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サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(1)-踊り場に立つサステナビリティの社会認知と、2030年への課題

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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3――サステナビリティ・キーワード理解状況
ここまでは、サステナビリティ・キーワードの認知率(聞いたことがある)を見てきた。ここからは、知っているキーワードに関して、それぞれの理解率(そのキーワードを認知している人を100%とした場合、内容まで理解していると回答した比率)を、認知率と同様に、44ワードのうち5%以上の認知率が認められた34ワードについて見ていくことにする。
全体的な理解率は「SDGs」(47.7%)、「フードロス」(42.9%)、「再生可能エネルギー」(32.5%)が上位となった。しかし、それ以外のキーワードはいずれも3割未満にとどまり、「サステナビリティ」(22.5%)は2割強にとどまった。この傾向は、2023年調査の結果とも概ね一致している。
さらに、2023年調査結果と比較して有意(p<.05)に理解率が増加したのは、「SDGs」(+4.7pt)、「ウェルビーイング」(+2.4pt)、「フェムテック」(+1.5pt)の3ワードのみとなり、2022年から2023年にかけて有意差をもって増加したキーワード数(8ワード)と比べて半数以下にとどまった。これは認知率と同様、サステナビリティ・キーワードの社会的浸透の伸び悩みを示す結果となった。
16 経済産業省は2021年度より「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を通じて、フェムテック企業と導入企業(女性を雇用する企業)、自治体、医療機関などが連携し、地域の実情やニーズに応じた形で、働く女性の健康の悩みを解消するためのサポートサービスを提供する実証事業を推進している。
これらのキーワードは日常生活、ニュース、教育現場などで広く取り上げられているため、社会全体への浸透と理解が進んでいると考えられる。
一方、右下の象限は、認知率が高く社会に浸透しつつあるものの、内容の理解に課題が残るキーワード群といえる。該当するキーワードは、「サステナビリティ」(41.1%、52.7%)、「カーボンニュートラル」(42.7%、49.2%)、「ダイバーシティ」(34.9%、47%)、「地方創生」(32.2%、53.2%)の4ワードである。これらは社会に着実に浸透している一方で、理解するために専門的知識が必要とされたり、概念の抽象度が高いワードも含まれており、社会的理解が十分に進んでいない可能性がある。
一方で、左上の象限は、認知率は高くないものの、一部で深く理解されているキーワード群である。「児童労働・強制労働」(26.6%、72.8%)、「マイクロプラスチック」(26%、74.4%)、「生物多様性」(22.7%、64.4%)、「ワーケーション」(20.9%、64.4%)、「3R/4R」(19.2%、79.3%)の5ワードが該当する。
生物多様性については、本調査の実施後の、10月から生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)17が開催されている。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)18や、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)など、株主・投資家向けのサステナビリティに関する情報開示ルール対応がビジネストピックになっている。そして今後は、株主や投資家のみならず、一般市民や消費者に対する情報提供と理解の促進に向けた取り組みが期待されるキーワードでもある。
なお、分析に四分位数を採用しているため、認知率と認知理解率の両方が高いとはいえない左下の象限に該当するキーワードが必然的に多い。消費の視点でみると「エシカル消費(倫理的消費)」(認知率:16.0%、認知理解率43.1%)が他のワードと比べても低く留まっており、「責任ある消費」の主要なキーワードとして考えると物足りない結果である。ESD(持続可能な開発のための教育)や、消費者への社会啓発など、サステナブル・マーケティングの観点からも、より一層の社会浸透と理解の促進が求められる結果である。
17 CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive):EUのサステナビリティ開示規制であり、2023年1月5日に発効。
18 The Taskforce on Nature-related Financial Disclosures。自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するために設立された国際的組織。2023年9月に開示枠組v1.0を公表。それ以降、開示を表明した日本企業は約130社と世界最多である。
4――まとめ~着実に進む株主・投資家向けのサステナ情報開示。消費者への浸透・理解は大きな課題
しかし一方で、「循環型経済モデル」や「責任ある消費(Responsible Consumption)」のさらなる促進に向けて、市民や消費者による広範で積極的な支持と自発的な取り組みが欠かせない。
今回の調査から、2023年の調査と比較して「3R/4R」、「SDGs」、「ウェルビーイング」、「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」など、サステナビリティの中核をなすキーワードの認知率・理解率は着実に増加していることがわかった。しかし、全般的には2023年に比べて低下したキーワードが多く、伸び悩みの傾向を示している。特に、消費の観点からは「エシカル消費(倫理的消費)」は依然として認知・理解ともに十分に高いとは言えない。
「伊藤レポート 3.0」(SX 版伊藤レポート)では、企業が社会の持続可能性に資する価値を消費者に提供し、企業の長期的な成長原資を稼ぐ力20を高めていくことで、社会のサステナビリティと企業のそれを「同期」させることが重要とされている。
そのためには、2030年に向けて、「責任ある消費」や「循環型経済モデル」の主な担い手である、消費者のサステナビリティの認知と理解、そして行動を後押ししていく必要があり、さらなる社会的な啓発や、新たな取り組みが求められていると思われる。
本稿では、一定の世帯金融資産や年収水準があり、かつ、世帯年収が高まる、または年代が60代を超える場合、キーワードの認知と理解が進む傾向が確認された。サステナビリティ・マーケティングの観点では、高世帯年収層と資産形成層では、サステナビリティに関する認知・理解の特徴に違いが見られ、それぞれ異なる側面からサステナビリティへの態度が形成されているとも推測される。
次回のサステナビリティ意識や行動の分析では、これらの層が「循環型経済モデル」や「責任ある消費」を推進する社会的役割を担っていくことへの期待を込め、引き続き注目していきたい。
19 2023年6月26日に最初の全般的開示要求事項を公表した。企業の見通しに影響を与えると合理的に予想し得るサステナビリティ関連のすべてのリスクと機会に関する重要情報を開示することを要求している。
20 世界経済フォーラムのGlobal Risks Report 2022によれば、ネイチャーポジティブへの移行によって2030年までに年間10兆1,000億ドルのビジネス価値と3億9,500万人の雇用が創出されると評価している。また、日本では2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定され、その3番目の基本戦略として「ネイチャーポジティブ経済の実現」が掲げられている。
(2024年12月20日「基礎研レポート」)
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- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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