- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 米国経済 >
- 米国移民法を巡る政治的混乱-移民法改正を巡って、野党共和党とオバマ大統領の対立が激化
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
米国では、移民法の扱いを巡って、野党共和党とオバマ大統領の間で対立が激化している。オバマ大統領は11月20日に国民向けの演説を行い、大統領令による移民制度の大規模な改革を発表した。大統領令を行使した背景には、民主党が過半数の議席を有していた上院で昨年6月に改正法案が通過したにも係わらず、共和党が多数派を占める下院では、現在まで500日以上に亘って同法案が棚ざらしにされたことがある。なお、上院の採決では08年の大統領選挙で共和党の大統領候補であったジョン・マケイン議員も賛成するなど、超党派での賛同を得ていた。
米国では、法案を成立させるためには上下両院で法案を通す必要があり、大統領は下院での速やかな採決を求めていたが、下院は要求を無視していた。このため、大統領は、移民制度改革を前進させるための暫定的な措置として、概ね上院の改正案に沿う形での行政命令を行い、恒久的な法案を議会で速やかに審議するよう求めた。
20日の大統領令の内容を簡単に記すと、不法移民の進入を防ぐための国境警備の強化や、高度熟練技術者や企業家の移住を迅速に行うための改正がされたほか、以下の条件を全て満たす場合に不法移民に対して3年間は強制退去の免除と労働許可を認める救済内容になっている。
(1)米国に5年以上滞在していること
(2)子どもが米国市民、または合法的な居住者であること
(3)犯罪履歴のチェックを通過すること
(4)税金を支払うこと
今回の救済措置では、市民権は付与されず、米国民と同様の社会保障は提供されない。現在、米国内で生活する不法移民は1,100万人程度と言われているが、3年間の救済措置に該当するのは、そのおよそ半分弱にあたる400万人程度となる見通しである。
オバマ大統領は、演説で1,100万人に上る不法移民を全て強制送還することは現実的ではないと主張したほか、米国の市民権を持つ子どもの両親が強制退去させられることで家族が離散してしまう問題にも言及して支持を訴えた。併せて、最近不法入国した移民や将来不法入国する移民に対しては救済措置を適用しないことも強調した。かつて共和党のレーガン氏や前大統領のブッシュ氏も同様の救済措置を行っている。
また、移民制度を巡っては、両党で様々な議論はあるものの、不法移民を雇っている企業が、そうでない企業に比べ、社会保障費を含めた労働コスト面で競争上優位になるなど、現在の制度に欠陥があるとの点では両党の認識は一致している。
しかし、今回オバマ氏が、共和党が勝利した中間選挙後に大統領令を強行したことで、同党は職権乱用として猛烈に反発しており、大統領と議会の対立が先鋭化することが不可避な状況となりつつある。当面予定されている重要法案としては12月11日に期限を迎える暫定予算が延長されるかどうか注目である。11日までに議会と大統領の間の溝が埋まらない場合には、最悪の場合、13年10月に起こった政府機関の閉鎖という悪夢が繰り返される可能性もある。
米国は経済面では労働市場をはじめ回復基調が継続しているが、政治面では外交・安全保障をはじめ問題が山積しており、政治的な混乱が米国経済をはじめ世界経済に与える影響が懸念される。
(2014年11月28日「研究員の眼」)

03-3512-1824
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | 米FOMC(25年3月)-市場予想通り、政策金利を2会合連続で据え置き。4月から量的引締めのペースを緩和 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/19 | 米住宅着工・許可件数(25年2月)-着工件数(前月比)は悪天候から回復し、前月から大幅増加、市場予想も上回る | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/10 | 米国経済の見通し-25年初から関税政策をはじめ、経済政策は混沌の極み。景気後退回避を予想もリスクは上昇 | 窪谷 浩 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/10 | 米雇用統計(25年2月)-非農業部門雇用者数が市場予想を下回ったほか、失業率は横這い予想に反して上昇 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年03月26日
語られる空き家、照らされる人生-物語がもたらす価値の連鎖- -
2025年03月26日
決済デジタル化は経済成長につながったのか-デジタル決済がもたらす新たな競争環境と需要創出への道筋 -
2025年03月26日
インバウンド市場の現状と展望~コスパ重視の旅行トレンドを背景に高まる日本の観光競争力 -
2025年03月25日
ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より- -
2025年03月25日
米国で広がる“出社義務化”の動きと日本企業の針路~人的資本経営の視点から~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【米国移民法を巡る政治的混乱-移民法改正を巡って、野党共和党とオバマ大統領の対立が激化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
米国移民法を巡る政治的混乱-移民法改正を巡って、野党共和党とオバマ大統領の対立が激化のレポート Topへ