2024年11月08日

米FOMC(24年11月)-予想通り、政策金利を▲0.25%引き下げ。パウエル議長が任期途中での辞任を否定

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、2会合連続で政策金利を引き下げ、決定は全会一致

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が11月6日-7日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を▲0.25%引き下げて4.5%-4.75%とした。利下げは前回9月会合に続いて2会合連続。量的引締め政策の変更はなかった。今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

今回発表された声明文では、景気判断部分で労働市場に関する記述が小幅に表現変更されたが、それ以外で大きな変更はなかった。経済見通し部分では「インフレが持続的に2%に向かいつつあることに自信を深めている」との表現が削除された。パウエル議長はFOMC会合後の記者会見で既に確信を得られたため削除したと説明した。一方、ガイダンス部分の変更はなかった。

2.金融政策の評価:選挙の影響もあって来年以降の金融政策運営は不透明

政策金利の▲0.25%引き下げは予想通り。また、声明文についても大幅な変更は無く、概ね予想通りの結果であった。

パウエル議長の記者会見では、米国経済や労働市場が堅調を維持していると評価した後、雇用の最大化とインフレ安定の金融政策目標に対するリスクが均衡していることを示した。また、今日の利下げの後でも政策金利が依然として中立金利を上回って制限的であるとして、利下げを急ぎ過ぎることでインフレが高止まりするリスクと、利下げが遅すぎることで景気後退を招くリスクの間で注意深く利下げ余地を探ってゆく方針が示された。

一方、選挙に絡んで来年以降の経済政策変更が金融政策に与える影響やトランプ次期大統領からの辞任圧力などについて多く質問された。同議長は経済政策変更が短期的な金融政策に影響することは否定しつつ、来年以降の政策変更の影響は不透明で金融政策への影響は不明とした。また、大統領から求められた場合の任期途中の辞任の可能性を否定したほか、大統領には辞任や降格の法的な権限がないことを明確に示した。

現時点でトランプ次期大統領が選挙公約をどの程度実現するのか不透明だが、関税引き上げや移民の強制送還などの政策を実現した場合に輸入物価や労働力不足に伴う賃金上昇からインフレ上昇圧力が高まることが見込まれる。このため、FRBは労働市場の悪化を招かずにインフレを抑制する難しい舵取りを迫られる可能性が高い。

当研究所は本日のFOMC会合を受けて、12月会合での0.25%利下げ見通しを維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • インフレの進展とリスクのバランスを考慮し、委員会はFF金利誘導目標水準を0.5%ポイント引き下げ、4.75-5.0%とすることを決定(今回削除)
  • これらの目標達成を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.5-4.75%とすることを決定(今回追加)
  • 財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(変更なし)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(変更なし)
  • 年初来、労働市場の状況は概ね緩和してきた、失業率は上昇したが低水準を維持している(前回の「雇用の増加は鈍化」“Job gains have slow”から「労働市場の状況は概ね緩和してきた」”labor market conditions have generally eased”に表現変更)
  • インフレは委員会の物価目標2%に向けて進展したが、依然としてやや高止まりしている(前回あった「更なる進展」の「更なる」”further”が削除)
 
(景気見通し)
  • 委員会はインフレが持続的に2%に向かいつつあることに自信を深めている(今回削除)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している(小幅な表現変更)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日、FOMCは政策金利を▲0.25%ポイント引き下げることにより、政策抑制の程度を軽減する新たな一歩を踏み出すことを決定した。我々は政策スタンスを適切に調整することで、経済と労働市場の力強さを維持し、インフレ率を持続的に2%まで低下させることができると確信している。
    • 労働市場は引き続き堅調である。一方、全体として広範な指標は、労働市場の状況が2019年のパンデミック直前よりもタイトでなくなっていることを示唆している。労働市場は大きなインフレ圧力の源泉ではない。
    • インフレ率は過去2年間で大幅に低下した。全体としてインフレ率は2%の長期目標に近づいたが、コア・インフレ率はやや高止まりしている。
    • 我々は、雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡しているとみている。本日の政策スタンスのさらなる再調整は、経済と労働市場の力強さを維持するのに役立ち、長期的により中立的なスタンスへと移行する中で、インフレ率低下のさらなる進展を可能にし続けるだろう。
    • 経済が堅調に推移し、インフレ率が持続的に2%を目指すものでなければ、政策の抑制をより緩やかにすることができる。労働市場が予想外に弱まり、インフレ率が予想以上に急速に低下した場合は、より迅速に対応することができる。
 
  • 主な質疑応答
    • (次期政権による経済政策の変化に対してFRBはどう対応するのか)短期的に選挙が我々の政策決定に影響を与えることはない。政策変更のタイミングや内容が分からないため、政策目標の達成にどの程度重要か我々には分からない。一方、一般的に経済政策が長期的に経済効果をもたらす可能性があるため、他の要因とともに経済モデルに含めてそれらを考慮することになる。
    • (9月会合以降、貯蓄率、GDPなど多くの良好な経済指標が発表されているが、利下げをする理由は何か)本日の利下げをもってしても、政策は依然として制限的であると考えている。労働市場は均衡が取れており、これ以上の冷え込みは必要ない。インフレはまだ終わっていない。政策スタンスを再調整することで、政策スタンスがインフレ目標に向けてさらなる進展を可能とする一方で、労働市場の強さを維持できると考えている。
    • (政策金利を中立的な金利水準にすぐに到達させるのか)経済データは委員会が急ぐ必要があることを示唆するものは何もない。我々は力強い経済活動を目の当たりにしている。労働市場は引き続き力強い状態にあり、力強さが維持されるとみている。このため、中立金利に向けて慎重に辛抱強く到達できると考えている。
    • (大統領に辞任しろと言われれば辞任するのか、大統領に辞任や降格の権限はあるのか)辞任するつもりはない。大統領の権限は法律では認められていない。
    • (一般的なアメリカ人が経済の力強さを実感できない理由は何か)人々はまだ物価高の影響を感じている。実感するようになるには何年かの実質的な賃金上昇が必要だ。そう感じるようになるにはまだ時間がかかるだろう。
    • (来年の利上げの可能性を排除できるのか)いや、そこまで先のことは排除しないが、それは我々の計画ではない。我々の基本的な予想は経済が健全成長を続け、労働市場が堅調を維持し、中立水準に向かって徐々に低下するというものだ。しかし、我々は1年も先を見越して決定できる世界にはいない。我々の行動にはあまりにも不確実性がある。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年11月08日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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