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- 日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは4ポイント低下の8と予想、設備投資計画も抑制的に
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2025年06月18日
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6月短観予測:製造業景況感は2期連続の悪化、トランプ関税が逆風に
(非製造業の景況感も悪化へ)
7月1日に公表される日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが8と前回3月調査から4ポイント低下し、景況感の悪化が示されそうだ(表紙図表1)。この場合、同DIの低下は2四半期連続となり、景況感の低迷が顕著になる。トランプ政権による相次ぐ関税の発動・拡大を受けた輸出環境の悪化が景況感の下押し圧力になったとみられる。また、大企業非製造業でも、コメを始めとする食品価格上昇による消費者マインドの低迷等を受けて、業況判断DIが32と前回比3ポイント低下すると予想している。
ちなみに、前回3月調査1では、トランプ関税の悪影響や中国経済の低迷等を受けて大企業製造業の景況感が小幅に悪化した一方で、インバウンド重要などに後押しされて、非製造業では景況感がやや改善していた(図表2・3)。
7月1日に公表される日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが8と前回3月調査から4ポイント低下し、景況感の悪化が示されそうだ(表紙図表1)。この場合、同DIの低下は2四半期連続となり、景況感の低迷が顕著になる。トランプ政権による相次ぐ関税の発動・拡大を受けた輸出環境の悪化が景況感の下押し圧力になったとみられる。また、大企業非製造業でも、コメを始めとする食品価格上昇による消費者マインドの低迷等を受けて、業況判断DIが32と前回比3ポイント低下すると予想している。
ちなみに、前回3月調査1では、トランプ関税の悪影響や中国経済の低迷等を受けて大企業製造業の景況感が小幅に悪化した一方で、インバウンド重要などに後押しされて、非製造業では景況感がやや改善していた(図表2・3)。
前回3月調査以降、米国のトランプ政権によって自動車関税(25%)、相互関税(一律10%、上乗せ関税は発動直後に延期)といった大規模な関税が発動され、鉄鋼・アルミ関税の税率も倍(50%)に引き上げられた。また、関税を巡る方針が二転三転し、日米交渉の決着もついていないため、先行きの不確実性も極めて高い状況になっている。このため、既に高関税が課せられている自動車や鉄鋼を中心に景況感が押し下げられていると考えられる。中国経済の低迷や円の強含みも輸出関連企業にとっての重石になる。
大企業非製造業では、コメなどの物価上昇による消費マインドの低迷や、物流費・人件費等のコスト上昇が景況感を下押ししたとみられる。一方で堅調なインバウンド需要や価格転嫁の進展が一定の支えになったと考えられる(図表4~7)。
中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から3ポイント低下の▲1、非製造業が4ポイント低下の12と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が下向きになると見込んでいる。
さらに、先行きの景況感も総じて悪化が示されると予想している(表紙図表1)。製造業では、トランプ関税の長期化やさらなる引き上げ、並びにそれに端を発する世界的な貿易摩擦への懸念が重石となる。非製造業でも、関税による悪影響の国内経済への波及のほか、物価高による消費の腰折れや各種コストの増加懸念が反映される形で、先行きの景況感が悪化すると見ている。
なお、6月13日にイスラエルがイランへ攻撃を開始し、中東情勢が緊迫化しているが、回収基準日後の情勢変化は織り込まれにくいことから、今回短観への影響は限られそうだ。
大企業非製造業では、コメなどの物価上昇による消費マインドの低迷や、物流費・人件費等のコスト上昇が景況感を下押ししたとみられる。一方で堅調なインバウンド需要や価格転嫁の進展が一定の支えになったと考えられる(図表4~7)。
中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から3ポイント低下の▲1、非製造業が4ポイント低下の12と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が下向きになると見込んでいる。
さらに、先行きの景況感も総じて悪化が示されると予想している(表紙図表1)。製造業では、トランプ関税の長期化やさらなる引き上げ、並びにそれに端を発する世界的な貿易摩擦への懸念が重石となる。非製造業でも、関税による悪影響の国内経済への波及のほか、物価高による消費の腰折れや各種コストの増加懸念が反映される形で、先行きの景況感が悪化すると見ている。
なお、6月13日にイスラエルがイランへ攻撃を開始し、中東情勢が緊迫化しているが、回収基準日後の情勢変化は織り込まれにくいことから、今回短観への影響は限られそうだ。
1 回収基準日は前回3月調査が3月12日、今回6月調査が6月12日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画も抑制的に)
2024年度の設備投資(実績・全規模)は、前年比7.0%増と前回3月調査(8.1%増)からやや下方修正されると予想(図表8~10)。
例年、6月調査(実績)では、大企業において下方修正が入ることで、全体として下方修正される傾向がある2。
一方、2025年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2024年度実績比で4.0%増と前回調査の0.1%増から上方修正されるものの、上方修正幅は3.9%ポイントと例年3に比べて小幅に留まると予想している。
例年、設備投資計画は計画の策定進捗と前年度実績の下方修正に伴って6月調査で大きく上方修正される傾向があるが、既に深刻化している建設領域での供給制約やコスト増に加え、トランプ関税による収益圧迫懸念と不確実性の高まりを受けて投資を見合わせる動きが強まりつつあるとみられるためだ。人手不足を背景とする省力化や脱炭素、DXの推進等に伴う投資需要が支えになり、前年比での増加見通しは維持されるものの、現段階では抑制的な計画が示される可能性が高い。
2024年度の設備投資(実績・全規模)は、前年比7.0%増と前回3月調査(8.1%増)からやや下方修正されると予想(図表8~10)。
例年、6月調査(実績)では、大企業において下方修正が入ることで、全体として下方修正される傾向がある2。
一方、2025年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2024年度実績比で4.0%増と前回調査の0.1%増から上方修正されるものの、上方修正幅は3.9%ポイントと例年3に比べて小幅に留まると予想している。
例年、設備投資計画は計画の策定進捗と前年度実績の下方修正に伴って6月調査で大きく上方修正される傾向があるが、既に深刻化している建設領域での供給制約やコスト増に加え、トランプ関税による収益圧迫懸念と不確実性の高まりを受けて投資を見合わせる動きが強まりつつあるとみられるためだ。人手不足を背景とする省力化や脱炭素、DXの推進等に伴う投資需要が支えになり、前年比での増加見通しは維持されるものの、現段階では抑制的な計画が示される可能性が高い。
2 直近10年間(2014~23年度)における6月調査(実績)での修正幅は平均で▲2.1%ポイント。
3 直近10年間(2015~24年度)における6月調査での修正幅は平均で+6.4%ポイント
(注目テーマ:トランプ関税の収益・投資への悪影響)
今回の短観で最も注目されるテーマは、「トランプ関税による負の影響がどれだけの範囲でどの程度顕在化しているか」という点だ。
既述の通り、前回調査以降、トランプ政権によって新たな関税が発動されたり、既存の関税の税率が引き上げられたりしたうえ、揺れ動く方針によって先行きの不確実性も高まった。国内企業では、既に関税の負担に直面している企業や、先行きの不確実性に苦慮している企業も多く存在すると考えられる。
従って、今回の短観において、企業の景況感や収益計画、設備投資計画に負の影響がどこまで及んでいるかが、先行きの日本経済や日銀金融政策の行方を考えるうえで注目される。
また、企業の物価見通し(物価全般の見通し)の動向も注目される。国内では、コメの価格上昇などを受けてコアCPIの上昇が加速しているが、植田日銀総裁も頻繁に言及している通り、物価上昇の加速が予想物価上昇率を押し上げる場合には、日銀が重視する(一時的な変動を除いた)基調的な物価上昇率の押し上げを通じて利上げ判断を後押しする可能性が出てくるためだ。
今回の短観で最も注目されるテーマは、「トランプ関税による負の影響がどれだけの範囲でどの程度顕在化しているか」という点だ。
既述の通り、前回調査以降、トランプ政権によって新たな関税が発動されたり、既存の関税の税率が引き上げられたりしたうえ、揺れ動く方針によって先行きの不確実性も高まった。国内企業では、既に関税の負担に直面している企業や、先行きの不確実性に苦慮している企業も多く存在すると考えられる。
従って、今回の短観において、企業の景況感や収益計画、設備投資計画に負の影響がどこまで及んでいるかが、先行きの日本経済や日銀金融政策の行方を考えるうえで注目される。
また、企業の物価見通し(物価全般の見通し)の動向も注目される。国内では、コメの価格上昇などを受けてコアCPIの上昇が加速しているが、植田日銀総裁も頻繁に言及している通り、物価上昇の加速が予想物価上昇率を押し上げる場合には、日銀が重視する(一時的な変動を除いた)基調的な物価上昇率の押し上げを通じて利上げ判断を後押しする可能性が出てくるためだ。
(関税の影響を推し量るための初期材料に)
日銀は展望レポートで示している経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げる方針を維持しつつ、見通しの実現性については「不確実性が極めて高い状況にある」として、内外経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認する姿勢を表明している。
植田総裁は、昨日の会見において、「これ(日米の関税協議の合意)が後ずれすればするほど、通商政策を巡る状況が不確実であるという判断は続いていく」、「通商政策がどこかのレベル内容で落ち着いたとしても、それが経済にどういう影響を及ぼしていくかについての不確実性も極めて高い」、「ハードデータ(実体経済の動向を示す指標)が今後どうなっていくかということはみてみたい」などと発言していることから、日銀は当面の利上げを実施せず、トランプ関税の動向と影響の見定めに徹する方針とみられる。
そうした意味で、今回の短観は、自動車関税や相互関税というトランプ政権による大規模な関税が発動されてから初の調査にあたることから、日銀が関税の影響を推し量るための重要な初期材料になる。
既述の通り、今回の短観では、企業の景況感や設備投資計画などにトランプ関税の負の影響が現れる可能性が高いとみている。ただし、日銀はもともと(展望レポートなどで)今後は一旦成長が鈍化し、基調的な物価上昇率も伸び悩む展開になることを想定しているため、短観において急激な悪化が見られない限り、想定された動きの範囲内と位置付けるだろう。
従って、日銀は当面、トランプ関税の行方を見守りつつ、短観に現れたトランプ関税の影響がハードデータにどのように波及していくかを確認することに専念するだろう。
日銀は展望レポートで示している経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げる方針を維持しつつ、見通しの実現性については「不確実性が極めて高い状況にある」として、内外経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認する姿勢を表明している。
植田総裁は、昨日の会見において、「これ(日米の関税協議の合意)が後ずれすればするほど、通商政策を巡る状況が不確実であるという判断は続いていく」、「通商政策がどこかのレベル内容で落ち着いたとしても、それが経済にどういう影響を及ぼしていくかについての不確実性も極めて高い」、「ハードデータ(実体経済の動向を示す指標)が今後どうなっていくかということはみてみたい」などと発言していることから、日銀は当面の利上げを実施せず、トランプ関税の動向と影響の見定めに徹する方針とみられる。
そうした意味で、今回の短観は、自動車関税や相互関税というトランプ政権による大規模な関税が発動されてから初の調査にあたることから、日銀が関税の影響を推し量るための重要な初期材料になる。
既述の通り、今回の短観では、企業の景況感や設備投資計画などにトランプ関税の負の影響が現れる可能性が高いとみている。ただし、日銀はもともと(展望レポートなどで)今後は一旦成長が鈍化し、基調的な物価上昇率も伸び悩む展開になることを想定しているため、短観において急激な悪化が見られない限り、想定された動きの範囲内と位置付けるだろう。
従って、日銀は当面、トランプ関税の行方を見守りつつ、短観に現れたトランプ関税の影響がハードデータにどのように波及していくかを確認することに専念するだろう。
(2025年06月18日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
上野 剛志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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