2022年02月28日

経済正常化の鍵を握る個人消費-当面は貯蓄率の引き下げ、中長期的には賃上げによる可処分所得の増加が重要

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨

2021年10-12月期の実質GDPは前期比年率5.4%の高成長となり、コロナ前(2019年10-12月期)の水準まで0.2%に迫ったが、直近のピーク(2019年7-9月期)に比べると▲2.9%も低い。実質GDPがコロナ前の水準に戻るだけでは経済の正常化とは言えない。
 
日本の実質GDPは、大きな負のショックがあるたびに、その水準が下方シフトするだけでなく、その後のトレンド成長率(一定期間の平均成長率)の下方屈折につながってきた。トレンド成長率の低下が特に顕著なのは個人消費で、1980年代の4.1%から直近の0.4%まで、大幅な下方屈折を繰り返している。実質GDPが直近のピークに戻った上で、個人消費を中心にトレンド成長率が少なくともコロナ前の水準まで回復することが、経済正常化の条件である。
 
個人消費は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前から低迷が続いており、その主因は可処分所得の低い伸びであった。コロナ禍では家計の貯蓄率が大幅に上昇しており、当面は行動制限の緩和などで貯蓄率を引き下げることにより個人消費の伸びを高めることが可能である。
 
コロナ禍から抜け出し、貯蓄率が平常時の水準に戻った後は、雇用者報酬を中心とした可処分所得の動向が個人消費を左右する。雇用所得環境は最悪期を脱しつつあるが、名目賃金が伸び悩む中で物価が上昇に転じたため、実質賃金の伸びはマイナスとなっている。
 
アベノミクス景気が始まって以降、労働需給や企業収益といった賃上げを巡る環境は良好な状態を維持しているが、このことが本格的な賃上げにつながらなかった。この背景には、デフレマインドが根強く残っていることから、賃上げ要求が低水準にとどまっていたことがある。
 
デフレから脱しつつある状況では、ベースアップがなければ実質賃金は目減りしてしまう。ベースアップが物価上昇率を安定的に上回るような賃上げを実現し、可処分所得を着実に増加させることが個人消費の本格回復には不可欠である。

■目次

1――コロナ禍で欧米に遅れる日本経済の回復
  ・コロナ前の水準が低い日本のGDP
  ・下方屈折するトレンド成長率
2――個人消費の低迷が長期化する理由
  ・消費主導の景気回復が実現しない日本
  ・可処分所得の低い伸びが消費低迷の主因
  ・コロナ禍の消費の落ち込みは貯蓄率の急上昇による
3――賃上げの重要性
  ・依然として厳しい雇用所得環境
  ・ベースアップが重要
  ・賃上げを巡る環境は悪くない
  ・賃上げの要求水準が低い
4――まとめ
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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