2024年10月08日

中国経済の見通し-長期化する不動産不況で政策依存の景気が続く。外需下振れのリスクも

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.331]

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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中国経済の先行き不透明感がなかなか晴れない。実質GDP成長率は、2024年1~3月期に前年同期比+5.3%となり、通年の成長率目標である「+5%前後」に対して比較的好調なスタートをきったが、4~6月期には同+4.7%まで減速するなど、一進一退を続けている[図表1]。
[図表1]実質GDP成長率

1―不動産不況が経済を下押し

経済が振るわない最大の要因は、いうまでもなく長期化する不動産不況だ。代表的な指標である不動産販売床面積は、22年から23年にかけて2年連続で前年割れとなった。24年も状況は好転せず、3年連続での前年割れとなる可能性が極めて高い。新築住宅販売価格(70都市平均、24年7月時点)も、28カ月連続で、前年同月比で下落しているなど、中国の不動産市場はかつてないほどの不況に見舞われている。

これに対し、中国政府は必ずしも手をこまねいているわけではなく、22年7月以降、段階的に不動産政策を緩和している。ただ、いずれも小出しの対策にとどまっている。一段の悪化は回避されているものの、改善にも転じていないのが実情だ。

不動産不況の長期化に伴い、その影響は経済全体に及びつつある。企業部門では需要不足が長期化しており、冴えない景況感が続いている。それを受け、家計部門では雇用・所得の現状・先行きに対するマインドが悪化しており、消費が冷え込んでいる[図表2]。
[図表2]需要関連の主要指標

2―経済政策と外需が下支えに

他方、経済の下支えに貢献しているのが、政府による経済政策と外需だ。

例えば、中国政府は、今年になり掲げられた「新質生産力の発展」というスローガンのもと、ハイテク産業の振興に力を入れているほか、設備の更新投資の支援策を大々的に実施している。また、経済対策を強化するための財源として、24年から新たに超長期特別国債の発行枠を設け、1兆元(23年のGDP比で約0.8%に相当)の発行を進めている。

外需に関しては、シリコンサイクルの改善に伴い電気・電子製品の輸出が好調なほか、国内の過剰生産能力を背景に、電気自動車や鉄鋼などの製品で低価格での輸出攻勢を強めている。

これら政策と外需の追い風を受け、製造業セクターでは堅調が続いている。内需不振が続くなかでも、鉱工業生産の伸びはハイテク分野で好調なほか、設備投資も前年比2ケタの伸びを続けている[図表3]。政府による公共投資も、不動産不況や隠れ債務対策の影響により地方政府の財源調達がやや不安定な状況にあるものの、総じて高めの伸びを続けており、経済の底割れ防止に貢献している。
[図表3]固定資産投資

3―中国指導部は対策の強化を示唆

このように、不動産不況による下押し圧力と、経済政策の効果および堅調な外需とが拮抗するなかで、中国経済は辛うじて安定を保っている。

もっとも、今後を展望すると、不安定な状況は変わらないどころか、不確実性は高まりつつある。最大の不確実性は、24年11月に実施される米国の大統領選挙の結果だ。トランプ氏は、再当選した暁には、対中輸入全額に対して追加関税を課すことを宣言している。それが現実のものとなれば、不動産不況による下押しに加え、外需も打撃を受けることになる。

そうしたなか、中国指導部は24年7月に開催された中央政治局会議で下半期の経済政策を議論した。

同会議では、目下直面している課題の筆頭に「外部環境の変化による不利な影響の増加」を挙げた[図表4]。ここのところ国内の需要不足や金融リスクのほうが重要視されていたが、中国指導部が貿易摩擦激化による外需への影響について懸念を強めたことが示唆される。外部環境が最重視されたのは、米中摩擦が激しくなり始めた18年7月の同会議開催以来、6年ぶりのことだ。
[図表4]中央政治局会議における情勢認識
もっとも、外需悪化のリスクに対しては、貿易摩擦の緩和というより、内需の強化により対応する構えのようだ。「追加的な政策措置をできるだけ早く準備し、速やかに発表する」ほか、「消費の振興を重点として国内需要を拡大」するとし、経済対策を強化する可能性を示唆するとともに、政策の重点を従来の企業部門から家計部門へと移す考えを示している。不動産政策に関しては、既存対策に言及するのみで、新たな政策は発表されなかった。

4―今後の成長率見通し

今後の中国の実質GDP成長率については、24年が前年比+4.7%、25年が同+4.2%と見込んでいる[図表5]。
[図表5]中国のGDP成長率等の見通し
24年に関しては、政策効果の恩恵を受けている公共投資、設備投資とも、総じて堅調な推移を続けると予想される。他方、不動産不況が好転する可能性は極めて低く、内需の重石となる見込みだ。不動産セクターのデレバレッジは依然途上であり、中国政府はモラルハザード回避の観点から大規模な支援策には否定的であるため、基本的には今後も小出しの政策対応にとどまると考えられる。個人消費も、耐久財の買い替え支援策は強化されるものの、マインドの冷え込みから低調な推移にとどまると予想される。さらに外需も頭打ちとなり、下半期には減速するだろう。総じて、23年に続き力強さを欠く状態が続きそうだ。

25年に入ると、不動産市場の低迷に出口がみえてくるかもしれないが、正常化には至らず、引き続き経済の下押し圧力となることが予想される。このため、政策による下支えは続けられる見込みだが、内需の減速は避けられないだろう。なお、仮に上述の中央政治局会議で示唆されたように、財源の積み増しを伴う追加の経済対策が実施されれば、上振れる可能性がある。

5―リスク要因

主なリスクとしては、国内では(1)不動産市場の悪化や(2)地方政府財政の悪化、国外では(3)地政学リスクが挙げられる。

(1)・(2)は、足もとで小康状態にあるが、依然予断を許さない状況にある。(3)は、上述のとおり、中国指導部が懸念を強めつつあるが、米国やEU等による既存の対中追加関税だけであれば、経済への影響は限定的だろう。駆け込み輸出が一時的な押し上げとなる可能性もある。ただし、11月の米国大統領選挙でトランプ氏が再選し、対中輸入全額に対して追加関税が課されれば、下押し圧力は強まる見込みだ。影響がGDP比で約1%になるとの試算もある*

警戒が必要なのは、これらリスクが複合的に顕在化した場合の影響だ。例えば、米国の対中追加関税がトリガーとなり、実体経済の悪化や先行き不確実性の高まりが不動産市場の一段の悪化を招くという展開が想定される。そうなれば、内需、外需の双方で下押し圧力が強まり、影響はGDP比1%では済まないだろう。

中国政府は影響緩和のため、経済対策の強化に動くことが想定されるが、相当な規模の追加対策が求められることになるはずだ。その分、デレバレッジ等の構造改革は再び後退を余儀なくされ、その後の中国経済に禍根を残す可能性が高い。
 
* 熊谷 聡・早川 和伸・後閑 利隆・磯野 生茂・ケオラ・スックニラン・坪田 建明・久保 裕也(2024)「『もしトラ』のシミュレーション分析 ──米60%関税の世界経済への影響」(アジア経済研究所『アジ研ポリシー・ブリーフ』No.189)

(2024年10月08日「基礎研マンスリー」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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