2024年12月20日

がんに関する知識とがん検診受診率・がんに関する備え

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

がんは老化の一種と言われており、長寿化にともない、がんと診断される人は増加している1。およそ2人に1人が一生のうちにがんと診断され、3人に1人ががんで亡くなると推計されている。検査技術の発展による早期発見の増加や医療技術の進歩により、がん患者の生存率は向上しており、5年相対生存率は6割を超えている。また、がん治療における平均入院日数は短くなっており、通院しながら治療を受ける患者が増えていること等から、近年、がん治療を続けながら日常生活を送る人が増えている。

こういった状況を背景に、国では「がん対策推進基本計画」や「働き方改革実行計画」に基づき、がん検診受診の推奨や、治療と仕事の両立を社会的にサポートするための環境整備に取り組んでいる。しかし、二次予防として推進されているがん検診については、受診率は徐々に向上してきたものの国が目標としている50%には至っておらず、諸外国と比べても低い水準にとどまる。

そこで本稿では、人々は、がんについてどの程度の情報を知っているのか。知っている情報によって、がん検診の受診やがん罹患時の備えに違いはあるかについてニッセイ基礎研究所がおこなったアンケート調査の結果から紹介する。
 
1 がん対策推進企業アクションサイト「がん検診のススメ(新版) - がん患者の3人に1人は、バリバリの現役世代」https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/susume/2015/contents3.html

2――がん検診の実態

2――がん検診の実態

厚生労働省は、がんの早期発見と、死亡率の低下を目的とする対策型がん検診として、以下5つを実施体制の整った機関で受けることを推奨している。

・子宮頸がん検診(細胞診):20歳以上の女性 2年に1回
※HPV検査単独法が新たに追加。30歳以上の女性 5年に1回2

・乳がん検診(マンモグラフィ):40歳以上の女性 2年に1回

・胃がん検診(内視鏡):50歳以上の男女 2年に1回
※胃部X線検査(バリウム検査)は40歳以上も可。年1回

・肺がん検診(胸部X線、高危険群で喀痰):40歳以上の男女 年1回

・大腸がん検診(便潜血):40歳以上の男女 年1回
 
第3期がん対策推進基本計画(2017~2022年度)では、上記5つの検診について、検診受診率50%とすることを目標としてきた。しかし、検診受診率は上昇傾向にはあるものの、いずれも2022年調査時点では目標に達していない(図表1)。OECDのHealth Statistics3によると、女性の乳がん検診(50~69歳)と子宮頸がん検診(20~69歳)は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ等がおおむね7割以上を達成しており、日本のがん検診受診率は諸外国と比べても低い。

2023年度から開始した第4期がん対策推進基本計画では、検診受診率の目標を60%に引き上げ、引き続き推奨を行うことになっている。がん検診を受けない理由は受ける時間がないことや、費用負担が上位にくるが、がん検診を知らなかったことや、必要性を感じていないといった理由も多い。
図表1 がん検診受診率
 
2 厚生労働省が示す要件を満たす自治体に限り実施可能。HPV検査が陽性かつ細胞診の結果が陰性の場合は、1年後に住民検診の枠組みでHPV検査(追跡精検)が推奨される。
3 OECDサイト(https://stats.oecd.org/index.aspx?queryid=30159

3――がんに関する情報の認知

3――がんに関する情報の認知

1|がんについて、どういう情報を知っているか
本稿では、人々は、がんをどのようにとらえているのか。知っている情報によって、がん検診の受診やがん罹患時の備えに違いはあるかについて紹介する。使用したのは、2021年6月にニッセイ基礎研究所が実施した「がんの備えに対する意識調査」の結果である。本調査は、20~74歳の男女個人を対象とするインターネット調査で、回収数は3,000である。

調査では、がんについて、いくつかの情報をあげて、それぞれについてどの程度知っているか「よく知っている」「知っている」「聞いたことがある程度」「知らなかった」から回答を得た(図表2)。

「よく知っている」の割合が高いのは「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」で、「よく知っている」が22.3%、「よく知っている」と「知っている」をあわせて半数を超えた。「よく知っている」の割合がもっとも低かったのは、「がん全体の5年生存率は50%を超えている(5.9%)」で、「知っている(20.1%)」をあわせても3割に満たない。「知らなかった」がもっとも高いのは「がん全体の5年生存率は50%を超えている(44.2%)」だった。

厚生労働省では、継続的にがん検診を推奨してきているが、それでも、「厚生労働省では、がん検診を推奨している」は「よく知っている」と「知っている」をあわせて半数弱にとどまる。さらに、「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん(胃がん、肺がん、子宮頸がん、乳がん、大腸がん)を対象としている」は3割強にとどまっており、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」という情報は比較的知られているものの、厚生労働省による二次予防としてのがん検診推奨については、十分には周知されていないと言えるだろう。
図表2 がんに関する情報の認知(※「よく知っている」が高い順)
性別と年齢群団別に、「よく知っている」または「知っている」と回答した割合をみると、それぞれの情報によってバラバラではあるものの、「日本では、約2人に1人が、将来、がんにかかると推測されている」等の男女年齢による差が比較的小さい情報もあれば、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」「厚生労働省では、がん検診を推奨している」「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん対象としている」「がん全体の5年生存率は50%を超えている」のように高年齢で高い情報もあった。一方、「子宮頸がんのように若い世代で増えているがんもある」は、特に若年女性で高い等、がんに関する情報の拡がりは多様であることが伺える(図表3)。

一般に、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」と「がん全体の5年生存率は50%を超えている」や、「日本では、約2人に1人が、将来、がんにかかると推測されている」と「日本では、死亡者の約3人に1人が、がんで死亡している」等は互いに相関が強そうであるが、今回の調査では「厚生労働省では、がん検診を推奨している」と「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん対象としている」の相関がやや高かったものの、それ以外については情報間の認知の相関は低~中程度にとどまっており、個々の情報が単発的に認知されている様子がうかがえた。
図表3 性・年齢別がんに関する情報の認知:「よく知っている」または「知っている」と回答した割合(※図表2の順)

(2024年12月20日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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