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- 英国金融政策(6月MPC)-政策判断は8月まで先送り
2021年06月25日
1.結果の概要:金融政策の変更なし
6月22日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、24日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持(変更なし)
・国債および投資適格級社債を総額8950億ポンドまで購入する(変更なし)
【議事要旨(趣旨)】
・4-6月期のGDP成長率は5月の報告書時点の見通しより1.5%ポイント程度上方修正
・行動制限緩和の最終段階が延期されたことに対する直接的な経済への影響は軽微
・インフレ圧力がどの程度持続するかは未知数であり、中期的なインフレ期待の動向を注視することが重要
・マイナス金利導入の技術的な準備は適切に進んでいる(ただし、将来の特定時点でマイナス金利を行うというシグナルとして解釈すべきではない)
2.金融政策の評価:見通しは上方修正、インフレ率は予想より加速
イングランド銀行の今回のMPCでは、金融政策の変更はなかった。
景気判断では、直近の動向に基づき4-6月期の成長率見通しを5月時点の予想より上方修正した。また、英国では足もとの感染拡大を受けてイングランドで行動制限撤廃を延長、他地域でも制限緩和について見直している状況だが、経済への影響は軽微であると評価している。一方、インフレ率については、5月時点の予想を上回って加速しているとした。
ただし、回復が進展していることで下振れリスクは低下したものの、拙速な引き締めはすべきではなく、インフレ率についても政府の支援策が縮小された後の雇用所得環境など中長期的な動向に注視する必要があるとして、これまでの緩和的な金融政策姿勢を維持、引き締め姿勢をとることについては慎重な態度を強調している。
声明でも8月の金融政策報告書(MPR)を作成する際に、十分な経済見通しの評価を行う機会がある点を明示しており、金融緩和の出口を議論できる経済状況かといった判断は8月まで先送りした形となった。
景気判断では、直近の動向に基づき4-6月期の成長率見通しを5月時点の予想より上方修正した。また、英国では足もとの感染拡大を受けてイングランドで行動制限撤廃を延長、他地域でも制限緩和について見直している状況だが、経済への影響は軽微であると評価している。一方、インフレ率については、5月時点の予想を上回って加速しているとした。
ただし、回復が進展していることで下振れリスクは低下したものの、拙速な引き締めはすべきではなく、インフレ率についても政府の支援策が縮小された後の雇用所得環境など中長期的な動向に注視する必要があるとして、これまでの緩和的な金融政策姿勢を維持、引き締め姿勢をとることについては慎重な態度を強調している。
声明でも8月の金融政策報告書(MPR)を作成する際に、十分な経済見通しの評価を行う機会がある点を明示しており、金融緩和の出口を議論できる経済状況かといった判断は8月まで先送りした形となった。
3.金融政策の方針
今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
1 反対票はチーフエコノミストのハルデーン委員で、社債・国債の合計で8450億ポンド(500億ポンドの減額)を主張した。前回5月のMPCも8対1でハルデーン委員が反対していた。同委員は今回のMPC後に退任予定。
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- 委員会は現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
- 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 投資適格級の非金融機関社債で200億ポンド保有を維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 国債を総額8750億ポンド購入する(8対1で決定1)
- 資産購入額の総額は8950億ポンドとなる
- 5月以降、世界のGDP成長率は先進国を中心に予想よりもやや強かった
- 世界的なインフレ圧力は財への大きな需要、商品価格の上昇、供給・流通網のボトルネックを受けてさらに強まり、一部の先進国では消費者物価の上昇として顕在化し始めている
- 金融市場でのインフレ期待は、インフレ率の短期的な上昇は一時的なものにとどまることを示唆している
- 英国のGDPは行動制限の緩和を受けて、4-6月期のGDP成長率を5月の報告書から1.5%ポイント程度上方修正し、その結果6月の生産水準はコロナ禍前の19年10-12月期を2.5%程度下回るものになるだろう
- 回復は4月に制限が解除された対面型サービス業で最も顕著である
- 現在、多くの産業での生産はコロナ禍前付近の水準にある一方、一部の産業ではかなり下回ったままである
- 住宅市場は力強さを維持しており、消費者景況感は改善している
- 行動制限緩和の最終段階が延期されたことに対する直接的な経済への影響は、これまでの段階的緩和の影響と比べて軽微であると見られる
- 労働力調査基準の失業率は2-4月平均で4.7%までやや低下したが、労働市場の弛み(slack)はこの値が示唆する以上に大きいと見られる
- コロナ禍中に一部の人は職探しをやめ、非労働力人口として記録された
- これは、いつ・どれだけの人が職探しを始めるかという不確実性になっている
- 総じて、現在、かなりの生産力余剰(spare capacity)が存在すると判断される
- しかしながら、求人数はコロナ禍前の水準まで回復し、一部の職種・地域・業種では採用の難しさが増していることも示唆されている
- 民間部門の2-4月の(ボーナスを除く)賃金上昇率は前年比5.6%となった
- 賃金上昇率はコロナ禍で失われた労働者が低賃金での雇用者に偏る構成効果によりより伸び率が押し上げられている
- 加えて、20年の春および夏の賃金が落ち込んだことによる前年比のベース効果が生じており、5月・6月の賃金が上昇しなかったとしても、4-6月期の賃金の前年比伸び率は8%近くまで上昇する計算である
- 賃金伸び率の基調としては、コロナ禍前の伸び率程度であると見られる
- 前年比CPI上昇率は4月の15%から5月には2.1%まで上昇し、MPCの目標である2%を上回り、5月報告書の見通しよりも0.3%ポイント高い
- コアCPI上昇率も1.3%から2.0%まで上昇している
- 世界的な原材料価格の上昇圧力が製品価格や非石油の輸入価格に転嫁されつつある
- CPIインフレ率は、エネルギー価格やその他商品価格の上昇を受けて、さらに目標を上回って推移し、一時的には3%を超えると見られる。
- MPCは商品価格の上昇による直接的なCPIインフレ率への影響は一時的と見ている
- より一般的には、MPCの中央見通しでは、英国経済は一時的にGDPの力強い成長と目標を上回るCPI上昇率を経験するものの、その後は落ち着くと見ている
- 中央見通しには上下双方のリスクがあり、短期的なインフレ圧力が予想よりも大きい可能性もある
- 金融市場や家計・企業・専門家への調査結果も踏まえて、MPCは英国のインフレ期待は引き続き安定していると判断する
- MPCは、適切な金融政策姿勢を判断するにあたっては、金融政策方針(policy guidance)に沿って、一時的な要因ではなく、中期的な需給のバランスを含むインフレ期待に焦点をあてる
- MPCは引き続き状況を注視し、目的の達成のために必要な行動を実施していく
- MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての明確な証拠が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない
- MPCは8月の金融政策報告書(MPR)とその見通し作成の文脈の中で、さらに十分な経済見通しの評価を行う機会がある
- 委員会は今回の会合で、現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
1 反対票はチーフエコノミストのハルデーン委員で、社債・国債の合計で8450億ポンド(500億ポンドの減額)を主張した。前回5月のMPCも8対1でハルデーン委員が反対していた。同委員は今回のMPC後に退任予定。
4.議事要旨の概要
議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
(金融環境)
(供給、費用、価格)
(当面の金融政策決定)
(運用上の考慮事項)
2 最大1000万ポンドの貸出に対して80%の政府保証が付されるが、対象がコロナ禍の影響を受ける企業により限定されている。
(金融環境)
- 企業向け貸出需要はここ数か月低調であった
- 4月の企業向け貸出はネットで返済となったが、大企業が中心で中小企業は概ね変化はなかった
- これまでの政府保証策が4月に新政策(Recovery Loan Scheme)に変更になった2ことを受け、中小企業および零細企業向けの貸出環境は1-3月期から4-6月期に厳格化している
(供給、費用、価格)
- 雇用維持政策(CJRS:Coronavirus Job Retention Scheme)の利用者は5月の報告書で予想していたよりもかなり早く低下している
- 歳入関税庁(HMRC)の行政データによれば、4月の休業(一時解雇)者は360万人で民間雇用者の15%に相当、2月の500万人より低下した
- ONSの5月の調査(Business Insights and Conditions Surveys for May)では、さらに低下し200万人を下回った
(当面の金融政策決定)
- (金融政策の方針は第3節に記載の通り)
- コロナ禍以降、サービスからモノへだけでなく、業種内・企業内でも著しい需要のシフトが起きた
- 局所的には供給制約や費用増が発生しているため、経済全体に生産力余剰があったとしてもインフレ率を上昇させる可能性がある
- 最近のインフレ率の加速は、一部このような点から説明することができる
- これらが、どの程度続くかは現時点では不明である
- 世界的なインフレ圧力がどの程度続くかは不透明である
- これらの中には、原油やその他商品価格の上昇が含まれ、消費者物価の水準を恒久的に押し上げ短期的なインフレ率を上昇させる可能性があるが、中期的なインフレ圧力への恒久的な影響を意味するわけではない
- 物価水準の上昇がその後に戻る可能性も考えられる
- MPCは以前、リスク管理を考慮し金融政策姿勢を判断したと述べた
- 回復が続いていることで下振れリスクは低下したと判断したものの、依然として考慮が必要である
- 政策は、下振れリスクに強く対応できるものであり、拙速な金融引き締めによって回復が損なわれないようにする必要がある
- ほとんどの委員は、現在の状況は金融引き締めをするにあたって必要な条件ではあるものの、十分な条件ではないと判断した
- MPCの政策決定(引き締め)の条件を評価する際、生産力余剰とインフレ率の見通しがどう変化するか、そしてそれを取り巻くリスクを重視する
- 加えて、現在のインフレ圧力が一時的かより恒久的かといったことを含め、経済統計による確固たる証拠が示される必要がある
- 一方で、今後のデータで経済全体のインフレ圧力が示される可能性はある
- もう一方で、より長期の観点で、失業率や労働市場の弛み(slack)、賃金上昇率が、休業支援策の終了や政府支援策の段階的な縮小によりどの程度の影響が及ぶかにも重点を置く必要がある
- 中期的なインフレ期待の動向を注視することが重要といえる
(運用上の考慮事項)
- 2月のMPC議事要旨で、MPCは21年8月以降、適切と判断される場合におけるマイナス金利政策の適用について、内部での技術的な準備を要請していた
- 今回のMPCで準備が適切に進んでいるとの説明があった
- 技術的準備のなかで、中央銀行と英貨金融枠組み(Sterling Monetary Framework)上の取引先間での運用・法律上の文章について公表、更新するとの説明があった
- 2月にMPCが強調したように、これは将来の特定時点でマイナス金利を行うというシグナルとして解釈すべきではない
2 最大1000万ポンドの貸出に対して80%の政府保証が付されるが、対象がコロナ禍の影響を受ける企業により限定されている。
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(2021年06月25日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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