2025年02月18日

2024~2026年度経済見通し(25年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2.実質成長率は2024年度0.8%、2025年度1.1%、2026年度1.2%を予想

(年率1%前後の成長が続く見通し)
2024年10-12月期は前期比年率2.8%の高成長となったが、その主因は輸入の減少に伴う外需のプラス寄与で、国内需要は3四半期ぶりの減少となった。景気の実態は成長率が示すほど強くない。

2025年1-3月期は民間消費、設備投資を中心に国内需要が増加に転じるものの、外需が前期の反動でマイナスとなることから、実質GDPは前期比年率0.7%と前期から急減速する可能性が高い。

民間消費は2024年4-6月期、7-9月期に前期比0.7%の高い伸びとなった後、10-12月期は同0.1%の低い伸びにとどまった。しかし、高い物価上昇が続く中でも、実質雇用者報酬が2024年4-6月期以降、3四半期連続で前年比増加となったことは、明るい材料といえる。足もとでは、米や生鮮食品などの価格高騰が消費者マインドの冷え込みにつながっているが、物価の上昇ペースが落ち着けば、雇用所得環境の改善を背景に民間消費は回復に向かうことが見込まれる。

また、設備投資は人手不足による供給制約が抑制要因となっているが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。先行きについては、国内民間需要を中心に潜在成長率とされる0%台半ばを若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。

下振れリスクとしては、米国の関税引き上げを受けた世界経済の急減速、物価の上振れに伴う実質所得の低迷を主因とした消費の腰折れなどが挙げられる。

実質GDP成長率は2024年度が0.8%、2025年度が1.1%、2026年度が1.2%と予想する。2023年度は実質GDP成長率0.7%のうち、内需寄与度が▲0.7%と3年ぶりにマイナスとなる一方、国内需要の弱さを背景に輸入が前年比▲3.3%の減少となり、外需寄与度が1.4%と成長率を大きく押し上げた。2024度は民間消費、設備投資を中心に国内需要が堅調に推移する一方、輸入が増加に転じることから外需寄与度はマイナスとなることが見込まれる。2025年度以降も輸出が景気の牽引役となることは期待できず、国内需要中心の成長が続くことが予想される。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(実質可処分所得が持ち直し)
実質可処分所得は物価高の影響を主因として低迷が続いてきたが、ここにきて明るい動きが見られる。家計の実質可処分所得はコロナ禍における特別定額給付金をはじめとした各種支援策の影響で2020年度に大きく増加した後、2021年度以降は減少傾向が続いていたが、2024年1-3月期からは3四半期連続で増加している。2024年入り後は低所得者向け給付、所得税・住民税減税の影響で押し上げられている面もあるが、その影響を除いても増加している。
実質可処分所得の変動要因 実質可処分所得が持ち直している主因は、雇用者数が増加を続けるもとで、1人当たり賃金の伸びが加速したことから、雇用者報酬が大幅に増加していることである。実質雇用者報酬は2021年10-12月期から前年比で減少が続いていたが、2024年4-6月期に11四半期ぶりに増加に転じた後、3四半期連続で増加し、2024年10-12月期は前年比3.3%の高い伸びとなった。また、超低金利の長期化に伴い家計の財産所得は低迷が続いてきたが、好調な企業業績を背景とした配当の増加を主因としてここにきて大幅に増加し、可処分所得の押し上げ要因となっている。

実質可処分所得は、所得税・住民税減税による押し上げ効果は剥落するが、名目賃金の高い伸びや物価上昇率の鈍化に伴う実質雇用者報酬の増加を主因として底堅く推移するだろう。2025年度は2024年度に実施された所得税・住民税減税の押し上げ効果が剥落する一方、好調な企業業績を受けた配当の増加、金利上昇に伴う利子所得の増加が可処分所得の押し上げ要因となるだろう。

民間消費は2023年度に前年比▲0.4%と3年ぶりに減少したが、2024年度が同0.8%、2025年度が同1.2%、2026年度が同1.5%と緩やかな増加が続くと予想する。
(設備投資は緩やかな回復が続く)
2023年度の設備投資は前年比▲0.1%と小幅ながら3年ぶりに減少したが、2024年度が同2.1%、2025年度が同2.3%、2026年度が同2.0%と緩やかな回復が続くことが予想される。

日銀短観2024年12月調査では、2024年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が9月調査から▲0.1%下方修正されたが、前年度比10.0%の高い伸びとなっている。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、デジタル化に向けた情報関連投資、Eコマース拡大に伴う建設投資などを中心に、基調としては回復の動きが続いていると考えられる。ただし、経常利益の回復ペースが徐々に鈍化していること、人手不足などの供給制約が設備投資の抑制要因となっていることから、増加ペースは緩やかにとどまるだろう。
設備投資計画(全規模・全産業)/経常利益計画(全規模・全産業)
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2023年9月以降、前年比で2%台の伸びが続いていたが、「酷暑乗り切り緊急支援」の終了に伴う電気・都市ガス代の上昇率急拡大を主因として2024年12月には同3.0%まで伸びを高めた。エネルギー関連の物価高対策は2024年1月まではコアCPI上昇率の押し下げ要因となっていたが、電気・都市ガス代の値引き額の縮小や政策の一時停止などにより、2024年2月以降は押し上げ要因となっている。

電気・都市ガス代の「酷暑乗り切り緊急支援」は2024年10月使用分でいったん終了したが、2024年11月に策定された経済対策で、「電気・ガス料金負担軽減支援事業」が2025年1~3月使用分で実施されることとなった(3月は補助額縮小)。ただし、値引き額は2024年夏よりも小さい。また、2024年末までとしていたガソリン、灯油等の「燃料油価格激変緩和対策」は、2025年入り後も継続されたが、補助金額が縮小され、ガソリン価格(レギュラー)は2024年12月中旬までの1リットル=175円程度から2025年1月中旬に185円程度に引き上げられた。エネルギー価格の上昇率は当面高止まりすることが見込まれる。
物価高対策(エネルギー関連)による消費者物価への影響 エネルギー関連の物価高対策による消費者物価上昇率への押し上げ幅は、2024年7-9月期の0.7%程度から10-12月期、2025年1-3月期には0.4%程度といったん縮小したが、電気・都市ガス代の支援策が終了する2025年4-6月期には押し上げ幅が再び拡大するだろう。エネルギー関連の物価高対策によるコアCPI上昇率への影響を年度ベースでみると、2022年度(▲0.6%程度)、2023年度(▲0.4%程度)は押し下げ要因となっていたが、2024年度から2026年度にかけては押し上げ要因となることが見込まれる(2024年度:0.5%程度、2025年度:0.3%程度、2026年度:0.1%程度と試算)。
食料品の輸入物価、国内企業物価、消費者物価 食料品(生鮮食品を除く)は2023年8月の前年比9.2%をピークに2024年7月には同2.6%まで鈍化したが、その後は輸入物価の再上昇に米価格の高騰が加わったことから再び上昇率が高まり、2024年12月は同4.4%となった。食料品値上げの動きはしばらく続く可能性が高いが、川上段階(輸入物価、国内企業物価)の食料品価格の上昇率は2023年夏頃に比べれば低水準にとどまっている。現時点では、消費者物価の食料品価格の上昇率は5%台まで高まった後、頭打ちになると予想している。
サービス価格の推移 サービス価格は2023年後半以降、2%台前半の伸びが続いていたが、2024年度入り後は1%台半ばまで伸びが鈍化している。サービス価格の内訳をみると、家賃を除くサービスは2023年末頃の前年比3%台後半をピークに伸びは鈍化しているが、2%台の伸びを維持している。

一方、サービスの4割弱を占める家賃は、前年比0%台前半の推移が続いており、サービス価格全体の伸びを抑制している。ただし、東京都区部の家賃は住宅価格高騰などの影響から、コロナ禍の前年比0%から1%近くまで上昇している。人口減少が顕著な地方では家賃の伸び悩みが続く公算が大きいが、大都市圏を中心に全国の家賃も徐々に上昇率を高めることが予想される。

サービス価格の動向を大きく左右する人件費は、高水準の賃上げを背景に増加が続くことが見込まれる。人件費や物流費を価格転嫁する動きが続くことから、サービス価格の上昇ペースは再び加速する可能性が高い。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 コアCPI上昇率は、2025年前半にエネルギー、食料を中心に3%前後で高止まりした後、財価格の上昇率低下を主因として徐々に鈍化するが、2025年中は2%台で推移するだろう。賃上げに伴うサービス価格の上昇を円高による財価格の上昇率鈍化が打ち消す形でコアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは2026年入り後と予想する。

コアCPIは、2023年度の前年比2.8%の後、2024年度が同2.7%、2025年度が同2.4%、2026年度が同1.7%、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2023年度の前年比3.9%の後、2024年度が同2.3%、2025年度が2.1%、2026年度が1.8%と予想する。

 
日本経済の見通し(2024年10-12月期1次QE(2/17発表)反映後)
米国経済の見通し
欧州(ユーロ圏)経済の見通し
 
 

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(2025年02月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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