2024年10月23日

IMF世界経済見通し-ディスインフレは順調に進むが、下振れリスクも

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:成長率は7月時点の見通しからほぼ変更なし

10月22日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
2024年は前年比3.2%となる見通しで、24年7月時点の見通し(同3.2%)と同じ
2025年は前年比3.2%となる見通しで、24年7月時点の見通し(同3.3%)から下方修正

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:経済のリスクは再び下方に傾く

IMFは、今回の見通しを「政策の転換、高まる脅威(Policy Pivot, Rising Threats)」と題して作成した1

IMFは24年・25年の成長率見通しについて、全体では概ね7月時点から変更がなかったが、地域別には、先進国において大陸欧州主要国の下方修正と米国の上昇修正、新興国・途上国において中東・中央アジア、サブサハラアフリカの下方修正とアジア新興国の上方修正がなされている。

具体的な成長率見通しを見ると(前掲図表2、図表3)、地域別には先進国、新興国・途上国ともにほとんどの見通しは修正されていない(先進国:24年1.7→1.8%、25年1.8→1.8%、新興国・途上国:24年4.2→4.2%、25年4.3→4.2%)

国別には、先進国では米国で実質賃金の上昇や資産効果を背景にした消費の活性化、非住宅投資の好調さを反映して上方修正された(24年:2.6→2.8%、25年1.9→2.2%)。

ユーロ圏はやや下方修正されたが、25年には内需拡大により成長率が持ち直すというシナリオは維持されている(24年0.9→0.8%、25年1.5→1.2%)。下方修正の要因として、ドイツやイタリアでの製造業不振が成長の重しになると指摘されているが、イタリアが復興基金による下支えがある一方(24年0.7→0.7%、25年0.9→0.8%)、ドイツは財政健全化と不動産価格の急落に見舞われている点で状況は異なる(24年0.2→0.0%、25年1.3→0.8%)。

また、英国はインフレと金利の低下が内需の押し上げに寄与するとして、上方修正された(24年0.7→1.1%、25年1.5→1.5%)。日本は自動車生産にかかる供給制約の影響で24年の見通しが下方修正されたが、25年は実質賃金の上昇に伴う消費の改善やや持ち直すと期待されている(24年0.7→0.3%、25年1.0→1.1%)。
 
新興国・途上国では、従来同様に大国であるインドと中国の成長率が緩やかに減速していく見通しとなっている。前回からの修正で見るとインドの成長率は修正されなかった(24年度7.0→7.0%、25年度6.5→6.5%)が、中国は不動産不況や景況感が低く成長率が下方修正された。ただし、中国では純輸出の成長押し上げ要因もあり修正幅は小幅にとどまっている(24年5.0→4.8%、25年4.5→4.5%)。また、最近の景気刺激策が短期で見て成長率の上振れリスクとなる可能性についても指摘している。

その他、ブラジルでは洪水の影響が想定以上に小さく、労働市場のひっ迫などから消費や投資が堅調で24年が大幅上方修正(24年2.1→3.0%、25年2.4→2.2%)、メキシコは金融引き締めによる需要減を受けた大幅下方修正(24年2.2→1.7%、25年1.6→1.3%)、サウジアラビアは引き続き原油減産延長で下方修正された(24年1.7→1.5%、25年4.7→4.6%)。なお、ロシアは24年が上昇修正されたが、25年には労働市場のひっ迫が緩和し、実質賃金の伸びも減速するため消費や投資が鈍化すると見込まれている(24年3.2→3.6%、25年1.5→1.3%)。
(図表3)主要国・地域の成長率と実質GDP水準
(図表4)先進国と新興国・途上国のインフレ率 インフレ率については(前掲図表1・4)、全体的にやや下方修正された(世界:24年5.9→5.8%、25年4.4→4.3%、先進国:24年2.7→2.6%、25年2.1→2.0%、新興国・途上国:24年8.0→7.9%、25年5.9→5.9%)。総じて、ディスインフレが進行しており、コロナ禍後のショックの解消に加えて、移民の増加を含む労働供給の改善や、金融政策によるインフレ期待の安定化などにより世界的な景気後退を伴わないインフレ率の低下が実現したと指摘している。コアインフレ率も金融引き締めやエネルギー価格の下落による値上げ圧力の低下などから低下が続き、多くの国ではインフレ目標は25年までに達成されると見込みだとしている。

ただし、インフレ見通しは新興国ではバラツキがあり、新興欧州、中東、北アフリカ、サブサハラアフリカでは2桁上昇が見られる。また、ラテンアメリカでは、ディスインフレが進んでいるものの、賃金上昇によるサービス部門のディスインフレ阻害(ブラジル、メキシコ)、天候要因(コロンビア)、規制電気料金の値上げ(チリ)といった上方修正要因がある。
IMFは今回の見通しに対するリスクは下向きに傾いているとして、前回24年7月から下方修正した

具体的には「想定以上の金融引き締めの悪影響」「金融政策の再評価による金融市場変動(粘着的なインフレによる引き締め長期化と金融市場の混乱など)」「新興国・途上国における債務問題の激化」「中国不動産部門の予想以上に深刻な低迷」「気候変動、地域紛争、地政学的緊張の結果としての商品価格の再上昇」「保護主義政策の強化」「社会不安の再燃」を挙げている。一方、上方リスクには「先進国における投資の強い回復」「構造改革の勢いの加速」を挙げた。

IMFはこうしたリスクに関連して、下振れと上振れのシナリオ分析を提示している。下振れシナリオでは、①世界的な関税引き上げ(米・ユーロ・中国で相互に10%関税など)、②貿易の不確実性増加(結果として投資減少)、③減税・雇用法の(一部)延長、④欧米の移民減少、⑤世界的な金融市場の緊張が重なる形でシナリオ化し、上振れシナリオでは、①中国のリバランス、②欧州の公共投資拡大について、図表5・6の通り試算している。
(図表5)下振れシナリオによる世界成長率への影響/(図表6)上振れシナリオによる世界成長率への影響
最後に、今回の見通しでは特集として金属価格のインフレへの影響が分析されている。そこでは、金属価格の上昇は石油価格と異なり、一過性の影響ではなくコアインフレ率に持続的な影響を及ぼす可能性があることが指摘されている。
 
1 同日に「インフレが後退する中、世界経済には3重の政策転換が必要(As Inflation Recedes, Global Economy Needs Policy Triple Pivot)」との題名のブログも公表している。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年10月23日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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