2021年05月12日

コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?-50か国ランキング(2021年5月更新版)

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:20年の1位は台湾、足もとでは中国の評価が高い

2020年7月に新型コロナウイルスの感染拡大に対する影響について各国の状況を概観するために、「コロナ被害」および「経済被害」を数値化した上でランク付けし、10月および今年2月に更新版を作成してきた1。本稿は2021年5月上旬までの状況を踏まえたランキングの更新版である。
 
前回の更新版で言及した通り、コロナ禍は長期化しすでに1年以上が経過している。

そこで今回の更新版の作成にあたっては、2020年末までの時点でいったんランキングを確定させ、2021年以降の状況に基づいた評価を新たに行っている。

2020年の評価については、主に昨年春や冬の感染拡大大期の対応結果が反映されたもの、21年以降の評価については、最近のワクチン接種や変異株の流行への対応がより反映されたものとなっていると思われる。

5月9日時点までのデータをもとに再評価をしたところ、結果は以下の通りとなった。
 

【評価結果】
2020年の総合順位は、台湾・韓国・ノルウェーの順に高評価となった。
2021年の総合順位(現時点)は、中国、ニュージーランド、ノルウェーの順に高評価となった。
・21年の評価が低い国は、21年2月のランキングに続き欧州及び南米に多い。これらの国では感染者数が多く、また成長率も大きく落ち込んでいる傾向にある。ただし、欧州でも主に北法では順位の高い国がある。

 
1 前回の更新版は高山武士(2020)「新コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?-50か国ランキング(2021年2月更新版)」『経済・金融フラッシュ』2021-02-15。本稿の分析対象国は、前回の対象国(MSCI ACWIの指数を構成する 49 カ国・地域)に加えて、問い合わせの多かったベトナムを加えて50か国・地域としている(新規にMSCI ACWIに追加されたクウェートは除いている)。また、中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除くことし、香港等の地域も含めて「国」と記載する。評価は、「コロナ被害」(感染拡大)と「経済被害」をいずれも小さく抑えている国という観点から実施し、具体的には「コロナ被害」は「①累積感染者数」「②感染拡大率」「③致死率」のデータ、「経済被害」はコロナ禍によって失われたGDPの損失を推計して評価している。より詳細な手法については、次のレポートを参照。高山武士(2020)「新型コロナウイルスと各国経済-コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?49か国ランキング」『ニッセイ基礎研レター』2020-07-03

2.結果の詳細:変異株の流行とワクチン接種の進展に注目が集まる

【評価方法(変更点)】
主な評価方法はこれまでと同じであるが、今回は、2020年の評価を行うにあたって感染者数・死亡者数を20年12月31日のデータで確定させた。また、将来の感染状況の目安として用いていた感染拡大率については年末時点での拡大状況を考慮せず、すべて5.5点の評価(平均点)とした。経済被害については、20年GDPの実績値(一部は見込み)を採用している2

21年以降、直近までの評価としては、感染者数・死亡者数を21年5月上旬のデータに更新したほか、累積データを求める際には21年以降の累積数とした3。「経済被害」の算出のために用いたGDP見通しを、主に今年4月に公開されたIMF見通しで更新している4
 
2 前回まではインド・エジプト・パキスタンについては年度ベースのデータを用いていたが、今回は20年暦年データの確定値とするために、暦年の成長率を推計している。
3 感染拡大率(=直近2週間の感染者数/累積感染者数)では分母を21年以降の感染者数としている。また、致死率(=(21年以降の死亡者数)/(21年以降の感染者数))の計算では、一部の死亡者については、20年時点の感染者としてカウントされている可能性があるが、そうしたズレは考慮していない。
4 コロナ禍前の21年のGDP見通し(ベースライン)とコロナ禍後の最新の21年のGDP見通しを比較している。
【2020年の結果】
2020年の結果は、図表1の通りであり、台湾・韓国・ノルウェーの順に高評価となった。

これらの国では、感染者数も少なく、GDP損失も小さく抑えており、「コロナ被害」の抑制と「経済被害」の抑制を両立している点が共通している。なお、日本も5位であり、他国と比較すると相対的に「コロナ被害」も「経済被害」も小さかったと言える。

トルコやアイルランドは「経済被害」は小さいが、コロナ被害がやや大きく順位を落としており、一方でニュージーランドやタイは「コロナ被害」は小さいが「経済被害」が大きいため順位が落ちている。ニュージーランドやタイはコロナ禍による移動制限の影響を大きく受ける観光関連産業が主要産業の一つであるといったことが「経済被害」が大きくなった要因と言えるだろう。

低評価の国は、スペインや英国など欧州が目立つ。これは、昨年春の感染拡大初期において、いち早く新型コロナが流行してしまったこと、それにより厳しいロックダウンをせざるを得なかったことなどが大きく影響していると見られる。また、ペルーやアルゼンチン、コロンビアといった南米でも「コロナ被害」と「経済被害」の双方の点数が低い国が散見される。
(図表1)各国のコロナ対応の評価(2020年)
【2021年の結果】
21年以降、直近までのデータを反映させた結果は図表2の通りである。上位国は中国・ニュージーランド、ノルウェーとなった。

20年の結果で上位国となった台湾や韓国は感染拡大率が高めであることから順位を落としている。ただし、累積の感染者数が多いわけではないため、感染者数が少ない状況が続けばコロナ被害も小さく抑制できると見られる。

下位国では、20年でも順位が低かった南米や欧州の国が集中している。欧州ではハンガリーやチェコといった東欧の国で順位を落としている点も特徴と言える。

21年以降の新型コロナウイルスをめぐる動向では、変異株の流行やワクチン接種の進展が注目されている。

変異株の流行では、欧州などを中心に昨年末から今年かけて封じ込め政策の強化を余儀なくされた国が多く、21年の「GDP損失」を拡大させる要因になったと見られる。インドは、最近の感染拡大の中心地となっており、「コロナ被害」と封じ込め政策による「GDP損失」が拡大しているが、その一因として、ウイルスの変異による感染力強化や抗体の働きの低下といった影響が指摘されている。日本でも年明け以降、変異株の感染例が増えている。足もとでは一部地域に対して緊急事態宣言やまん延防止等重点措置も適用されているが、なかなか感染拡大は収束せず「コロナ被害」が相対的に大きくなっていることから、21年の順位は現時点で29位と20年の5位から大きく落ちこんでいる。
(図表2)各国のコロナ対応の評価(2021年)
ワクチンの普及に関しては多くの国で接種が開始されており、早い国では(接種対象となる)成人の大部分で接種が完了した国もある。例えばイスラエルではワクチン接種が進んだことで、新型コロナの感染者数も抑制されている状況にある(図表3)。

その他の国でも、欧米の主要先進国をはじめとして年内にはワクチン接種がかなり進展する見込みである(図表4)。今後は変異株の脅威が高まるなかで、ワクチン普及によって感染者数が抑制されていくのか、それにより経済回復がどの程度進むのかが注目される状況と言えるだろう。
(図表3)ワクチン接種状況と足もとの感染拡大状況/(図表4)主要国のワクチン接種状況
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2021年05月12日「経済・金融フラッシュ」)

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