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- 長期化するコロナ禍における経済指標の見方~前年同月比は無用の長物に?~
コラム
2021年03月10日
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新型コロナウイルスの感染拡大から1年が経過した。日本経済は、感染拡大を受けた各種イベントの中止、外出自粛の影響で2020年2月頃から悪化し始め、緊急事態宣言が発令された4、5月に急速に落ち込んだ。5月下旬の緊急事態宣言解除を受けて景気は持ち直しに向かったが、外食、宿泊などの対面型サービス消費は緊急事態宣言下で極めて低い水準にまで落ち込み、その後の戻りも弱い。
前年同月比の限界
このような経済状況を把握するために用いられる経済指標の多くは季節性を有しており、趨勢的な変動をみるためには季節性を除いた季節調整値を用いることが望ましい。しかし、実際には全ての経済指標で季節調整値が公表されているわけではない。特に、新型コロナウイルスの影響を強く受けたサービス関連統計は原数値しか公表されていないものが多い。その場合には、原数値の前年同月比を見ることで季節性の影響を除去するという方法をとることが一般的だ。

このように、これまではコロナ禍の経済動向を見る上で、公表されている原数値の前年同月比をみていればあまり問題がなかった。しかし、今後はこのやり方では実態の把握が難しくなる。先行きの前年同月比はコロナ禍によって急速に落ち込んだものとの比較になるためだ。
2年前と比較する

なお、2年前の2019年は10月に消費税率が引き上げられた。消費関連統計の多くは9月までは駆け込み需要でかさ上げ、10月以降はその反動で押し下げられており、必ずしも平常時の水準とはいえない面がある。この場合には、当該月の5年平均(2015~2019年)と比較することによって、特殊要因を取り除くという方法もある。
自分で季節調整をかける
前年同月が異常値となっている場合に原数値を2年前(前々年)と比較する方法は簡単だが、あくまでも2年前との比較になるため、足もとの基調の変化を迅速に捉えられないという欠点がある。また、最近は新型コロナウイルスの影響で急速に落ち込んだ経済活動の水準がいつ元に戻るかが注目されているが、原数値ではその判断ができない。コロナ前を2020年1月とした場合、2~12月のデータは1月とは異なる季節性を有しているため、直接比較することができないからだ。
2021年4、5月の結果に要注意
図2~4の試算に用いた元データは全て同じであるが、加工方法を変えただけで結果から読み取れるものが大きく変わる。先行きの経済指標は原数値を前年同月比でみると実態を見誤る可能性がある。特に、2020年4、5月は緊急事態宣言の影響で経済指標の多くが急速に落ちこんだため、2021年4、5月の結果は要注意だ。正確な判断をするためにはできるだけ季節調整値を用いるべきで、季節調整値が公表されていない経済指標は自分で季節調整をかけて基調判断をすることが望ましい。
ただし、自分で季節調整をかけるためには、ある程度の知識と手間が必要で、誰もが簡単に行うことができるわけではない。その場合には前々年同月比を用いるなどして、コロナ禍における異常値との比較を避ける工夫が必要だろう。新型コロナの影響が顕在化してから1年が経過し、これまで以上に注意深く経済指標を読み解くことが求められている。
ただし、自分で季節調整をかけるためには、ある程度の知識と手間が必要で、誰もが簡単に行うことができるわけではない。その場合には前々年同月比を用いるなどして、コロナ禍における異常値との比較を避ける工夫が必要だろう。新型コロナの影響が顕在化してから1年が経過し、これまで以上に注意深く経済指標を読み解くことが求められている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年03月10日「研究員の眼」)

03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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