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可処分所得を下押しする家計負担の増加-インフレ下で求められるブラケットクリープへの対応
基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.336]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎
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1―依然としてコロナ禍前を下回る消費水準
消費低迷の主因は可処分所得の伸び悩みである。内閣府の「国民経済計算年次推計」によれば、2023年の実質可処分所得はコロナ禍前の2019年を▲3.4%下回っている。名目可処分所得は2019年から3.4%増加したが、この間に家計消費デフレーターが7.0%上昇し、名目可処分所得の伸びを大きく上回っているためである。名目可処分所得の内訳をみると、雇用所得環境の改善を背景に2023年の雇用者報酬は2019年から5.0%増加し、可処分所得を大きく押し上げているほか、好調な企業業績を受けた配当の増加を主因として財産所得(純)も大幅に増加している。一方、営業余剰・混合所得、社会給付(純)、所得・富等に課される経常税は可処分所得の押し下げ要因となっている[図表1]。
2―高まる家計の社会負担
*1 総収入=雇用者報酬(受取)+財産所得(受取)+営業余剰・混合所得(純)+現物社会移転以外の社会給付(受取)+その他の経常移転(受取)
*2 総負担=所得・富等に課される税(支払)+純社会負担(支払)+財産所得(支払)+その他の経常移転(支払)
3―高まる家計の税負担
国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、2023年の給与所得者(1年を通じて勤務した給与所得者)の所得税額は前年比1.0%の11.9兆円となった。所得税額は新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に減少したが、2021年からは3年連続で増加した。2023年の所得税額はコロナ禍前の2019年よりも15.6%増えている。所得税額の増加が続いている一因は、給与総額が増えていることだが、2020年から2023年にかけての給与総額の伸びは6.4%(うち、給与所得者数が1.5%、1人当たり給与が4.8%)で、この間の所得税額の伸びを大きく下回っている。このことは税額割合(給与総額に対する所得税額の割合)が高まっていることを意味する。
2000年以降の税額割合の推移を確認すると、2006年の5.07%をピークに2010年に3.86%まで低下した後、上昇傾向が続き、2023年には5.10%と2000年以降のピークを更新した[図表3]。
なお、2013年に税額割合が大きく上昇したのは、東日本大震災からの復興財源に充てるための復興特別所得税(基準所得税額に対して2.1%)が課せられた(~2037年までの予定)ためである。
所得税率は2007年に見直しが行われた後は2015年の最高税率引き上げ(課税所得4,000万円以上を40%から45%に)以外変わっていない。全ての給与階級で税額割合が上昇していることは、給与の増加に伴う課税所得の増加によって、より高い税率が適用されるようになっている者が増えていることを示唆する。また、納税者割合(納税者/給与所得者)は2010年の82.5%から2023年には86.3%まで上昇している。賃金上昇に伴い給与水準が課税最低限を超える者が増えていることを表している。
2024年の結果はまだ公表されていないが、春闘賃上げ率が33年ぶりの高水準となったことを受けて名目賃金の伸びが大きく加速していることを踏まえると、ブラケットクリープ現象はより顕著となっている可能性がある。
4― 求められるブラケットクリープへの対応
しかし、負担増が家計の可処分所得を抑制する状態は解消されそうにない。2025年度税制改正大綱では、基礎控除の引き上げと給与所得控除の最低保証額の引き上げが盛り込まれたが、この改正による減税額は6,000億円程度(平年度)と試算されており、2023年の家計の可処分所得(317兆円)比で0.2%程度にすぎない。また、各税率に対応する課税所得の区分は変更されなかったため、高い賃上げが実現しても実質的な税負担の増加によって可処分所得が十分に増えない構造は残されたままとなっている。
インフレや賃上げが定着しつつあるもとでは、ブラケットクリープによる実質的な税負担の増加がより深刻なものとなる可能性がある。物価や賃金の上昇に応じて各税率に対応する課税所得の区分を変更するなどの是正措置を講じることが不可欠と考えられる。
(2025年03月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1836
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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