2024年11月08日

中期経済見通し(2024~2034年度)

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.332]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

1―世界経済は中期的に緩やかに減速

世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に▲2.7%の大幅マイナス成長を経験した後、2021年はその反動で6.5%の高成長となった。しかし、その後は高インフレと金融引き締めの影響で回復ペースが減速し、世界経済の実質経済成長率は2023年には3%台前半まで低下した。2024年にはインフレ率が低下し、減速に歯止めがかかるものの、中期的には鈍化傾向をたどり、予測期間末の2034年には2%台後半まで低下することが見込まれる。

経済規模を国・地域別に見ると、コロナ禍前までは世界第2位である中国の世界経済に占める割合が拡大傾向を続け、2018年にはユーロ圏を上回った。ただし、先行きについては中国の成長率が予測期間後半にかけて緩やかに鈍化することから、世界第1位である米国の経済規模が中国を一貫して上回ると見込まれる。

中国に匹敵する人口を抱えるインドについては、予測期間中は人口増加が続くことから高い潜在成長率が期待でき、世界経済に占める割合を高めていく。2020年代後半にはインド経済は日本経済を上回ることが予想される。

一人当たりGDP(ドルベース)を見ると、日本は1980年代後半から1990年代まで米国を上回っていたが、2000年頃にその関係が逆転した後は一貫して米国を下回っている。2023年の日本の一人当たりGDPは円安の影響もあり、米国の4割強の水準まで低下した。今後、過度な円安は修正されると想定しているが、コロナ禍前の10年間と比較すると円安水準にとどまると見込まれる。また、今後10年間の日本の平均成長率は米国を下回ることが予想されるため、予測期間終盤も日本は米国の4割強の水準で推移することとなるだろう。

一方、日本のGDPの水準は2010年に中国に抜かれたが、一人当たりGDPでみれば2023年時点でも中国の3倍弱の水準である。今後、両国の差はさらに縮小するが、2034年でも日本の一人当たりGDPは中国の2倍以上の水準を維持するだろう。また、予測期間後半に日本のGDPを抜くインドは、一人当たりGDPでみれば2023年時点では日本の8%弱となっているが、10年後には10%強の水準まで上昇するだろう。

2―日本経済の見通し

1|家計の利子所得は増加へ
日本銀行は2024年3月にマイナス金利、YCC(イールドカーブ・コントロール)を終了し、政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)を0~0.1%とした後、7月には0.25%へ引き上げた。今回の見通しでは、政策金利は2027年度に1.25%まで引き上げられ、長期金利(10年国債金利)は予測期間末の2034年度に1.9%まで上昇することを想定している。

超低金利の長期化により、家計の利子所得( 純、FISIM調整前)は1991年度の13.3兆円をピークに減少が続き、1996年度以降は支払超過となっている。

企業部門( 非金融法人)の利子所得(純、FISIM調整前)は1991年度の▲38.8兆円をピークに支払超過額の縮小傾向が続き、2017年度以降は受取超過となっている。また、政府の利子所得(純、FISIM調整前)の支払超過額は▲5兆円前後の横ばい圏で推移しているが、国債残高が急増していることを考慮すれば、実質的な利払い負担は大きく軽減されている。このように、超低金利の長期化によって、家計から企業、政府への所得移転が進んできた。

しかし、「金利のある世界」が復活したことで、家計の利子所得は今後増加に向かうことが見込まれる。金利の上昇ペースが緩やかにとどまること、住宅ローンを中心に借入金利も上昇することから、ネットの利子所得の増加幅は限定的にとどまるが、2033年度には家計の利子所得(純、FISIM調整前)は小幅ながらプラスに転じると予想する。一方、借入金利、国債金利の上昇に伴う利払い費の増加から、企業(非金融法人)の利子所得(純、FISIM調整前)は支払超過に転じ、政府の利子所得(純、FISIM調整前)の支払超過幅は拡大する可能性が高い[図表1]。
[図表1]部門別利子所得(純)の推移
2|今後10年間の実質GDP成長率は平均1.1%を予想
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊後の1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準まで低下した。世界金融危機や新型コロナによって大幅マイナス成長となった際には、潜在成長率がほぼゼロ%まで落ち込んだが、足もとではゼロ%台後半まで持ち直している。

先行きの潜在成長率はコロナ禍からの回復の過程で上昇傾向が続くだろう。潜在成長率に対する寄与度をみると、労働投入量は小幅な減少が続くが、設備投資の回復によって資本投入量の増加幅が拡大すること、働き方改革の進展、人手不足対応の省力化投資、デジタル関連投資などにより全要素生産性の上昇率が高まることから、2020年代後半には1%程度まで回復することが見込まれる。ただし、2030年以降は人口減少、少子高齢化のさらなる進展によって労働投入量のマイナス幅が拡大することから、潜在成長率は若干低下し、2030年代前半にはゼロ%台後半となるだろう[図表2]。
[図表2]潜在成長率の寄与度分解
実質GDP成長率は、中長期的には潜在成長率の水準に収れんする。当研究所推計のGDPギャップは2023年度時点で▲1%台前半(GDP比)となっており、当面は潜在成長率を上回る成長が続く公算が大きい。このため、GDPギャップのマイナス幅は縮小傾向が続き、2029年度にはGDPギャップが解消されるだろう。

実質GDP成長率は、2020年代後半はGDPギャップが解消に向かう過程で、潜在成長率を若干上回る1%台前半で推移した後、2030年代前半は潜在成長率の低下に伴い、ゼロ%台後半となるだろう。この結果、日本の実質GDP成長率は予測期間(2025~2034年度)の平均で1.1%になると予想する。
3|今後10年間の消費者物価上昇率は平均1.7%を予想
消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は、2022年4月から2年半にわたって日本銀行が物価安定の目標としている2%を上回る水準で推移している。今回の物価上昇は、当初はそのほとんどが原油高、円安に伴う輸入物価の急上昇を起点としたエネルギー、食料の大幅上昇によるものだった。しかし、価格転嫁の動きは幅広い品目に広がり、賃金との連動性が高いサービス価格の上昇率も高まっている。

高い物価上昇率が継続したことで、中長期的な物価動向に大きな影響を及ぼす企業や家計の予想物価上昇率は高まっている。ただし、予想物価上昇率は足もとの物価動向に左右される傾向がある。中長期的な予想物価上昇率の水準が従来から大きく上昇したと判断するためには、景気の悪化、円高の進展、国際商品市況の下落などによって物価低下圧力が高まった時に予想物価上昇率が大きく下がらないことを確認する必要がある。

一方、物価高が一定期間継続したことで、企業の値上げに対する抵抗感が薄れたこと、インフレを経験しなかった世代が実際の物価上昇に直面したことは、先行きの予想物価上昇率の底上げに寄与する可能性がある。

消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は、円高の進展に伴う輸入物価の低下によって財価格の上昇ペースが鈍化することから2025年度に1.8%と4年ぶりに2%を割り込み、2026年度には円高、原油安の影響が重なることにより1.6%とさらに伸びが鈍化するだろう。

予測期間前半は需給バランスの改善が物価の押し上げ要因となり、2028年度には1.9%まで伸びが高まるが、円高に伴う輸入物価の押し下げにより財価格の上昇率が緩やかにとどまることから、2%には到達しない。一方、賃上げ率は予測期間中、ベースアップで2%程度の推移が続くことを想定しており、ベースアップとの連動性が高いサービス価格も2%程度の上昇が続くだろう。

予測期間後半は、予想物価上昇率や賃金上昇率の高まりが物価を押し上げる一方、財価格の上昇率が低めにとどまること、GDPギャップのマイナスが解消し、需給面からの押し上げが減衰することから、1%台後半の伸びが続くだろう。

消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は今後10年間の平均で1.7%になると予想する[図表3]。
[図表3]消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測

(2024年11月08日「基礎研マンスリー」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【中期経済見通し(2024~2034年度)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中期経済見通し(2024~2034年度)のレポート Topへ