コラム
2022年07月26日

米国で超党派の銃規制法が成立~銃規制では党派性が強いものの、中間選挙を睨み与野党が妥協

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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米国の銃保有数はスイス・ジュネーブの国際開発研究大学院が発表した17年時点の調査1でおよそ3億9,300万丁と3億3,000万人の人口を上回っていた。さらに、新型コロナウイルス禍に伴う経済・社会不安を背景に自衛のための銃購入が増加しており、20年の銃販売数は2,160万丁と19年の1,350万丁から大幅に増加し、2000年以降で最高となった。また、21年も1,890万丁と同2番目の水準2となるなど、足元で銃保有数の増加に弾みがついている。

銃保有数が大幅に増加する中、米国では自殺も含めた銃関連の死亡者数は19年の39,580人から21年の45,037人へ増加傾向が続いているほか、銃関連の負傷者数や4人以上の死傷者が出た大量殺人事件の発生件数にも同様の傾向がみられる(図表1)。とくに、大量殺人事件は19年の417件から21年の692件へ66%の大幅な増加となった。22年も7月24日時点の死亡者数が24,897人、大量殺人事件発生件数が364件とこのままのペースが続けば年間でそれぞれ4.4万人、650件と21年に次ぐ水準が見込まれている。
(図表1)銃関連の死亡者数、負傷数等
そのような中、米国で銃規制強化の法案「超党派のより安全な地域社会法」3が超党派の支持を受けて6月25日に成立した。銃規制強化法の成立は、クリントン政権時代の1994年に成立した「暴力犯罪規制および法執行法」以来およそ28年ぶりとなる。

米国では銃規制に関する党派性が根強く、銃規制に積極的な民主党と銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の支持を受けて銃規制に消極的な共和党議員の間で意見に大きな隔たりがある。また、6月下旬には、保守派の判事が過半数を占める最高裁から、拳銃を自宅外で持ち歩くことを制限するニューヨーク州法を違憲とする判断が示されたことから、司法判断に対する評価が分かれるなど、銃規制問題を巡る米国内の分断が先鋭化していた。

それでも銃規制法が超党派で成立した背景としては、今年の5月中旬にニューヨーク州バッファローのスーパーで黒人10人が射殺されたほか、5月下旬にはテキサス州ユバルディの小学校で児童ら21人が射殺されるなど、銃乱射事件が相次いだことを契機に、議会に対して銃規制強化を求める声が高まったことが挙げられる。実際に、ギャラップ社による6月の世論調査4では銃販売に関する法律を「より厳格化すべき」との回答割合が66%と21年10月調査の52%から大幅に増加し、18年3月調査(67%)以来の水準となるなど、中間選挙を控えて議会共和党としても世論の声を無視できなくなった。

今回成立した銃規制法には21歳未満の銃購入者に対する身元確認の強化や、結婚していないパートナーへの虐待による有罪歴がある人への銃販売の禁止が盛り込まれた。また、精神医療や学校警備の強化に対する財政支援や、裁判官が危険とみなした人から銃を押収する緊急措置(レッドフラグ)を導入した州への財政支援なども盛り込まれた。

一方、バイデン大統領が求めていた半自動アサルト兵器や大容量弾倉の禁止、銃購入年齢の18歳から21歳への引上げなどは、共和党が反対したため、超党派の合意を優先して同法に盛り込むことは見送られた。

もっとも、民主党が半自動アサルト兵器や大容量弾倉の禁止を目指す動きは続いている。下院では新たに半自動アサルト兵器や大容量弾倉を禁止する法案(「2021年アサルト兵器禁止法」5)を7月21日に司法委員会が民主党のみの賛成で採決した。しかしながら、同法による銃犯罪の抑止効果への疑問や、同法が成立すると現在米国内で合法的に大量保有されているアサルト兵器が違法となることなどもあって、同法案に共和党議員が強硬に反対しているほか、一部民主党議員も慎重な姿勢を示していることから、下院本会議や上院で成立する目途は立っていない。

11月の中間選挙の争点に関する6月の世論調査6では「インフレ」との回答割合が21%と最も高くなった一方、「経済」(19%)、「銃規制」(17%)、「中絶問題」(12%)と「銃規制」が3番目に高い割合となっており、有権者の関心の高さを示した。このため、中間選挙に向けて有権者を意識した銃規制強化を巡る政治的な駆け引きは継続しよう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年07月26日「研究員の眼」)

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