2024年11月05日

米雇用統計(24年10月)-非農業部門雇用者数はハリケーンやストの影響もあり、前月比+1.2万人と市場予想の+10万人を大幅に下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を大幅に下回った一方、失業率は市場予想に一致

11月1日、米国労働統計局(BLS)は10月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+1.2万人の増加1(前月改定値:+22.3万人)と+25.4万人から下方修正された前月、市場予想の+10.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回り、20年1月以来の水準となった(後掲図表2参照)。

失業率は4.1%(前月:4.1%、市場予想:4.1%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.7%、市場予想:62.7%)と前月から▲0.1%ポイント低下したほか、横這いを見込んだ市場予想も下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:非農業部門雇用者数はハリケーン、ストライキの影響もあって大幅に低下

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は10月が市場予想を大幅に下回る結果となった。その要因として、9月下旬のハリケーン「へリーン」と10月上旬の「ミルトン」の影響が指摘されている。BLSはこれらの影響を量的に示すことは困難としながらも、同調査の回答率が通常より大幅に低下したとし、ハリケーンが雇用者数に影響したことを指摘している。実際に、10月の回答率は47.4%と10月としては1985年以来の水準に留まった。また、ボーイングのストライキなどの影響で輸送機器製造が前月比▲4.4万人となるなど、ストライキも10月の雇用者数を減少させたとみられる。もっとも、雇用者数は後述するように過去2ヵ月分も合計▲11.2万人の大幅な下方修正となっており、雇用鈍化がハリケーンやストライキの影響だけとは言い切れない。

家計調査の回答率は事業所調査とは対照的にハリケーンに伴う大きな影響はみられなかったようだ。失業率は労働市場が引続き逼迫している状況を示唆している。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月改定値:+0.3%、市場予想:+0.3%)と+0.4%から小幅下方修正された前月、市場予想を上回った。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+4.0%(前月改定値:+3.9%、市場予想:+4.0%)と+4.0%から小幅下方修正された前月を上回った一方、市場予想に一致した(図表1)。時間当たり賃金は7月の+3.6%を底に3ヵ月連続で上昇しており、賃金上昇率の低下は一服している。

このようにみると、10月の雇用統計は失業率が前月から横這いとなった一方、雇用者数が市場予想を大幅に下回ったほか、過去2ヵ月分も大幅に下方修正されたことでハリケーンやストライキの影響だけでなく雇用が鈍化している可能性を示唆している。このため、ハリケーンの影響が緩和するとみられる11月に雇用者数がどの程度持ち直すか注目される。

3.事業所調査の詳細:幅広い業種で雇用が減少

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+0.9万人(前月:+16.9万人)と前月から伸びが大幅に鈍化し、20年12月以来の水準に低下した(図表2)。

民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+5.1万人(前月:+8.0万人)と前月から伸びが鈍化したほか、運輸・倉庫が▲0.4万人(前月:+0.3万人)、小売業が▲0.6万人(前月:+1.5万人)、娯楽・宿泊が▲0.4万人(前月:+4.0万人)と前月からマイナスに転じた。さらに、人材派遣業が▲4.9万人(前月:▲2.0万人)となったこともあって、専門・ビジネスサービスが▲4.7万人(前月:▲0.9万人)と前月から大幅にマイナス幅が拡大した。

財生産部門は前月比▲3.7万人(前月:+2.3万人)と前月からマイナスに転じた。建設業が+0.8万人(前月:+2.7万人)と前月から伸びが鈍化したほか、製造業が▲4.6万人(前月:▲0.6万人)と前月からマイナス幅が拡大した。製造業の減少は前述のように輸送機器製造の落ち込みが大きい。

政府部門は前月比+4.0万人(前月:+3.1万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.1万人(前月:+0.4万人)と前月から小幅に伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+3.9万人(前月:+2.7万人)と前月から伸びが加速して政府部門全体を押し上げた。
前月(9月)と前々月(8月)の雇用増加数(改定値)は前月が+22.3万人(改定前:+25.4万人)と▲3.1万人下方修正されたほか、前々月が+7.8万人(改定前:+15.9万人)と▲8.1万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲11.3万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って10月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+23.3万人(前月改定値:+15.9万人、市場予想:+11.1万人)と+14.3万人から上方修正された前月、市場予想を大幅に上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが大幅に鈍化した雇用統計とは不整合な結果となった。

10月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が35.46ドル(前月:35.33ドル)となり、前月から+13セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.3時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,216.28ドル(前月:1,211.82ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の減少を伴って労働参加率が4ヵ月ぶりに低下

家計調査のうち、10月の労働力人口は前月対比で▲22.0万人(前月:+15.0万人)と前月からマイナスに転じた。内訳を見ると、失業者数が+15.0万人(前月:▲28.1万人)と前月からプラスに転じた一方、就業者数が▲36.8万人(前月:+43.0万人)と失業者数の増加を上回る減少を示して労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+42.8万人(前月:+7.5万人)と3ヵ月連続のプラスとなったほか、プラス幅が拡大した。これらの結果、労働参加率は62.6%と4ヵ月ぶりに前月から▲0.1%ポイント低下した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は10月が83.5%(前月:83.8%)と前月から▲0.3%ポイント低下し、24年4月以来の水準となった。男女の内訳は、男性が89.3%(前月:89.5%)と前月から▲0.2%ポイント、女性が77.8%(前月:78.1%)と前月から▲0.3%ポイント、それぞれ低下した。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
失業率は10月が4.1%と前月から横這いとなった(図表6)。この結果、サームルール指標は10月が+0.43%ポイントと景気後退の開始を示すとされる+0.5%ポイントの水準を4ヵ月ぶりに下回った。このため、足元で米景気後退の兆候がみられない中でサームルール指標は、景気後退に関して間違ったサインを出した可能性が高まった。
 
10月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は160.8万人(前月:163.0万人)と前月から▲2.2万人減少した。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは22.9%(前月:23.7%)と前月から▲0.8%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は22.9週(前月:22.6週)とこちらは前月から+0.3週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(157.2万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(455.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、10月が7.7%(前月:7.7%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.6%ポイント(前月:+3.6%ポイント)と前月から横這いとなった。
(図表7)(図表7)
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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(2024年11月05日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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