2024年10月31日

米GDP(24年7-9月期)-前期比年率+2.8%と前期から小幅低下、市場予想の+2.9%も小幅に下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は10期連続のプラス、前期、市場予想を小幅に下回る

10月30日、米商務省の経済分析局(BEA)は24年7-9月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で+2.8%(前期:+3.0%)と10期連続のプラス成長となった一方、前期、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+2.9%を小幅に下回った(図表1・2)。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
7-9月期の成長率を需要項目別にみると、個人消費が前期比年率+3.7%(前期:+2.8%)、政府支出が+5.0%(前期:+3.1%)と前期から伸びが加速したほか、外需の成長率寄与度は▲0.56%(前期:▲0.90%)と前期に続いてマイナスとなったものの、前期からマイナス幅は縮小した(図表2)。

一方、設備投資が前期比年率+3.3%(前期:+3.9%)と前期から小幅ながら伸びが鈍化したほか、住宅投資が▲5.1%(前期:▲2.8%)と前期に続いてマイナス成長となった。さらに、在庫の成長率寄与度が▲0.17%ポイント(前期:+1.05%ポイント)と前期からマイナスに転じて成長率を押し下げた。

これらの結果、GDPから在庫投資と外需を除いた国内最終需要は前期比年率+3.5%(前期:+2.8%)となり、GDPの伸びが鈍化したのとは対照的に国内需要の伸びは前期から加速しており、内需が依然として堅調であることを確認した。

このように、当期は前期から小幅に伸びが鈍化したものの、個人消費主導で前期に続き2%近辺とみられる潜在成長率を大幅に上回る成長が持続しており、米国経済が好調を維持していることを確認する結果となった。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)財消費が前期から大幅に増加
7-9月期の個人消費は、財消費が前期比年率+6.0%(前期:+3.0%)と前期から大幅に伸びが加速した一方、サービス消費が+2.6%(前期:+2.7%)とこちらは概ね前期並みの伸びを維持した(図表3)。

財消費では、耐久財が+8.0%(前期:+5.5%)、非耐久財が+5.0%(前期:+1.7%)といずれも前期から伸びが大幅に加速した。

耐久財では、自動車・自動車部品が+10.0%(前期:+6.5%)と2桁の伸びとなったほか、家具・家電が+9.0%(前期:+8.0%)、娯楽・スポーツカーが+8.0%(前期:+5.1%)といずれも前期から伸びが加速した。

非耐久財はガソリン・エネルギーが+2.0%(前期:+7.5%)と前期から大幅に伸びが鈍化した一方、食料・飲料が+3.0%(前期:+2.2%)と前期から伸びが加速したほか、衣料・靴が+4.0%(前期:▲3.2%)と前期からプラスに転じて、非耐久財消費全体を押し上げた。

サービス消費は、住宅・公共料金が+2.0%(前期:+1.9%)、娯楽サービスが+3.0%(前期:+2.0%)と前期から小幅ながら伸びが加速したほか、飲食・宿泊サービスが+4.0%(前期:▲0.2%)、金融サービスが+1.0%(前期:▲0.8%)と前期からプラスに転じた。一方、医療サービスが+3.0%(前期:+3.2%)と前期から小幅に伸びが鈍化したほか、輸送サービスが+5.0%(前期:+15.0%)と前期から大幅に伸びが鈍化するなどマチマチの結果となった。

一方、実質可処分所得は前期比年率+1.6%(前期:+2.4%)と前期から伸びが鈍化した(図表4)。貯蓄率は4.8%(前期:5.2%)と前期から低下した。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
(民間投資)設備機器投資は好調維持も建設投資が減少
7-9月期の民間設備投資は設備機器投資が前期比年率+11.1%(前期:+9.8%)と前期から伸びが加速したほか、知的財産投資が+0.6%(前期:+0.7%)と概ね前期並みの伸びを維持した(図表5)。一方、建設投資が▲4.0%(前期:+0.2%)と11期ぶりにマイナスに転じるなどマチマチの結果となった。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 建設投資では、商業・医療が前期比年率▲8.1%(前期:▲13.0%)とマイナス幅は縮小したものの、4期連続のマイナスとなったほか、電力・通信が▲3.2%(前期:▲1.9%)と前期からマイナス幅が拡大した。また、資源関連も▲8.2%(前期:+5.6%)と前期からマイナスに転じた。さらに、製造業が+2.2%(前期:+21.7%)と2桁の伸びとなった前期から大幅に伸びが鈍化した。

設備機器投資は、輸送機器が+25.9%(前期:+41.4%)と依然として2桁の伸びを維持しているものの、前期から伸びが鈍化した一方、産業機器が+7.4%(前期:▲4.1)と前期からプラスに転じたほか、情報処理関連が+14.7%(前期:+8.0%)と前期から伸びが加速して設備機器投資全体を押し上げた。

知的財産投資では、研究・開発が横這い(前期:▲0.2%)と前期から小幅ながらプラスに転じたものの、娯楽・文学等が▲3.4%(前期:▲2.1%)と前期からマイナス幅が拡大したほか、ソフトウエアが+1.9%(前期:+2.3%)と前期から伸びが鈍化した。

最後に住宅投資は、集合住宅が前期比年率▲8.7%(前期:▲9.0%)と前期並みのマイナスとなったほか、戸建てが▲16.0%(前期:▲8.1%)と前期からマイナス幅が拡大して住宅投資全体を押し下げた。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)国防関連の連邦政府支出が大幅に増加
7-9月期の政府支出は、州・地方政府支出が前期比年率+2.3%(前期:+2.3%)と前期並みの伸びとなった一方、連邦政府が+9.7%(前期:+4.3%)と前期から大幅に伸びが加速して政府支出全体を押し上げた(図表6)。

連邦政府支出では、非国防支出が+3.2%(前期:+1.5%)と前期から伸びが加速したほか、国防関連支出が+14.9%(前期:+6.4%)と前期から大幅に伸びが加速して連邦政府支出を大幅に押し上げた。
(貿易)財は輸出入とも大幅に増加
 7-9月期の輸出入は輸出が前期比年率+8.9%(前期:+1.0%)と前期から伸びが大幅に加速したものの、輸入が+11.2%(前期:+7.6%)と輸出を上回る伸びとなった結果、外需の成長率寄与度はマイナスとなった。もっとも、輸出の伸び加速を反映して前期からマイナス幅は縮小した。

輸出を仔細にみると、財輸出が前期比年率+12.2%(前期:+0.9%)と前期から大幅に伸びが加速したほか、サービス輸出も+3.0%(前期:+1.2%)と前期から伸びが加速した(図表7)。

財輸出では、自動車関連が▲16.4%(前期:+6.9%)、消費財(食料、自動車関連除く)が▲9.2%(前期:+23.8%)と前期からマイナスに転じた。一方、資本財(自動車関連除く)が+28.6%(前期:+9.2%)と前期から大幅に伸びが加速したほか、食料・飲料が+28.9%(前期:▲25.4%)、工業用原料が+12.3%(前期:▲9.9%)と前期からプラスに転じた。工業用原料では石油・石油製品が+14.4%(前期:▲10.3%)と前期から大幅なプラスに転じて、工業用原料全体を押し上げた。

サービス輸出では、輸送が▲14.0%(前期:+10.0%)と前期から大幅なマイナスに転じたほか、旅行が+5.6%(前期:+6.7%)と前期から伸びが鈍化した。一方、当期は政府による物品およびサービス輸出が+235.8%(前期:▲44.4%)と前期から大幅なプラスに転じてサービス輸出全体を押し上げた。

一方、輸入は財輸入が+11.6%(前期:+8.4%)、サービス輸入が+9.4%(前期:+4.3%)といずれも前期から伸びが加速した(図表8)。

財輸入では、自動車関連が▲14.9%(前期:+3.5%)と前期からマイナスに転じた一方、資本財(自動車関連除く)が+31.2%(前期:+21.1%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+20.3%(前期:+6.0%)と前期から大幅に伸びが加速したほか、食料・飲料が+9.1%(前期:▲4.3%)、工業用原料が+2.4%(前期:▲1.7%)と前期からプラスに転じた。

サービス輸入は、旅行が+0.4%(前期:+5.1%)と前期から伸びが鈍化した一方、輸送が+17.7%(前期:▲4.8%)と前期から2桁のプラスに転じてサービス輸入全体を押し上げた。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格指数(前期比年率)は総合、コア指数ともに前期から低下
7-9月期のGDP価格指数は前期比年率+1.8%(前期:+2.5%)と前期、市場予想(同+1.9%)を下回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+4.7%(前期:+5.6%)と実質成長率に比べて前期からの低下幅が拡大した(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+1.5%、前年同期比+2.3%(前期:+2.5%、+2.6%)と前期に比べて前期比、前年同期比ともに低下した(図表10)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は、前期比年率+2.2%、前年同期比+2.7%(前期:+2.8%、+2.7%)となり、こちらは前期比が前期から低下した一方、前年同期比は前期から横這いとなった。この結果、コア指数は前年同期比でFRBが物価目標とする2%を依然上回っているほか、低下が足踏みとなった。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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(2024年10月31日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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