2021年02月26日

コロナ禍における労働市場の動向-失業率の上昇が限定的にとどまる理由

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨

日本の労働市場は、長期にわたって改善傾向を続けてきたが、新型コロナウイルス感染症の影響で大きく悪化した。産業別には、宿泊・飲食サービス業の就業者が大幅に減少し、雇用形態別には、パート・アルバイト、派遣社員などの非正規雇用が女性を中心に大きく減少している。
 
経済活動の急激な落ち込みに対して、失業率の上昇は限定的にとどまっている。2020年4月の緊急事態宣言下では、非労働力化の進展、休業者の急増、労働時間の大幅削減が失業率の上昇を抑制した。緊急事態宣言解除を受けた経済活動再開後は、実質GDP成長率が大きく上振れるなど、想定を上回るペースで景気が回復してきたことが雇用調整圧力の緩和に寄与した。また、極めて厳しい状況にある宿泊・飲食サービス業から他産業への転職が進んだことも失業率の上昇を抑制した。
 
2021年1月に緊急事態宣言が再発令されたため、最悪期を脱しつつあった雇用情勢が再び悪化する可能性がある。緊急事態宣言再発令による経済へのインパクトは前回の緊急事態宣言よりも小さいが、経済の耐久力が低下しているため、事業の継続が不可能となり、廃業や倒産に追い込まれる企業が増え、失業者が急増するリスクは高くなっている。
 
雇用調整助成金の拡充が失業者の増加抑制に貢献してきたことは確かだが、経済活動の水準が元に戻らない中で無理に雇用を維持し続けることは、新規雇用、特に新卒採用の抑制につながる恐れがある。これまでの失業を抑制する政策から、必要な感染拡大防止措置を講じつつも経済活動の制約をできるだけ取り除き、景気回復を着実かつ持続的なものとすることによって、新たな雇用を生み出す政策へシフトすることが求められる。

■目次

1――コロナ禍における労働市場の概観
2―失業率の上昇が限定的にとどまる理由
  ・非労働力化の進展
  ・雇用調整助成金の拡充を背景とした休業者の増加
  ・労働時間の大幅削減
  ・景気の上振れ
  ・宿泊・飲食サービス業は高い転職率を維持
3――今後の見通しと課題
  ・緊急事態宣言の再発令で雇用調整圧力が再び高まる恐れ
  ・失業抑制策から雇用創出策へ
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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