コラム
2021年12月27日

早急な対応が求められる不法移民問題~メキシコ国境からの不法越境者数が史上最高を更新、不法移民問題がバイデン政権に更なる打撃となる可能性

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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米国の税関・国境取締局(CBP)が発表したメキシコ国境を越えて米国に不法に入国し身柄を拘束された人数(不法越境者数)は21年度(20年10月~21年9月)が165.9万人となり、統計を開始した1960年以来で最大となった(図表1)。また、22年度も10月と11月分が前年度を大幅に上回っているため、このままのペースが続けば、さらに史上最高を更新する可能性が高い(図表2)。
(図表1)メキシコ国境からの不法越境者数/(図表2)メキシコ国境からの不法越境者数(月別)
不法越境者が増加した要因として、過去に比べて国境警備が厳格化していることや、新型コロナの感染拡大を受けて導入された「タイトル42」により、同一人物が複数回拘束され、不法越境者として重複カウントされたことが指摘されている。タイトル42は、トランプ大統領が公衆衛生法に基づき20年3月に大統領令で実施した措置で、公衆衛生上の理由があれば不法移民を迅速に追放できることを規定しており、バイデン政権も同措置を継続している。このため、タイトル42に基づき以前なら逮捕されていた不法越境者が新型コロナに絡んだ公衆衛生を理由として国外追放されるケースが増加している。この結果、送還後に再び不法越境者として捕捉されることで、同一人物が複数回に亘って不法越境者として計上されることが指摘されている。実際に、21年9月の不法越境者の再犯率は26%と14年度~19年度平均の14%を大幅に上回っており、そのような状況を裏付けている。

もっとも、不法越境者が大幅に増加した主な要因は、新型コロナの感染拡大やハリケーンなどの天災によって中南米諸国の雇用が大きな打撃を受けたことに加え、21年1月に発足したバイデン政権がトランプ前政権と異なり、人道的な観点から不法移民に対して寛容と捉えられたことが大きい。

中南米とカリブ海諸国では新型コロナの感染拡大に伴い、2,600万人の雇用が喪失されたと国際労働機関(ILO)が推計1しており、IMFは同地域では娯楽や観光業など接触集約的職業の割合が高いため、新型コロナに伴う雇用の減少幅が他の新興国や先進国よりも大きかったことを指摘2している。
(図表3)メキシコ国境からの不法越境者数(国別) メキシコ国境からの不法越境者数の国別の推移をみると、新型コロナ流行前に大宗を占めていたメキシコや中米北部三角地帯(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)からの増加に加えて、20年秋口以降はエクアドル、ブラジル、ニカラグア、ベネズエラ、ハイチ、キューバなどの国からも顕著に増加したことが分かる(図表3)。

これらの地域では新型コロナに伴う経済の落ち込みに加え、20年11月に上陸した2つの大きなハリケーンによって経済が打撃を受けたほか、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアなどでは独裁政権の締め付けが厳しくなった影響や、ハイチでは21年8月の地震や大統領の暗殺などの政情不安による影響が不法越境者を増加させたとみられる。

一方、バイデン大統領は就任直後に、トランプ大統領が実施した「移民保護プロトコル」、別名「メキシコ待機プログラム」を人道的でないとの理由により大統領令で停止することを決定した。この決定を受けて国土安全保障省は同プログラムを6月に終了させた。同プログラムは、亡命を希望する難民が申請手続きを行う間、メキシコ側に待機することを定めたもので、治安が悪いメキシコで待機することを恐れた移民の申請件数が減少するなど移民削減に成果を上げていた。バイデン政権が政策転換を発表した21年1月から不法越境者が顕著に増加しており、寛容な政策への転換が不法越境のハードルを下げて不法越境者を増加させた可能性が高い(前掲図表2)。

メキシコ国境からの不法越境者が史上最高となる中で有権者の懸念は高まっている。有権者に対する11月中旬の世論調査3は、メキシコ国境からの不法移民について「非常に懸念している」との回答が44%となったほか、「多少懸念している」との回答が27%となり、合計で71%の人が不法移民を懸念していることを示した。
また、同調査でバイデン政権の移民政策について「強く支持しない」との回答割合が42%となったほか、「若干支持しない」の15%と合わせて57%の有権者が支持していない状況が明らかになった(図表4)。支持政党別では無党派層で支持しないとの回答割合が合計58%と過半数となった。
(図表4)バイデン大統領の移民政策について
ウォールストリートジャーナルが11月中旬に実施した世論調査においても「バイデン大統領と議会に優先して欲しい最も重要な問題は何か」との質問に対する回答で「移民問題」が13%と、「経済」の11%や「インフレ」の10%などを抑えて1位となっており、関心の高さを示した。

そのような中、バイデン大統領は12月にメキシコ待機プログラムを亡命申請1件あたりに費やす時間を6ヵ月に制限するなどの新たな条件をつけた上で再開することを決定した。再開決定は、トランプ前大統領が任命した連邦裁判所の判事が21年8月に政策が不適切に取り消されたと判断し、同政策の再開を命じていたことを受けた苦渋の決断である。バイデン政権は、メキシコ国境からの不法移民問題が深刻化する中、不法移民の減少と人道的な対策の狭間で有効な解決策を提示できず、迷走状態が続いている。

米国内の新型コロナ感染者数の急増や民主党内の対立によって大型歳出法案の審議が滞るなど政治の機能不全が深刻化していることに加え、足元でインフレが高進していることもあり、バイデン大統領の支持率は低迷している(ファイブサーティエイトの集計では支持率が43%と不支持の52%を大幅に上回っている)。不法移民問題に有権者の関心が高まる中、無党派層の移民問題に対する不支持率の高さと合わせて、このまま移民問題の解決策が提示できなければ、22年の中間選挙に向けてバイデン政権や民主党にとって、更なる打撃となろう。
 
 

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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2021年12月27日「研究員の眼」)

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