2021年05月06日

世界各国の金融政策・市場動向(2021年4月)-ドル高傾向に歯止めがかかり、ドル安に

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:金融政策は現行政策を維持する国が多い

4月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【金融政策】


【株価・対ドル為替レートの動き】
・株価は米国を中心に多くの国で上昇した(図表1)。
・為替レートは年初からのドル高傾向に歯止めがかかりドル安に転じている(図表2)。

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する50か国・地域について確認する(2020年11月末よりMSCIの新興国としてクウェートが追加されている)。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:多くの国で現行政策の維持を決定

まず、4月の主要中銀の金融政策を振り返る。

4月は多くの主要国で金融政策の決定が実施されているが、ほとんどの中央銀行が現行政策の維持を決定している。主要中銀で目立った動きが見られたのは、カナダ、ロシア、インドである。

カナダでは国債購入策の購入ペースの減額が決定された。国債購入策の開始当初は週50億カナダドルであったが昨年10月に40億カナダドル、今年4月に30億カナダドルと段階的に減速させてきている。

ロシアでは3月に続く2会合連続での利上げを決定し、政策金利を4.50%から5.00%まで引き上げた。市場は4.75%までの引き上げを予想していたが、それ以上の引き締め姿勢を示した。前回も市場予想が据え置きの中で利上げをしており、中銀の積極的な引き締め姿勢が続いている。

インドは主要な政策金利は維持したものの、流通市場における新たな国債購入策(G-SAP 1.0: G-sec acquisition programme)の導入を決定した。RBI(インド準備銀行)ではこれまでも公開市場操作の一環として、国債の買い切り(流動性供給)を実施していたが、G-SAP 1.0では事前に国債購入額を明示している点に違いがあり、今回は2021年4-6月期で1兆ルピーの購入を決定している。RBIのバランスシート(の特定資産)金額を目標とした国債購入策という点では先進国などで実施されてきた量的緩和と類似しているが、流動性の罠の状況にある先進国中銀が実施する流動性の大量供給によるインフレ促進策とは異なる目的で実施されていると考えられる。RBIの主目的はイールドカーブの制御効果と見られ、特に、政府の国債発行を大量に控えているため、今後の金利急騰リスクの抑制という財政ファイナンス的な思惑もあると考えられる。

なお、トルコでは3月に総裁だったタカ派のアーバル氏が解任され、後任のハト派とみられるカブジュオール総裁を迎えた初の会合であったため、その決定に注目が集まっていたが、結果は政策金利の維持を決定し、様子見姿勢を示している。

3.金融市場:多くの国で株価は上昇、通貨はドル安に転じる

MSCI ACWIにおける月間騰落率を見ると、全体では前月比+4.2%、先進国が前月比+4.5%、新興国が前月比+2.4%となった。
(図表3)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 国別の株価の動きを見ると、4月は対象国50か国中、36か国が上昇、14か国が下落という結果となった(図表3)。先進国では株高となった国が多かったが、新興国ではペルーやチリ、コロンビアといった中南米においては株価下落も目立った。

先進国ではワクチン普及や大規模な財政政策の効果による経済正常化期待が高まる米国の上昇が目立っており、米国以外でもワクチン接種が進む国では経済正常化期待による株高圧力が生じていると思われる。一方、ワクチン接種が遅れ、新型コロナウイルスの感染拡大で3度目の緊急事態宣言が発令されている日本は先進国の中では数少ない前月比マイナスの国となった。
新興国ではペルーで大統領・議会選挙が実施され、大統領選で急進左派のカスティジョ氏が高い得票率を獲得したことで、社会主義的な思想に対する警戒感が市場に広がり、株が下落している(6月に決戦投票を控える)。また、チリやコロンビアでは政府に対する抗議活動が4月末から活発化しており、政情不安が高まっている。
(図表4)各国の株価変動率
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 通貨の騰落率を見ると、対ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比2.4%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比2.0%となり、先月までドル高が進行していたが、4月は反発してドル安となっている2(前掲図表2)。

米国において、FRBの金融緩和の継続観測が強まったことや米国債需要の高まりによって年初から続いていた米金利の上昇傾向が一服しており、為替でもドル高圧力が低下したと見られる。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、39通貨中33通貨が対ドルで上昇(ドル安)、6通貨が下落(ドル高)となった(図表5)。ドル高が進んだ通貨は、アルゼンチンペソやコロンビアペソ、インドルピーなどこれまでも弱含んでいた通貨が中心であり、こうした通貨についても4月の自国通貨の下落幅は限定的だった(図表6)。
 
2 名目実効為替レートは2021年4月30日の前月末比で算出。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年05月06日「経済・金融フラッシュ」)

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