2024年12月09日

米雇用統計(24年11月)-非農業部門雇用者数はハリケーンやストライキの影響で落ち込んだ前月から大幅に増加、市場予想も上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は市場予想を上回る悪化

12月6日、米国労働統計局(BLS)は11月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+22.7万人の増加1(前月改定値:+3.6万人)と+1.2万人から上方修正された前月を大幅に上回ったほか、市場予想の+22.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.1%、市場予想:4.1%)と前月から+0.1ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想も上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.5%(前月:62.6%、市場予想:62.7%)と前月から▲0.1%ポイント低下、改善を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:非農業部門雇用者数は前月から大幅に増加も労働市場の減速は継続

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)はハリケーンやボーイングのストライキの影響で10月に大幅低下していたが、11月は大幅増加に転じたほか、過去2ヵ月分も合計で+5.6万人上方修正されたことから、足元で堅調な雇用増加が続いていることを確認した。もっとも、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+17.2万人と24年初の+24.3万人からは大幅に低下しており、雇用増加ペースの鈍化傾向は続いている。

さらに、家計調査でも就業者数(前月比)が11月に▲35.5万人の大幅な減少となったほか、労働参加率の低下を伴って失業率が上昇していることから、労働需給の緩和を確認する結果となった。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)と低下予想に反して前月並みに高止まりする結果となった。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 また、前年同月比も+4.0%(前月:+4.0%、市場予想:+3.9%)と前月に一致、低下を見込んだ市場予想を上回った(図表1)。このため、時間当たり賃金は7月の+3.6%を底に4ヵ月連続で上昇しており、賃金上昇率の低下は一服している。

このようにみると、11月の雇用統計は非農業部門雇用者数が前月にみられたハリケーンやストライキの影響が剥落して大幅に増加したものの、雇用増加ペースの鈍化傾向が続いているほか、失業率の上昇など労働市場の減速が続いていることを確認する結果となった。また、労働需給の緩和にもかかわらず、足元で賃金が高止まりしているため、FRBの物価目標の達成には暫く時間を要する可能性が示唆される結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:小売業が減少した一方、娯楽・宿泊などが大幅に増加

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+16.0万人(前月:+4.2万人)と前月から伸びが大幅に加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲2.8万人(前月:▲0.4万人)と2ヵ月連続で減少したほか、マイナス幅が拡大した。

一方、運輸・倉庫が+0.3万人(前月:▲0.4万人)と前月からプラスに転じたほか、人材派遣業が+0.2万人(前月:▲3.3万人)となったこともあって、専門・ビジネスサービスも+2.6万人(前月:▲2.3万人)と前月からプラスに転じた。さらに、医療・社会扶助サービスが+7.2万人(前月:+6.4万人)、娯楽・宿泊が+5.3万人(前月:+0.2万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+3.4万人(前月:▲4.4万人)と前月からプラスに転じた。建設業が+1.0万人(前月:+0.2万人)と前月から伸びが加速したほか、製造業が+2.2万人(前月:▲4.8万人)と前月からプラスに転じた。製造業の増加はボーイングのストライキが終息したことに伴い輸送機器製造が+3.2万人(前月:▲4.2万人)とプラスに転じたことが大きい。

政府部門は前月比+3.3万人(前月:+3.8万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が▲0.2万人(前月:+0.2万人)と前月から小幅ながらマイナスに転じたほか、州・地方政府が+3.5万人(前月:+3.6万人)とこちらも小幅ながら前月から伸びが鈍化した。
前月(10月)と前々月(9月)の雇用増加数(改定値)は前月が+3.6万人(改定前:+1.2万人)と+2.4万人上方修正されたほか、前々月が+25.5万人(改定前:+22.3万人)と+3.2万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+5.6万人の大幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って12月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+14.6万人(前月改定値:+18.4万人、市場予想:+15.0万人)と+23.3万人から下方修正された前月、市場予想を下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが大幅に加速した雇用統計とは不整合な結果となった。
 
 
11月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が35.61ドル(前月:35.48ドル)となり、前月から+13セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.2時間)と前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,221.42ドル(前月:1,213.42ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が2ヵ月連続で低下

家計調査のうち、11月の労働力人口は前月対比で▲19.3万人(前月:▲22.0万人)と前月からマイナス幅が縮小したものの、2ヵ月連続のマイナスとなった。内訳を見ると、失業者数が+16.1万人(前月:+15.0万人)と前月から小幅に伸びが加速した一方、就業者数が▲35.5万人(前月:▲36.8万人)と失業者数の増加を上回る減少を示して労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+36.8万人(前月:+42.8万人)と4ヵ月連続のプラスとなったものの、プラス幅は縮小した。

これらの結果、労働参加率は62.5%と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表5)。これで労働参加率の低下は2ヵ月連続となり、労働供給の回復に陰りがみられていることを示した。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は11月が83.5%(前月:83.5%)とこちらは前月から横這いとなった。男女の内訳は、男性が89.3%(前月:89.3%)と前月から横這いとなった一方、女性が77.7%(前月:77.8%)と前月から▲0.1%ポイント低下した。

失業率は11月が4.2%と3ヵ月ぶりに前月から上昇した(図表6)。一方、失業率は上昇したものの、サームルール指標は11月が+0.43%ポイントと前月から横這いとなり、2ヵ月連続で景気後退の開始を示すとされる+0.5%ポイントを下回った。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
11月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は166.1万人(前月:160.8万人)と前月から+5.3万人の大幅な増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは23.2%(前月:22.9%)と前月から+0.3%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は23.7週(前月:22.9週)と前月から+0.8週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(157.2万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(445.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、11月が7.8%(前月:7.7%)と前月から+0.1%上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.6%ポイント(前月:+3.6%ポイント)とこちらは前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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(2024年12月09日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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