- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 個人消費 >
- 経済正常化の鍵を握る個人消費-当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要
経済正常化の鍵を握る個人消費-当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
2021年10-12月期の実質GDPは前期比年率5.4%の高成長となり、コロナ前(2019年10-12月期)の水準まで0.2%に迫ったが、直近のピーク(2019年7-9月期)に比べると▲2.9%も低い。実質GDPがコロナ前の水準に戻るだけでは経済の正常化とは言えない。
日本の実質GDPは、大きな負のショックがあるたびに、その水準が下方シフトするだけでなく、その後のトレンド成長率(一定期間の平均成長率)の下方屈折につながってきた。トレンド成長率の低下が特に顕著なのは個人消費で、1980年代の4.1%から直近の0.4%まで、大幅な下方屈折を繰り返している。実質GDPが直近のピークに戻った上で、個人消費を中心にトレンド成長率が少なくともコロナ前の水準まで回復することが、経済正常化の条件である。
個人消費は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前から低迷が続いており、その主因は可処分所得の低い伸びであった。コロナ禍では家計の貯蓄率が大幅に上昇しており、当面は行動制限の緩和などで貯蓄率を引き下げることにより個人消費の伸びを高めることが可能である。
コロナ禍から抜け出し、貯蓄率が平常時の水準に戻った後は、雇用者報酬を中心とした可処分所得の動向が個人消費を左右する。雇用所得環境は最悪期を脱しつつあるが、名目賃金が伸び悩む中で物価が上昇に転じたため、実質賃金の伸びはマイナスとなっている。
アベノミクス景気が始まって以降、労働需給や企業収益といった賃上げを巡る環境は良好な状態を維持しているが、このことが本格的な賃上げにつながらなかった。この背景には、デフレマインドが根強く残っていることから、賃上げ要求が低水準にとどまっていたことがある。
デフレから脱しつつある状況では、ベースアップがなければ実質賃金は目減りしてしまう。ベースアップが物価上昇率を安定的に上回るような賃上げを実現し、可処分所得を着実に増加させることが個人消費の本格回復には不可欠である。
■目次
1――コロナ禍で欧米に遅れる日本経済の回復
・コロナ前の水準が低い日本のGDP
・下方屈折するトレンド成長率
2――個人消費の低迷が長期化する理由
・消費主導の景気回復が実現しない日本
・可処分所得の低い伸びが消費低迷の主因
・コロナ禍の消費の落ち込みは貯蓄率の急上昇による
3――賃上げの重要性
・依然として厳しい雇用所得環境
・ベースアップが重要
・賃上げを巡る環境は悪くない
・賃上げの要求水準が低い
4――まとめ
(2022年02月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1836
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
斎藤 太郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | 消費者物価(全国25年2月)-コアCPI上昇率は当面3%前後で推移する見通し | 斎藤 太郎 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/19 | 貿易統計25年2月-関税引き上げ前の駆け込みもあり、貿易収支(季節調整値)が黒字に | 斎藤 太郎 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/11 | 2024~2026年度経済見通し-24年10-12月期GDP2次速報後改定 | 斎藤 太郎 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/07 | 可処分所得を下押しする家計負担の増加-インフレ下で求められるブラケットクリープへの対応 | 斎藤 太郎 | 基礎研マンスリー |
新着記事
-
2025年03月21日
東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに -
2025年03月21日
勤務間インターバル制度は日本に定着するのか?~労働時間の適正化と「働きたい人が働ける環境」のバランスを考える~ -
2025年03月21日
医療DXの現状 -
2025年03月21日
英国雇用関連統計(25年2月)-給与(中央値)伸び率は5.0%まで低下 -
2025年03月21日
宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【経済正常化の鍵を握る個人消費-当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
経済正常化の鍵を握る個人消費-当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要のレポート Topへ