コラム
2024年11月29日

米閣僚人事で注目される休会任命-トランプ次期大統領が上院での承認が困難な候補者の任命に活用する可能性を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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トランプ次期大統領が閣僚人事の承認に休会任命を活用する可能性

米国の合衆国憲法は、上級公務員について大統領が指名し、上院が承認する必要があることを定めている1。上院の承認が必要な上級公務員はPAS(Presidential Appointed, Senate-confirmed)と呼ばれ、各省の長官や外交官、最高裁裁判官をはじめ1,200人以上が対象となっている。

一方、このような正式な承認プロセスに対して、合衆国憲法は上院が休会している間に生じた公務員の欠員について、上院の承認を得ないで任命する権限「休会任命」(recess appointment)を大統領に与えている2。11月の大統領選挙で再選されたトランプ次期大統領は、来年1月の2期目の政権発足に向けて各省の長官をはじめ主要閣僚の指名を矢継早に行っている。トランプ氏は上院での承認プロセスに時間がかかることを問題視している。また、指名した数名の候補者に対して共和党の上院議員から承認に慎重な見方が示されていることもあり、同氏が1月20日の就任以降に上院を休会させて休会任命により、主要閣僚を任命するとの見方がでており、その動向が注目されている。
 
1 合衆国憲法2条2節2項「大統領は、大使その他の外交使節及び領事、最高裁判所裁判官、並びにその任命についてこの憲法に別段の定めがなく、法律により定めなければならない他のすべての合衆国の公職に就任する者を指名し、上院の助言と同意を得て、任命する。ただし、合衆国議会は法律により、適切と認める下位の公務員について、その任命権を大統領に専属させ、または裁判所、もしくは執行各部の長に付与することができる」
2 合衆国憲法2条2節3項「大統領は、上院が開会していないときに生じた公職の欠員について、辞令を発することにより、これをすべて補充することができる。ただし、この辞令は、上院の次の会期の終わりに、その効力を失う」

休会任命の背景と最近の動向

休会任命は前述のように合衆国憲法に規定されているが、想定されている状況は当時と近年では大きく異なっている。合衆国建国当時の連邦議会はほぼ通年で開会している現在とは異なり、半年ほどしか開会しておらず、閉会中に生じた欠員の任命を大統領に付与することは行政サービスを円滑に継続する上で必要と考えられていた。このため、休会任命はあくまで正規の手続きに対する補充的な暫定措置と位置付けられており、休会任命によって任命された公務員の任期は議会の次の会期の終わりまでと制限が設けられた。米国の議会の会期は1年となっているため、会期のはじめに休会任命された場合に任期は当会期と次会期末までの最大2年間となる。

これに対し、近年は党派性が強まる中、大統領と上院の多数派が異なる分割政府では大統領が指名する人事が上院で否決されるケースが増えているほか、上院での審査などの承認プロセスに時間を要し行政サービスに支障がでるケースも増えてきた。このため、休会任命が上院の承認プロセスを回避して大統領が望む人事を進めるための手段として活用されてきた。実際に、クリントン大統領は139回、ブッシュ(子)大統領は171回休会任命を行った。

一方、休会任命の濫用は立法府と行政府の間のチェックアンドバランスとしての上院の承認プロセスを形骸化し、大統領が本来なら資格のない候補者を上級職に任命するリスクを高める。なお、大統領の休会任命に対しては、上院も休会任命を防ぐ目的で議会の会期間や会期内の休会を回避する目的で上院議員1名が登庁して開会を宣言し、直ぐに散会することを繰り返すプロフォーマ(Pro Forma)議会によって通常の議事を進行せず形式的に開会することで対抗してきた。

このような状況に対して、法曹界では合衆国憲法が定める休会任命を可能にする休会の定義(会期間の休会か会期内の休会も含むのか、休会任命が許される休会の期間、プロフォーマ議会が開会とみなされるのか)や、欠員の定義(会期中に生じた欠員か、会期前から生じていた欠員も含むのか)等について様々な論争が行われてきた。

そのような中、オバマ政権下でプロフォーマ議会中に休会任命された公務員を巡って休会任命の合憲性が争われた裁判(国家労働関係委員会対ノエル・カニング裁判)の判決が14年6月に連邦最高裁判所で下され、全員一致で違憲と判断された。連邦最高裁は、憲法の規定に関して休会を会期間および会期内を含むと判断したほか、欠員の定義について会期中だけでなく会期前に生じた欠員も含むと幅広く定義した。このため、ここまでの決定は大統領の裁量を広げる方向の判断となった。しかしながら、連邦最高裁は休会任命が認められる休会の期間を基本的に10日以上としたほか、プロフォーマ議会は議会が開会中とみなせるとの判断を示したことにより、大統領が休会任命を行うには10日以上の休会が前提となったほか、議会が対抗手段としてプロフォーマ議会を活用できることが示されたため、全体的には大統領の休会任命を活用するためのハードルが上がった。

実際に同判決以降、上院議会はプロフォーマ議会によって休会任命を回避する議会運営を続けており、判決後のオバマ政権、トランプ政権、バイデン政権下で休会任命は一度も活用されてこなかった。

もっとも、今回の議会選挙を受けて共和党が上下院で過半数を確保するトリプル・レッドとなったことでトランプ次期大統領が休会任用を活用できるとの見方がでている。議会の休会に関して合衆国憲法は他の議院の同意が無ければ3日を超えて休会することができないと規定している3。また、同憲法は休会に関して下院と上院の間で意見の相違がある場合に、大統領に議会を休会できることを認めている4。このため、トランプ氏に近いジョンソン下院議長が下院で上院による10日以上の休会を求める動議を提出して、上院が同意する場合は10日間の休会となりトランプ氏による休会任命が可能となるほか、仮に上院が同意しない場合でも憲法の規定により、大統領による休会が可能となる。ただし、歴代大統領でこの規定を使って議会を休会させた例はなく、激しい法律論争を引き起こす可能性が高い。
 
3 合衆国憲法1条5節4項「合衆国議会の会期中、両吟は、各々他の議院の同意がなければ、3日を超えて休会し、または両議院が開会すべき場所以外にその議場を移してはならない」
4 合衆国憲法2条3項「大統領は、特別な場合には、両院または両院のいずれかを招集することができ、両院間で意見の相違がある場合には、休会の時期に関して、彼が適切と考える時期に両議院を休会することができる」

今後の注目点

上院共和党は11月14日に新しい院内総務として前任のマコネル氏に近い穏健派でのスーン氏(サウスダコタ州)を選出した。同氏はトランプ氏の指名をできるだけ早く承認するために「休会任命を含む全ての選択肢を検討している」として休会任命を認める可能性を否定していないものの、指名された候補者を「通常の方法」で任命することを優先する方針を示している。また、同氏はトランプ氏が指名した候補者が複数の上院共和党議員から承認に反対された場合、休会を求める動議にも同じ議員が反対する可能性が高いとし、上院で人事承認が紛糾した場合にトランプ氏が求める休会動議を上院で可決できるか疑問を示した。このため、トランプ氏が、一定の数の上院共和党議員が承認を拒否する候補の休会任命を上院共和党に求めた場合に、上院共和党がどのように対応するのか不透明である。

今後、トランプ氏が休会任命を求めた場合に上院共和党がどのように対応するのか、また、上院共和党が休会任命の活用に消極的な場合に下院と結託して、上院共和党との関係を壊しても大統領権限で休会させ、休会任命を強行するのか、今後の対応が注目される。
 
 

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(2024年11月29日「研究員の眼」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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