2024年12月09日

米国経済の見通し-25年以降の経済見通しはトランプ次期政権の政策が左右

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)7-9月期の成長率は前期から小幅低下も堅調を維持
米国の24年7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+2.8%(前期:+3.0%)と前期から小幅に低下したものの、堅調を維持した(図表1、図表8)。

需要項目別では、住宅投資が前期比年率▲5.0%(前期:▲2.8%)と2期連続でマイナス成長となったほか、前期からマイナス幅が拡大した。また、外需の成長率寄与度が▲0.6%ポイント(前期:▲0.9%ポイント)とマイナス幅が縮小したものの、3期連続で成長を押し下げたほか、在庫投資の成長率寄与度も▲0.1%ポイント(前期:+1.1%ポイント)と前期の大幅な成長押し上げから小幅ながら成長押し下げに転じた。

一方、設備投資が前期比年率+3.8%(前期:+3.9%)と前期並みを維持したほか、政府支出が+5.0%(前期:+3.1%)と前期から伸びが加速した。さらに、個人消費も+3.5%(前期:+2.8%)と前期から伸びが加速するなど、個人消費主導の景気回復が持続していることを確認した。

とくに、個人消費は10月の実質個人消費(前月比)が+0.1%(前月:+0.5%)と高い伸びとなった前月から低下したものの、引き続きプラスを維持している(図表2)。実質個人消費の内訳では最近変動が大きくなっている財消費が横這い(前月:+1.1%)と前月から低下した一方、サービス消費が+0.2%(前月:+0.2%)と底堅い伸びが続いている。

また、米国は年末商戦を迎えているが、全米小売業協会(NRF)による今年の年末商戦の売上高予想は前年比+2.5%~+3.5%と昨年の+3.9%からは低下も、底堅い伸びが予想されている(図表3)。実際に、マスターカードは同社の決済サービス利用額に基づいて推計した11月29日のブラックフライデーの売上高が前年比+3.4%と発表1しており、NRFの予想上限に近い水準となっている。
(図表2)実質個人消費および実質可処分所得(前月比)/(図表3)年末商戦売上高および前年比増加率
一方、FRBは24年9月のFOMC会合でインフレリスクが後退する中でこれ以上の労働市場の悪化は望まないとして▲0.5%ポイントの引下げを決定した。FRBは政策金利が依然として中立金利を上回っていると判断しており、時間をかけて利下げを継続する方針を示している。

FRBの政策目標のうち、労働市場は非農業部門雇用者数(前月比)がハリケーンやストライキの影響で10月に+3.6万人に留まった後、11月は+22.7万人に大幅増加したことで雇用増加ペースの急減速懸念は後退した(図表4)。もっとも、3ヵ月移動平均では11月が+17.3万人と年初の+24.3万人から低下するなど雇用増加ペースの緩やかな減速が続いている。また、失業率は11月が4.2%と過去との比較では依然低水準を維持しているものの、昨年4月の3.4%からは上昇し、労働需給の緩和を示しており、労働市場は全般的に減速傾向が続いている。

次に、インフレは主要な物価指標(前年同月比)で低下基調が持続しているものの、消費者物価(CPI)の総合指数が10月は+2.6%と7ヵ月ぶりに前月から上昇したほか、物価の基調を示すコア指数も+3.3%と8月の+3.2%から小幅に上昇した(図表5)。さらに、FRBが物価指標として注目するPCE価格指数も同様に10月の総合指数が+2.3%と3ヵ月ぶりに上昇したほか、コア指数も+2.8%と6月の+2.6%から上昇しており、いずれも物価目標(2%)を上回っているほか、足元で低下が足踏みとなっている。
(図表4)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表5)CPI、PCE価格指数(前年同月比)
このような中、FRBは労働市場の減速を踏まえて12月のFOMC会合でも▲0.25%の利下げを実施するとみられるものの、会合後に発表される来年以降のFOMC参加者の政策金利見通し(中央値)はインフレの上振れなどを反映して、9月発表時点から上方修正される可能性が高いだろう。また、トランプ次期政権への政権交代によるインフレへの影響についてどのような評価を示すのか注目される。
(経済見通し)成長率(前年比)は24年見込が+2.7%、25年が+1.8%、25年が+1.5%を予想。
11月の大統領・議会選挙ではトランプ前大統領が再選を果たし、議会は上下院で共和党が過半数を確保しトリプルレッドとなった。このため、トランプ氏が掲げる政策公約の実現可能性が上昇した。トランプ氏は主要な経済政策として、税制改革、関税引上げなどの通商政策、不法移民の強制送還などの移民政策、エネルギー分野をはじめとする規制緩和などを掲げている。当研究所はこのうち、税制改革や規制緩和が成長押上げ要因となる一方、関税の引上げや不法移民の強制送還が成長押し下げ要因と考えており、最終的な経済への影響はトランプ次期政権がどの政策をどのような優先順位でどこまで実行するのかによって大きく左右されるとみられる。

当研究所は経済見通しを策定する際の経済政策の前提として、税制改革、通商政策、移民政策、規制緩和について(図表6)に示す前提を置いた。税制改革はトランプ氏の政策公約を実現、通商政策では対中関税30%が25年初から、全輸入品に対する5%関税を26年初から実施すると想定した。また、移民政策については不法移民65万人の強制送還を25年初から開始すると想定した。一方、規制緩和については定性的には成長押上げ要因となることが見込まれるものの、定量評価が困難なため、経済見通しへの影響を中立とした。
(図表6)見通し前提
これらを踏まえて、税制改革の経済見通しの影響については米シンクタンクのTax Foundationの推計2を通商政策、移民政策についてはピーターソン国際経済研究所の各政策に対する推計3を使って、ベースケースシナリオへの影響を試算した。当研究所はベースケースシナリオの成長率(前年比)を25年、26年ともに+1.9%と想定した。なお、税制改革のうち、2017年の減税・雇用法(TCJA)で25年末を期限とする暫定措置の期限延長については、ベースケースシナリオに含まれている。

前期の試算からベースケースシナリオに対する成長率への影響は税制改革(新規提案分)が25年、26年をそれぞれ+0.1%ポイント押し上げる一方、通商政策は25年に横這い、26年を▲0.4%ポイント押し下げ、不法移民の強制送還は25年を▲0.1%ポイント、26年を▲0.2%ポイント押し下げると推計し、合計で25年を▲0.1%ポイント、26年を▲0.4%ポイント押し下げると予想した。この結果、成長率は24年見込の+2.7%から25年が+1.8%、26年が+1.5%と予想する(図表7、図表8)。

一方、CPIへの影響については、関税引上げがインフレを押し上げるほか、移民の強制送還も労働力不足に伴う労働需給の逼迫を背景にした賃金インフレの加速からインフレを押し上げることが見込まれる。CPI(前年比)のベースケースからの押上げ幅は成長率と同様の試算で、ベースケースシナリオ(25年:+2.3%、26年:+2.2%)から25年は+0.4%ポイント、26年は+0.6%ポイント押し上げられると予想する。この結果、CPI(前年比)は24年見込の+3.0%から25年が+2.7%、26年が+2.8%となろう。

金融政策は、ベースケースシナリオでは25年に四半期毎に1回の頻度で、年4回の利下げを見込むほか、26年は年2回の利下げを見込む。これに対して、トランプ氏の経済政策によるインフレ加速に伴いFRBは25年後半から26年後半にかけて政策金利を据え置く結果、利下げ回数は25年が2回、26年が1回に留まろう。

長期金利はインフレ高進や利下げ回数の減少、財政赤字悪化懸念などを背景に25年、25年ともにベースケースからそれぞれ+0.5%ポイント、26年が+0.8%ポイント上振れしよう。
(図表7)経済予測表
上記見通しに対するリスクは、インフレ高進とトランプ氏の政策の予見可能性の低下が挙げられる。前述のようにトランプ氏が実現を目指す関税の引上げや移民の強制送還はインフレを押し上げる可能性が高い。関税の引上げは一時的なインフレ押上げ要因とみられるが、不法移民の強制送還で労働力不足が深刻化し、賃金と物価がスパイラル的に上昇する場合にはFRBはインフレ抑制のために政策金利の引上げを余儀なくされる可能性がある。また、トランプ氏がFRBに対して利上げしないように政治的な圧力をかける場合には期待インフレ率の上昇を招きインフレ高進リスクがより高まろう。この結果、早晩金融政策は引締め政策に軌道修正せざるを得なくなり、米経済には下振れリスクとなろう。

一方、トランプ氏は11月25日にSNS上で薬物問題や不法移民問題を背景に中国からの輸入品に10%、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を賦課する可能性を示唆した。カナダやメキシコに対する25%関税は選挙公約で言及されたことはなく、寝耳に水の政策であった。トランプ氏の1期目を振り返っても、SNS上で唐突に政策方針が示されることが多く、2期目も同様の事が繰り返され、政策の予見可能性が低い状況が続くとみられる。政策の予見可能性の低下は家計や企業の意思決定に影響を与えるため、個人消費や設備投資が抑制される可能性が高まろう。
(図表8)米国経済の見通し

(2024年12月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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