2025年02月20日

2022偽情報に関する実施規範-EUにおける自主規制

保険研究部 取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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6――研究コミュニティのエンパワーメント(力を与える)

本節の該当部分は図表6の色付き部分である。
【図表6】研究コミュニティのエンパワーメント
1コミットメント

約束26 偽情報に関する研究目的のために、非個人データおよび匿名化、集計、明示された公開データへの継続的、リアルタイムでの検索可能な安定したアクセスを提供する。

約束27 署名者は、審査を受けた研究者に偽情報に関する研究を実施するために必要なデータへのアクセスを提供することを約束する。

約束28 署名者は、自らのサービスに関わる偽情報に関する調査を誠実に支援する。

約束29 署名者は、透明性のある方法論と倫理基準に基づいて研究を実施し、データセット、研究結果、方法論を関連する人々と共有する。

2|解説と具体的取組
偽情報対策において、研究者は偽情報の特定や対策の向上に寄与することが期待されている。規範では、偽情報に取り組む効果的な戦略の一環として研究コミュニティによるプラットフォームデータへの確実なアクセスと、その活動への適切な支援の枠組みを構築すること重要視している。本節では、偽情報に対抗する研究者への支援取組を挙げている。

(1) 約束26は、研究者が一般的に匿名化されたデータへアクセスすることを認めるべきことを規定している。具体的には、署名者は、悪用リスクに対処するための合理的な保護措置(悪意ある利用や商業的な利用を禁止するAPI14ポリシーなど)を講じた上で、非個人データおよび匿名化、集計された公開データ(自社サービスがホストするコンテンツのエンゲージメント(他のユーザーの反応など)やインプレッション(閲覧数)など、自社サービスにおける偽情報の調査に関連するデータ)への一般アクセスを提供する(施策26.1)ことが求められる。ここでは匿名化された情報の開示について述べており、研究者の誰もがアクセス可能とされている。

(2) 約束27は、署名者が共同出資して設立する独立第三者機関が審査・承認した研究者・研究プロジェクトに対してデータへのアクセスを認めることとされている。具体的には、独立第三者機関が定める手順(プロトコル)に従い、偽情報に関する調査を行うために必要な個人データを研究者と共有できるよう協力することとされている(措置27.4)。すなわち、承認された研究者は個人データにアクセスしたうえで研究することが可能となっている。ここでは匿名化されていない個人データを扱うために、審査・承認された研究者に限定してアクセスできることとされている。

(3) 約束28は、署名者側から積極的に研究者に調査・研究を行ってもらうことを求めている。具体的には、署名者は、研究を促進するために適切な人的資源を確保し、研究者とのオープンな対話を設定・維持して、研究のために必要と思われるデータの種類を把握し、研究者が組織内の関連窓口を見つけやすくする(施策28.1)ことが求められている。

(4) 約束29は、研究にあたっての透明性と倫理性を求める。署名者は、透明性のある方法論と倫理基準を用いて、影響力の行使や偽情報の拡散を追跡・分析する調査活動を実施する(施策29.1)こととされる。
 
14 署名者が保有・運営するコンピューターに接続する仕組みであるApplication Programming Interfaceを指す。

7――ファクトチェック機関のエンパワーメント(力を与える)

7――ファクトチェック機関のエンパワーメント(力を与える)

本節の該当部分は図表7の色付き部分である。
【図表7】ファクトチェック機関のエンパワーメント
1|コミットメント

約束30 署名者は、ファクトチェック機関が利用できるリソースと支援に関して、EUのファクトチェック機関コミュニティとの間で、透明性があり、構造的で、オープンで、財政的に持続可能で、差別のない協力の枠組みを確立する。

約束31 署名者は、自らのプラットフォームのサービス、プロセス、コンテンツについて、ファクトチェック機関の業務を統合、紹介、あるいは一貫して利用する。

約束32 署名者はファクトチェック機関がファクトチェックの質と影響を最大限に高めるのに役立つ適切な情報へのアクセスを、迅速可能な限り自動化して提供する。

約束33 署名者は、ファクトチェック機関が、厳格な倫理・透明性規則に基づいて活動し、その独立性を守れるようにする。

2|解説と具体的取組
本節の前文では、偽情報に対処する効果的な戦略の一環として、ファクトチェック機関によるプラットフォームのデータアクセスと、その活動に対する適切な支援の枠組みを設けることの重要性を指摘している。なお、前回の基礎研レポートではMetaがアメリカにおいて、ファクトチェック機関の利用を終了し、コミュニティノート方式15へ変更する予定であることを述べた。

(1) 約束30は、署名者とファクトチェックコミュニティの間で連携する仕組みを構築することを求めている。具体的には、署名者は、すべてのEU加盟国において事実確認を行うため、独立したファクトチェック機関との間で協定を結ぶ。この協定は、高い倫理的・専門的基準を満たし、透明性、公開性、一貫性、非差別性のある条件で、ファクトチェック機関の独立性を担保すべきである(施策30.1)。

(2) 約束31は署名者がその連携するファクトチェック機関に一貫してファクトチェックを行わせることを定めている。具体的には、ユーザー作成コンテンツを紹介する署名者は、そのプラットフォームのサービス、プロセス、コンテンツについて、独立したファクトチェック機関(たとえばEuropean Digital Media Observatory)16により、すべてのEU加盟国で一貫したチェックを行う(施策31.1)。

(3) 約束32は、署名者がファクトチェック機関に対して、ファクトチェックに役立つ情報提供を義務付ける。具体的には、署名者は、(サービスによって)そのコンテンツに基づいて行われたアクション、インプレッション、クリック、インタラクションなど、ファクトチェックされたコンテンツの長期的な影響を定量的に計測するための情報をファクトチェック機関に提供する(施策32.1)。

(4) 約束33は署名者がファクトチェック機関の独立性を確保すべきとする。具体的には、関連する署名者は、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の原則規範17などの要件を遵守する(施策33.1)。
 
15 投稿に他の投稿者がコメントを付すことができ、そのコメントが一定数支持を得られた場合に、投稿とコメントが同時に表示される仕組みを指す。
16 https://edmo.eu/ 参照。偽情報に対処するための設立された独立機関。
17 https://ifcncodeofprinciples.poynter.org/the-commitments 参照。

8――透明性センター

8――透明性センター

本節の該当部分は図表8の色付き部分である。
【図表8】透明性センター
1コミットメント

約束34 この規範の実施に関する透明性と説明責任を確保するため、署名者は、各社共通の透明性センターのウェブサイトを開設し、維持する。

約束35 署名者は、透明性センターに当規範の約束と施策の実施に関連するすべての関連情報を掲載 し、これらの情報がサービスごとにわかりやすく表示され、容易に検索できるようにする。

約束36 署名者は、透明性センターに含まれる関連情報を適時かつ完全に更新する。

2|解説と具体的取組
透明性センターとは、各署名者の偽情報に対する対処方針と、その結果としてどの程度コンテンツをブロックしたかなどの情報をレポートとして開示するウェブサイトである18

署名者は、一般に公開され、利用しやすく、検索可能な各社共通仕様の透明性センターウェブサイトを開設する。そして、透明性センターのウェブサイトに資金を提供し、維持し、すべての定量的指標を含む関連情報をタイムリーかつ完全に更新することとされる。

(1) 約束34は署名者に共通の透明化センターの設置を求める。署名者は、透明性センターのウェブサイトを、規範の署名から6ヶ月以内に運用を開始し、一般に公開する(施策34.1)。

(2) 約束35は透明性センターで十分な情報の開示とわかりやすい情報提供を求めている。
そのために、署名者は、透明性センターにおいて、各自が設定する「公約」および「施策」ごとに、そのサービスにおいて適用される利用規約およびポリシーを記載する(施策35.1)。そして署名者は、透明性センターに、当規範の公約の実施を評価する報告書のリポジトリがあることを確認し(施策35.3)、透明性センターが最先端の技術で構築され、使いやすく、関連情報が簡単に検索できるようにする(施策35.5)。

(3) 約束36は透明化センターの情報を遅滞なく更新することを求めている。
具体的には、署名者は、方針と実施する措置に関して変更を行った場合において、適時に、いかなる場合も変更発表後または実施後30日以内に、最新情報を提供する(約束36.1)。
 
18 たとえば Metaの透明化センターhttps://transparency.meta.com/ja-jp/ 参照。

(2025年02月20日「基礎研レポート」)

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保険研究部   取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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