2025年03月31日

「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資

文字サイズ

3.横浜オフィス市場の見通し

3-1.新規需要の見通し
(1)労働市場からみたオフィス需要
神奈川県「神奈川県労働力調査結果報告」によれば、2024年の神奈川県の就業者数は518.3万人(前年比+10.7万人・+2%)となり、3年連続で増加した(図表-9・左図)。オフィスワーカーが多い産業の就業者数(2024年)をみると、「情報通信業(前年比+9%)」と「学術研究,専門・技術サービス業(同+18%)」は前年から大きく増加した(図表-9・右図)。
図表-9 神奈川県の就業者数
総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、横浜市の生産年齢人口は、2020年以降横這いで推移しており、2023年は238.8万人(前年比+0.1%)となった(図表-10)。一方で、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」によれば、横浜市の生産年齢人口は2025年の239.6万人をピークに減少に向かい、2035年には222.4万人(2025年対比▲7%)、2045年には201.5万人(同▲16%)となる見通しである(図表-11)。
図表-10 横浜市の生産年齢人口/図表-11 横浜市の年齢帯別人口(予測)
以下では、横浜のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

横浜市経済局・横浜商工会議所「横浜市景況・経営動向調査」によれば、「自社業況BSI2」は、2020 年第2四半期に▲64.0と一気に悪化した。その後は、一進一退を繰り返しながら、2024 年第4四半期は▲6.6となり、コロナ禍前の水準に近づいたものの、依然としてマイナス圏にある(図表-12)。

「雇用人員BSI3」(全産業) は、2020 年第2四半期に+5.7 へ大きく上昇した後、低下が続いている。2024 年第4四半期は▲41.4となり、コロナ禍前の水準(▲31.9)を下回り人手不足感が強まっている(図表-12)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに採用意欲が高まっており、2024年第4四半期は「製造業」が▲31.9、「非製造業」が▲48.0となった(図表-13)。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強い状況にあると言える。

横浜市経済局・横浜商工会議所「労働力不足・シニア人材の起用に関する調査」(2024年9月)によれば、「労働力不足の解消に向けて、これまで実施して効果があった取組」について、「新卒・中途採用を強化」との回答が31%となり、大企業に限定すると、62%に達した。

神奈川県の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境はオフィスワーカーの割合が高い「非製造業」で人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。一方、企業の景況感はコロナ禍前の水準まで回復したものの、依然としてマイナスであり、また、横浜市の生産年齢人口は今後、減少に向かう見通しである。これらのことを勘案すると、横浜ビジネスエリアのオフィスワーカー数の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。
図表-12 自社業況BSI/図表-13 雇用人員BSI
また、横浜市においても、人手不足を背景に採用強化や人材定着等を目的としたオフィス環境の整備が進んでいる(図表-14)。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2024」によれば、首都圏のオフィスワーカーに今後利用したいオフィス内のレイアウトについて質問したところ、「リフレッシュスペース」(31%)や「食堂・カフェスペース」(29%)が上位となっている(図表-15)。

今後、人材確保のため従業員満足度の向上に寄与する設備のグレードアップやアメニティの充実が進むと考えられる。
図表-14  横浜市におけるオフィス環境整備事例/図表-15  今後利用したいオフィス内のレイアウト
 
2 自社業況が「良い」と回答した割合から「悪い」と回答した割合を引いた値。
3 雇用人員が「過剰気味」と回答した割合から「不足気味」と回答した割合を引いた値。プラス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2)テレワークの進展に伴うオフィス環境整備
横浜市政策局「令和5年度 男女共同参画に関する事業者調査」によれば、テレワークに関する制度に関して、「制度があり、利用実績」があるとの回答が29%となり、従業員が300人以上の企業に限定すると57%に達した。横浜市において、テレワークが一定程度定着している。

こうした状況を受けて、横浜市ではテレワークを取り入れたフレキシブルな働き方(ハイブリッドワーク)を採用する企業が増えている。横浜市経済局・横浜商工会議所「現時点における新型コロナウイルス感染症の影響」(2023年3月)によれば、「今後の勤務形態の展望」について、「会社に出社する働き方を基本とする」(48%)に次いで、「テレワーク等在宅勤務と出社を組み合わせた働き方を基本とする」(45%)との回答が多かった。大企業に限定すると、「テレワーク等在宅勤務と出社を組み合わせた働き方を基本とする」(68%)との回答は、約3分の2を占める結果となった。

また、ハイブリッドワークが普及し、多様な働き方が広がるなか、「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」等のサードプレイスオフィスの利用が増えている。ザイマックス不動産総合研究所「フレキシブルオフィス4市場調査2025」によれば、横浜市のフレキシブルオフィスの拠点数は「198」となっており、東京23区(1151)、大阪市(208)に次いで多い。テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、サードプレイスオフィスの市場拡大が見込まれ、横浜のオフィス需要を下支えすると思われる。

今後、ハイブリッドワークに即したオフィスの拠点配置や利用形態を検討する企業が増えると予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
 
4 一般的なオフィスの賃貸借契約によらず、利用契約・定期建物賃貸借契約などさまざまな契約形態で、事業者が主に法人および個人事業主に提供するワークプレイスサービス。「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」などを含む。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月31日「不動産投資レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2025年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2025年)のレポート Topへ