コラム
2023年01月04日

米国でオピオイド中毒死者数が急増~コロナ禍でオピオイド危機が再燃

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(図表)薬物過剰摂取による死亡者数 米国ではオピオイドと呼ばれる麻薬性鎮痛薬の中毒患者や、過剰摂取による死亡者数の増加が社会問題となってきた。オピオイドの過剰摂取が原因の死亡者数は13年から急増し、16年には4万2千人と薬物の過剰摂取による死亡者数(6万8千人)のおよそ6割強を占めた(図表)。

このような状況を受けて、当時のトランプ政権は17年10月に「公衆衛生上の非常事態」を宣言したほか、包括的なオピオイド対策法案である「患者と地域を支援する法」(SUPPORT法)を超党派の圧倒的な支持で成立させた1

同法では、これまで対策が疎かになっていた、オピオイド中毒患者の治療や回復サービスへのアクセス向上、医療機関におけるオピオイド処方のモニタリング強化、国際郵便などまで拡張した不法薬物の流入を防ぐための方策や、オピオイドの一種であるフェンタニル対策のための地域社会への補助金支給などが盛り込まれた。

このような対策の効果もあって、オピオイド関連の死亡者数は17年から19年にかけて4万人台後半~5万人強と概ね横這いとなっていた。しかしながら、新型コロナの感染が拡大した20年は6万9千人と急増したほか、21年はさらに8万人へ増加することが見込まれており、コロナ禍でオピオイド危機が再燃している状況となっている。

コロナ禍でオピオイド問題が深刻化した背景としては、コロナ禍のストレスによるオピオイド需要の増加や、コロナ禍でオピオイド治療やその他の回復支援から離脱した可能性が指摘されている。また、コロナ禍とは別に、鎮痛効果がモルヒネの100倍と強力な上、100%化学合成が可能で安価な違法フェンタニルの使用増加による死亡リスクの増加も指摘されている。

オピオイド関連死亡者数の急増を受けて、バイデン大統領はオピオイド対策として15億ドルの資金拠出を表明した。同対策には薬物中毒者に対する回復支援サービスや、救急部門の専門家増員などの体制整備のほか、薬物過剰摂取についての教育プログラムへの資金提供が含まれる。また、薬物取締体制の拡充に追加支援を実施するほか、財務省がオピオイド関連の麻薬密売に伴う国際的な不正取引に新たに制裁を科したことも明らかになった。

さらに、オピオイドを過剰摂取した際に解毒薬として作用するナロキソンの点鼻スプレーについて米国食品医薬品局(FDA)が優先審査を行っており、23年4月下旬までに審査が完了する見込みとなっている。審査が予定通りに終了した場合には24年にも処方箋なしで購入することが可能性となる見込みとなっており、オピオイド関連の中毒死者数の減少が期待されている。

一方、議会でもオピオイド中毒治療に使われるブプレノルフィンやメタドンについて、従前の政府が承認した診療所内のみでの処方から遠隔診療による処方を可能にする規則変更に向けた取り組みが行われている。これは、現行の規則では乱用や転売への懸念から政府が承認した診療所内でしか処方されないことになっているが、処方のために中毒患者は診療所に毎日通院する必要があり、診療所が遠いなどの理由で多くの中毒患者がこれらの治療薬を入手できていない問題点が指摘されていたことに対応するものだ。

オピオイド危機再燃の要因の1つとなったコロナ禍が落ち着いてくる中、バイデン政権や議会によるオピオイド対策によってオピオイド中毒者数や中毒死者数の減少にどの程度効果があるのか、今後の動向が注目される。
 
1 詳しくは基礎研レター(2018年11月8日)「超党派による包括的なオピオイド対策法が成立」www.nli-research.co.jp/report/detail/id=60066?site=nli を参照下さい
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年01月04日「研究員の眼」)

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