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- 2022偽情報に関する実施規範-EUにおける自主規制
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約束37 署名者は、常設のタスクフォースへの参加を約束する。
署名者は規範を進化させ、適応させることを目的とした常設のタスクフォースを設置することとされている。このタスクフォースには、規範の署名者とEDMO(European Digital Media Observatory)19、およびERGA(European Regulators Group for Audiovisual Media Services)20の代表者が含まれる。タスクフォースの議長は欧州委員会が務め、欧州対外行動庁(EEAS)21の代表も参加する。
(1) 約束37は、偽情報に対処するためのルールや手法を向上させるための取組を行うタスクフォースを署名者および関係機関が構成することとしている。
タスクフォースは、少なくとも 6ヶ月ごとに全体会議を開催し、必要な場合には、特定の問題またはワークストリーム(=特定のプロジェクトのタスクや活動)に特化したサブグループの会議を開催する(施策37.1)。そして、選挙や危機のような特殊な状況下において使用するリスク評価手法と迅速な対応システムを確立し、具体的に協力や調整を実施する(施策37.2)。
19 「7――ファクトチェック機関のエンパワーメント(力を与える)」で前述。注16参照。
20 https://erga-online.eu/ 参照。視聴覚メディアサービスに関する独立した規制機関の会議体
21 欧州連合の外交を司る機関。
約束38 署名者は、規範の公約を確実に履行するために、十分な資金と人的資源を捧げ、適切な内部手続を導入する。
約束39 署名者は、実施期間終了後(規範の署名後6ヶ月)1ヶ月以内に、前文にあるベースライン報告書を欧州委員会に提出する。
約束40 署名者は、サービスレベル指標(SLI)および質的報告要素(QRE)に関する定期的な報告を行う。
約束41 タスクフォース内で構造指標(Structural Indicators)の策定に取り組み、本規程の署名から9ヶ月以内に最初の構造指標を発表する。
約束42 署名者は、選挙や危機のような特別な状況において、欧州委員会の要請があれば、タスクフォースによって確立された迅速な対応システムに従い、特別な報告書や定期的モニタリングの一部の提供を含む、相応かつ適切な情報およびデータを提供する。
約束43 署名者は、タスクフォースで合意されたとおり、報告およびデータ開示のために調整された報告テンプレートおよび手法に則り、報告書を作成し、データを提供する。
約束44 特に大きなオンラインプラットフォームのプロバイダである署名者は、DSAとの整合性を図るため、本規程に従って実施される約束の状況について、自費で監査を受ける。
本節は、規範の署名者による実施と評価・報告、およびEU・国家レベルの監視を行うべきことを規定している。
(1) 約束38は、署名者の社内のリソースを偽情報対策へ十分に投入すべきことを規定している。
(2) 約束39は、ベースライン(基準線)報告書の提出について述べている。ベースライン報告書について前文では「署名後7ヶ月以内に、署名者は、規範の公約をどのように実施したかを詳述したベースライン報告書を欧州委員会に提出し、実施後1ヶ月経過した時点での質的報告要素(QRE)とサービスレベル指標(SLI)(下記(3)参照)を提供する。また、最初の報告には、旧規範(2018年版)で実施されていた対策と、現規範(2022年版)を実施するために講じられた対策との比較も含める」とされている。
(3) 約束40は、規範の措置実施状況について報告するものである。具体的には、デジタルサービス規則(DSA)に定義される特に大きなオンラインプラットフォームの署名者は、署名者、サービスおよび加盟国のレベルでの関連するQREおよびSLIを含め、規範に基づき署名した公約および措置の実施状況について、6カ月ごとに欧州委員会に報告する(施策40.1)。他方、その以外の署名者は、署名者、サービスおよび加盟国のレベルにおいて、関連するQREおよびSLIを含め、規範に基づく約束と措置の実施状況を欧州委員会に毎年報告する(施策40.2)ものとされている。
(4) 約束41は、構造指標の作成・公表を行うべきことが規定されている。構造指標については2022年9月に6つの分野22がEDMOから提案があったが、2024年はそのうち、「偽情報の普及、出所、対象者」についてレポートが行われることとされた23。
(5) 約束42は欧州委員会が署名者にデータ提供を求められるケースを挙げている。
(6) 約束43は署名者の報告書とデータ提供義務について触れている。
(7) 約束44は、特に大きなオンラインプラットフォームが監査を受けるべきことを規定している。
22 偽情報の普及、出どころ、対象者(聴取者)、非収益化、協調、ファクトチェックと規範強化への投資の6分野。
23 https://disinfocode.eu/wp-content/uploads/2024/09/code-of-practice-2-supplementary-report-designed-2024.pdf 参照。
11――おわりに
今回紹介した規範はネットに関係する事業者を広くカバーする。ただし、規律が及ぶには自社が署名を行う必要があるという意味において、適用は任意である。かつ違反に対する罰則もない。他方、対象となる偽情報は選挙に限らず、さまざまな情報に関して偽情報を排除するためのものである。
これら2回の基礎研レポートからわかるように、定められているのは、何が偽情報かという判断基準ではなく、ファクトチェック機関をはじめ、さまざまな主体が偽情報かどうかを判断すること、および仮に偽情報だとしたときに、迅速かつ漏れのないように各主体がどのような対応をするべきかについてである。
日本でも偽情報に関する対処が急がれている。そこで議論すべきは、偽情報の判断基準ではなく、多くの主体がどのように動くべきか、その手続・手順を定めるべきであると考える。
(2025年02月20日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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