2021年07月01日

世界各国の金融政策・市場動向(2021年6月)-金融政策の引き締めの動きが広がる

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:金融引き締めの動きが広がる、為替はドル高にシフト

6月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【金融政策】



【株価・対ドル為替レートの動き】
・株価は米金融政策の引き締めを警戒し中旬に下落したものの、下旬にかけて回復した(図表1)。
・為替レートはドル高にシフトした(図表2)。

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する50か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:金融引き締めの動きが広がる

まず、主要地域の金融政策を見ていきたい。

6月は、日本・米国・ユーロ圏で決定会合が開催されているが、日本がコロナ禍の企業支援策の実施期間を調整したのみで、金融政策方針の大きな変更はなかった2。ただし、米国ではFRBが公表したFOMC参加者の政策金利見通し(いわゆる「ドットチャート」)が上方(利上げ方向)に修正されたために、ややタカ派な内容だったと評価された。

また、それ以外の国でもブラジルおよびロシアがそれぞれ3会合連続での利上げを決定し、またハンガリー・チェコ・メキシコにおいてもコロナ禍後で初となる利上げに踏み切っている。ワクチン接種により経済の正常化が進むなかで、世界的なエネルギー・一次産品価格の上昇がインフレリスクとして台頭してきたことが背景にあると見られる。先進国では緩和的な姿勢を続ける中央銀行が多いが、新興国では引き締めの動きが広がってきたと言える。
 
2 大きな金融政策方針の変更ではないが、日本では気候変動に関する資金供給の仕組みの導入、米国では超過準備付利金利(IOER)と翌日物リバースレポ金利の0.05%の引き上げ(IOER:0.10→0.15%、リバースレポ:0.00→0.05%)が決定されている。

3.金融市場:株価は下落後持ち直し、為替はドル高にシフト

MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比+1.2%、先進国が前月比+1.4%、新興国が前月比▲0.1%となった。
(図表3)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 国別の株価の動きを見ると、5月は対象国50か国中、30か国が上昇、20か国が下落という結果となった(図表3)。

今月は、米国のFOMC(15-16日)での政策金利見通しがややタカ派であったことやその週末にセントルイス連銀総裁が来年の利上げが自然であるとするタカ派的発言があったことで、中旬に売り圧力が強まった(前掲図表1)。ただし、その後は反動による買い圧力が強まり、先進国で前月比プラス、新興国でほぼ横ばいとなっている
(図表4)各国の株価変動率
各国の動向にはバラツキがあるが、今月はパキスタンやペルーで下落が目立った。パキスタンはMSCIが6月下旬に現在の新興国市場からフロンティア市場に分類変更する可能性について協議を開始することが発表され、株価も下落している。ペルーでは6日に大統領選(決戦投票)が実施され、憲法改正と天然資源会社への増税、国有化を目指すカスティジョ氏が優勢となったことを受けて大きく下落している。

通貨の騰落率を見ると、対ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比▲2.0%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比▲1.4%となり、大きくドル高方向にシフトした3(前掲図表2)。
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 中旬に前述のFOMCやFRB連銀総裁のタカ派的な姿勢を受けたドル買いが進み、その後やや反発したものの前月末と比較してドル高水準での推移となっている。

MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、39通貨中29通貨が対ドルで下落(ドル高)となっており、ドル全面高と言える(図表5)。

こうした中でも、ブラジルではレアル高・ドル安が進んでいる。これは、国内でインフレが加速しており、中央銀行が金融引き締め姿勢を強め3か月連続で合計2.25%ポイントと大幅に政策金利を引き上げており、今後も引き締めが続くと見られることが背景にあると言える。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
 
3 名目実効為替レートは2021年5月25日の前月末比で算出。
(参考)主要国の新型コロナウィルス拡大後の金融政策一覧
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年07月01日「経済・金融フラッシュ」)

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