2025年04月01日

日銀短観(3月調査)~日銀の言う「オントラック」を裏付ける内容だが、トランプ関税の悪影響も混在

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 3月短観では、注目度の高い大企業製造業で景況感の小幅な悪化が示された。自動車生産の持ち直し等が支えになったものの、トランプ関税の悪影響や中国経済の低迷等が景況感を圧迫した。一方、非製造業では、インバウンド需要などに後押しされて景況感がやや改善した。
     
  2. 先行きの景況感は総じて悪化が示された。製造業では、トランプ関税やそれに端を発する貿易戦争への警戒感が重石になったとみられる。一方、非製造業では、物価高による消費の腰折れや各種コストの増大懸念によって先行きの景況感が悪化したとみられる。
     
  3. 2024年度の設備投資計画(全規模)は前年比8.1%増とやや下方修正された。例年、3月調査では下方修正される傾向があるほか、人手不足による工事進捗の遅れも影響したとみられる。ただし、省力化等に伴う投資需要が支えになり、堅調な計画が維持された。一方、今回新たに公表された2025年度の設備投資計画(全規模)は前年比0.1%増となり、3%台を記録した2023・2024年度と比べて勢いが見られない。トランプ政権の出方は極めて不確実性が高いため、投資計画をとりあえず据え置く動きが生じていると考えられる。企業規模別では中小企業で慎重姿勢が目立っており、人件費等の各種コスト負担が投資意欲の抑制に働いている可能性がある。
     
  4. 今回の短観では、インフレ予想の高止まりや値上げ意向の継続、人手の逼迫が確認され、今春闘での高い賃上げ実現とともに、日銀が追加利上げの判断材料としている「経済・物価がオントラックにある」との見方を裏付ける材料になりそうだ。一方で、景況感や設備投資計画などにはトランプ関税の悪影響がうかがわれる内容にもなっている。しかも、自動車への追加関税(公表済み)や相互関税(明日公表予定)の悪影響が十分に織り込まれていないにもかかわらずだ。日銀はしばらく、賃上げの中小企業等への波及や賃金上昇の価格転嫁状況を確認しつつ、米政権の動向とその影響を慎重に見定めるスタンスを維持すると見ている。
景況感は製造業でやや悪化・非製造業でやや改善(大企業)/主な業種別の業況判断DI(大企業)

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(2025年04月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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