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早急な対応が求められる不法移民問題~メキシコ国境からの不法越境者数が史上最高を更新、不法移民問題がバイデン政権に更なる打撃となる可能性

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩
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もっとも、不法越境者が大幅に増加した主な要因は、新型コロナの感染拡大やハリケーンなどの天災によって中南米諸国の雇用が大きな打撃を受けたことに加え、21年1月に発足したバイデン政権がトランプ前政権と異なり、人道的な観点から不法移民に対して寛容と捉えられたことが大きい。
中南米とカリブ海諸国では新型コロナの感染拡大に伴い、2,600万人の雇用が喪失されたと国際労働機関(ILO)が推計1しており、IMFは同地域では娯楽や観光業など接触集約的職業の割合が高いため、新型コロナに伴う雇用の減少幅が他の新興国や先進国よりも大きかったことを指摘2している。

これらの地域では新型コロナに伴う経済の落ち込みに加え、20年11月に上陸した2つの大きなハリケーンによって経済が打撃を受けたほか、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアなどでは独裁政権の締め付けが厳しくなった影響や、ハイチでは21年8月の地震や大統領の暗殺などの政情不安による影響が不法越境者を増加させたとみられる。
一方、バイデン大統領は就任直後に、トランプ大統領が実施した「移民保護プロトコル」、別名「メキシコ待機プログラム」を人道的でないとの理由により大統領令で停止することを決定した。この決定を受けて国土安全保障省は同プログラムを6月に終了させた。同プログラムは、亡命を希望する難民が申請手続きを行う間、メキシコ側に待機することを定めたもので、治安が悪いメキシコで待機することを恐れた移民の申請件数が減少するなど移民削減に成果を上げていた。バイデン政権が政策転換を発表した21年1月から不法越境者が顕著に増加しており、寛容な政策への転換が不法越境のハードルを下げて不法越境者を増加させた可能性が高い(前掲図表2)。
メキシコ国境からの不法越境者が史上最高となる中で有権者の懸念は高まっている。有権者に対する11月中旬の世論調査3は、メキシコ国境からの不法移民について「非常に懸念している」との回答が44%となったほか、「多少懸念している」との回答が27%となり、合計で71%の人が不法移民を懸念していることを示した。
そのような中、バイデン大統領は12月にメキシコ待機プログラムを亡命申請1件あたりに費やす時間を6ヵ月に制限するなどの新たな条件をつけた上で再開することを決定した。再開決定は、トランプ前大統領が任命した連邦裁判所の判事が21年8月に政策が不適切に取り消されたと判断し、同政策の再開を命じていたことを受けた苦渋の決断である。バイデン政権は、メキシコ国境からの不法移民問題が深刻化する中、不法移民の減少と人道的な対策の狭間で有効な解決策を提示できず、迷走状態が続いている。
米国内の新型コロナ感染者数の急増や民主党内の対立によって大型歳出法案の審議が滞るなど政治の機能不全が深刻化していることに加え、足元でインフレが高進していることもあり、バイデン大統領の支持率は低迷している(ファイブサーティエイトの集計では支持率が43%と不支持の52%を大幅に上回っている)。不法移民問題に有権者の関心が高まる中、無党派層の移民問題に対する不支持率の高さと合わせて、このまま移民問題の解決策が提示できなければ、22年の中間選挙に向けてバイデン政権や民主党にとって、更なる打撃となろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年12月27日「研究員の眼」)

03-3512-1824
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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