインフレ目標に合意した
    • ECBの政策金利(key ECB interest rate)は下限近くに達しており、中期的なインフレ見通しは理事会の目標を依然として下回っている
    • こうした状況に鑑みて、理事会は政策金利のフォワードガイダンスを修正した
    • これはインフレ目標に向けた持続的な緩和政策を維持するというコミットメントを強調するものである
 
  • 対称的な2%のインフレ目標と金融政策戦略に沿って、見通し期間が終わるかなり前(well ahead)までにインフレ率が2%に達し、その後見通し期間にわたって持続的に推移すると期待され現実に中期的な2%に向けたインフレ率の安定という十分な進展が見られると判断されるまでは、理事会は政策金利を現在もしくはより低い水準で維持する
    • そのため、一時的にインフレ率が目標をやや上回る可能性もある
 
  • 6月の資金調達環境とインフレ見通しの評価を再確認し、理事会はこの四半期におけるPEPPの購入ペースの年初と比べた大幅な加速を見込んでいる
 
  • 理事会はまた、物価安定目標のためのその他の手段、つまり政策金利、APP、元本償還の再投資、長期資金供給オペについて承認した
 
(政策金利)
  • 政策金利の維持(変更なし)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
    • 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
    • 預金ファシリティ金利:▲0.50%
 
  • (冒頭のフォワードガイダンスの再掲)(変更)
 
(資産購入プログラム:APP)
  • APPの実施(変更なし)
    • 月額200億ユーロの純資産購入を実施
    • 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
    • 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
 
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APPの元本償還分は全額再投資を実施
    • 政策金利を引き上げ、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
 
(パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • PEPPの継続(政策の変更なし)
    • 総枠1兆8500億ユーロの純資産購入を実施
    • 購入期間は少なくとも2022年3月末、そして新型コロナ危機が去るまで実施する
 
  • 最近の情報は6月の政策理事会で決定された資金調達環境とインフレ見通しの評価を再確認するものであり、この四半期におけるPEPPの購入ペースは年初と比べて大幅な加速を見込んでいる(政策の変更なし)
 
  • 理事会は、市場環境を見つつ資金調達環境のひっ迫(tightening)を防ぎ、感染拡大によるインフレ見通しの下方圧力に対抗するという観点から柔軟に購入を実施する(変更なし)
    • 理事会は、実施期間・資産クラス・国構成に関して柔軟に購入を行うことで、円滑に金融政策が伝達するよう支える
    • PEPPは良好な資金調達環境が維持される場合は総額を利用する必要はない。平等に、必要があれば枠(増額)の再調整を行う
 
  • PEPP元本償還分の再投資の実施(変更なし)
    • PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2023年末まで実施する
    • 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
 
(資金供給オペ)
  • 十分な流動性供給の実施(政策の変更なし)
    • リファイナンスオペを通じて十分な流動性供給を継続
    • TLTROⅢによる資金は、引き続き金融機関に対する、企業・家計への貸出支援としての魅力的な資金源となっている
 
(その他)
  • 追加緩和へのスタンス(変更なし)
    • インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • 本日の理事会では、2つの主要論点に焦点をあてた
    • 第1に、政策金利のフォワードガイダンスに対する戦略見直しの意味
    • 第2に、経済とパンデミックへの対応策への評価
       
  • 戦略見直しでは中期的に2%という対称的なインフレ目標に合意した
    • 政策金利は下限近くに達しており、中期的なインフレ見通しは目標を依然として下回っている
    • こうした状況に鑑みて、理事会は政策金利のフォワードガイダンスを修正した
    • これはインフレ目標に向けた持続的な緩和政策を維持するというコミットメントを強調するものである
       
  • 対称的な2%のインフレ目標と金融政策戦略に沿って、見通し期間までにインフレ率が2%に達しその後見通し期間にわたって持続的に推移すると期待され、現実に中期的な2%に向けたインフレ率の安定という十分な進展が見られると判断されるまでは、理事会は政策金利を現在もしくはより低い水準で維持する
    • そのため、一時的にインフレ率が目標をやや上回る可能性もある
       
  • ユーロ圏の回復は軌道に乗っている
    • 多くの人々がワクチン接種を受けており、ロックダウンの制限はほとんどの国で緩和にむかっている
    • しかしながら、パンデミックは引き続き影を落としており、特にデルタ株による不確実性は増している
    • インフレ率は上昇したが、大部分が一時的なものと見られる
    • 中期的なインフレ見通しは抑制されている
       
  • 我々はコロナ禍期間、経済のすべて部門への良好な資金調達環境を維持する必要がある
    • これは現在の回復を持続的な成長につなげ、コロナ禍のインフレ率への悪影響を相殺するために不可欠である
    • したがって、6月の資金調達環境とインフレ見通しへの評価を再確認した結果、この四半期におけるPEPPの購入ペースは年初と比べて大幅な加速を見込んでいる
       
  • 我々はまた、物価安定目標のためのその他の手段、つまり政策金利、APP、元本償還の再投資、長期資金供給オペについて、声明文にある詳細の通り、承認した
    • 我々は、インフレが中期的な2%の目標に向け安定して推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
       
  • ここでは経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • 経済は今年の4-6月期に行動制限の緩和にともなって回復しており、7-9月期に向けた強い成長に乗っている
    • 製造業は、短期的には供給制約によって生産が抑制されているものの、力強い成長が見込まれる
    • 経済の大部分が再開されたことがサービス業の力強い回復を支えている
    • しかしながら、デルタ株はサービス業の回復、特に旅行業や接客サービス業の回復を冷やす可能性がある
       
  • 人々がお店や飲食店に戻り、旅行が回復していることから消費支出は改善している
    • 雇用見通しの改善、景況感の回復、政府支援の継続が消費を後押ししている
    • 域内と世界的な重要の回復が、事業環境への楽観的な見方を加速させている
    • これが投資を支えている
    • コロナ禍以降ではじめて、我々の貸出動向調査において、企業の貸出需要をけん引する最も重要な要因が固定資本投資となった
       
  • 経済活動は来年の1-3月期にコロナ禍前の水準まで回復すると見ている
    • しかしながら、コロナ禍による経済への被害が相殺されるまでの道のりはまだ長い
    • 雇用維持政策の利者が減少しているが、依然として高水準にある
    • 全体で見て、コロナ禍前と比較して、雇用はまだ330万人少なく、特に若年層や低技能者で顕著である
       
  • 野心的、重点的で協調した財政政策は引き続き金融政策を補完し回復を支えるべきである
    • この文脈において、次世代EUプログラムは重要な役割を担っている
    • これはユーロ圏各国での力強く均一な回復に貢献すると見られる
    • これはまた、グリーンやデジタルへの移行を加速させ、長期的な成長力を高めるために必要な構造政策を支援するだろう
 
(インフレ)
  • 6月のインフレ率は1.9%となった
    • 我々はインフレ率が今後数か月でさらに上昇し、来年には再び低下すると見ている
    • 現在の上昇は大部分がエネルギー価格の上昇と、コロナ禍で原油価格が急落した際のベース効果、昨年のドイツの一時的なVAT引き下げの影響によりもたらされている
    • 2022年の初めにはこうした要因による前年比で見たインフレ率への影響は解消すると見られる
       
  • 短期的には、経済の大きな弛み(slack)がインフレ圧力を抑制している
    • 力強い需要と供給網における一時的な原材料高の圧力が価格の上昇圧力となっている
    • しかし、賃金上昇率の弱さと過去のユーロ高によって、しばらくは物価圧力の弱さが続くと見られる
       
  • コロナ禍のインフレ率への影響が解消されるまでの道のりはまだしばらくある
    • 金融政策により支援されつつ、経済が回復することでインフレ率は、中期的に上昇するが依然として目標を下回ると見ている
    • 長期的なインフレ期待は上昇しているもの、我々の2%の目標からはまだ距離がある
 
(リスク評価)
  • 我々は経済見通しへのリスクは総じて中立的(balanced)と見ている
    • 消費者がコロナ禍期間中に積みあがった貯蓄を予想以上の速さで支出に回せば経済活動は予想を上回る可能性がある
    • コロナ禍の状況が急速に回復することで、想定以上に力強さが見られる可能性もある
    • しかしコロナ禍の深刻化や、供給制約の長期間の継続で生産が抑制されれば経済成長は予想を下回るだろう
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経済研究部   准主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

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