2024年09月26日

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3.東京都心部Aクラスビル市場の見通し

3-1.新規供給見通し
前述の通り、東京ビジネス地区で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区」で、次いで「千代田区」、「中央区」が大きい。現在、これらのエリアでは大規模開発計画が進行中である。以下では、「港区」・「千代田区」・「中央区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1) 「港区」
「港区」の「虎ノ門地区」では、赤坂1・2丁目で、森トラストとNTT都市開発が地上 43階建ての「赤坂トラストタワー」(延床面積約22万m2)を開発中で、2024年8月に第1期竣工、10月に第2期竣工予定である13(図表-19 ①)。また、虎ノ門2丁目の虎ノ門病院跡地で、都市再生機構と国家公務員共済組合連合会が地上 38階建ての「虎ノ門アルセアタワー」(延床面積約18万m2)を開発中で、2025年2月に竣工予定である(図表-19 ②)。同プロジェクトでは、保留床取得者として日鉄興和不動産、第一生命保険、関電不動産開発、東京ガス不動産、九州旅客鉄道、大成建設の6社が参画している14

また、赤坂二・六丁目地区の東街区では、三菱地所とTBSホールディングが地上 40階建ての複合ビル(延床面積約17万m2)を開発中で、2028年に竣工予定である15。隣の西街区では、ホテルや商業施設が入居する劇場ホール(地上18階建て・延床面積約17万m2)が開発中である(図表-19 ③)。

「三田・高輪地区」では、芝浦1丁目の浜松町ビルディング跡地に、野村不動産と東日本旅客鉄道が「BLUE FRONT SHIBAURA」(S棟:43建て・2025年2月竣工予定、N棟:45建て・2030年度竣工予定)を開発中で、延床面積は合計約55万m2に達する計画となっている16(図表-19 ④)。

高輪2丁目では、JR東日本が「TAKANAWA GATEWAY CITY」を開発中で、複数のオフィスビルが竣工予定である17(図表-19 ⑤)。2025年3月に「THE LINKPILLAR1」[South棟(30階建)・North棟(29階建)]が竣工予定で、延床面積は約46万m2に達する見通しである。その後も、2025年度中に31階建て「THE LINKPILLAR2」(延床面積約21万m2)が竣工予定である。

また、浜松町2丁目では、世界貿易センタービルディングと鹿島、東京モノレール、JR東日本が「世界貿易センタービル本館」の建て替えを行っており、地上46階の複合ビル(延床面積約30万m2)が2027年3月に竣工予定である18。同ビルの36階~46階には「ラッフルズ東京」が2028年に開業予定である19(図表-19 ⑥)。
図表-19 「港区」におけるオフィス開発計画
 
13 NTT都市開発HP:事業案内「赤坂トラストタワー」
14 日鉄興和不動産株式会社・第一生命保険株式会社・関電不動産開発株式会社・東京ガス不動産株式会社・九州旅客鉄道株式会社・大成建設株式会社「虎ノ門アルセアタワー(虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業 業務棟)ビジネス&ライフの両面を支えるワーカーサポート施設の概要決定」(2024年5月8日)
15 三菱地所株式会社・株式会社 TBS ホールディングス 「赤坂エリアの新たなランドマークとなる2棟の建物が2028年に誕生 赤坂二・六丁目地区開発計画新築工事着手/民間都市再生事業計画に認定」(2024年3月13日)
16 「BLUE FRONT SHIBAURA」HP
17 「TAKANAWA GATEWAY CITY」HP
18 株式会社世界貿易センタービルディング・鹿島建設株式会社・東京モノレール株式会社東日本旅客鉄道株式会社「世界貿易センタービルディング建替えプロジェクト2027年より順次開業へ」(2024年7月22日)
19 東京建物株式会社・株式会社世界貿易センタービルディング・アコーホテルズ「世界貿易センタービルディング建替えプロジェクト アコーホテルズの最高級ラグジュアリーブランド「ラッフルズ」日本初進出決定」(2024年7月22日)
(2) 「千代田区」
「千代田区」では、内幸町一丁目街区では、都心最大となる総延床面積約110万m2の開発プロジェクトが進行中である。同街区の南地区では、第一生命保険、中央日本土地建物、東京センチュリー、東京電力パワーグリッドが、地上43階建ての「サウスタワー」(延床面積約31万m2)を開発中で、2028年度に竣工予定である。また、中地区では、NTT都市開発・公共建物・東京電力パワーグリッド・三井不動産が地上46階建ての「セントラルタワー」(延床面積約37万m2)を開発中で、2029年度に竣工し、北地区では、帝国ホテルと三井不動産が地上46階建ての「ノースタワー」(延床面積約27万m2)を開発中で、2030年度に竣工する予定である20(図表-20 ①)。

また、大手町2丁目では、三菱地所が地上62階建ての「Torch Tower(B棟)」(延床面積55万m2)を開発中で、2028年3月に竣工予定である21(図表-20 ②)。同ビルは、前述の「麻布台ヒルズ森JPタワー」を超えて日本一の高さ385mとなる計画である。
図表-20 「千代田区」・「中央区」におけるオフィス開発計画
 
20 「TOKYO CROSS PARK構想」HP
21 三菱地所株式会社「「Torch Tower」新築工事着工」(2023年9月27日)
(3) 「中央区」
「中央区」では、八重洲1丁目で東京建物が、地上51階の複合ビル(延床面積約23万m2)を開発中で、2025年度に竣工予定である22(図表-20 ③)。また、東京建物、東京ガス不動産、大成建設、明治安田生命保険は、「八重洲一丁目北地区」の南街区で地上44階の複合ビル(延床面積約19万m2)を開発予定で、2028年度までに完成予定である23(図表-20 ④)。

また、日本橋1丁目で、三井不動産と野村不動産が、MICE 施設を含む地上52階の複合ビル(延床面積約37万m2)を開発中で、2026年度に竣工予定である24(図表-20 ⑤)。
 
22 東京建物HP「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業」
23 東京建物「東京駅至近の日本橋川沿いエリアに大規模複合施設を整備「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」
権利変換認可のお知らせ」(2023年9月15日)
24 三井不動産株式会社・野村不動産株式会社「「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工」(2021年12月7日)
(4) Aクラスビルの新規供給見通し
三幸エステートの調査によれば、2024年の新規供給量は約6万坪となり、港区虎ノ門地区で複数棟の大規模ビルが竣工し大量供給であった2023年(約19万坪)の約3分の1程度の水準に留まる見通しである。

2025年以降、港区高輪地区等で大規模開発計画が進行中であり、新規供給量は増加し、2025年は15万坪、2026年は約13万坪となる見通しである。2027年は一旦落ち着くが、2028年は、東京駅周辺などで複数棟の大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給は約22万坪に達し、10年ぶりに20万坪を超える見通しである(図表-21)。
図表-21 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し
3-2.Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し
東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。今後、採用強化による従業員の増加等に伴い、オフィス面積を拡張する企業の増加が予想される25

一方、「テレワーク」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続すると考えられる。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、ミーティングスペースを充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態が増加するだろう。また、働き方の多様化を進むなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大も見込まれる。

オフィス環境の整備において、コスト削減や業務効率への意識は依然として高いものの、その優先度は低下している。一方、従業員満足度の向上やコミュニケーションの活性化に重点がシフトしている。施設利用者の快適性や健康性に配慮したワークプレイスの構築は続くと考えられ、立地改善や建物設備のグレートアップを図る企業の増加が見込まれる。

以上の状況を踏まえると、都心5区のオフィス需要は底堅く推移すると見通しである。

こうしたなか、都心5 区では、多くの大規模開発が進行中である。2024 年は、新規供給が一旦落ち着くものの、2028年は20万を超える大量供給が予定されている。

以上を鑑みると、東京都心部A クラスビルの空室率は、2024 年にやや改善した後、6%付近で推移することが予想される(図表-22)。Aクラスビルの新規供給面積は高水準で推移するものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要も底堅く、空室率は安定的に推移すると見込まれる。また、成約賃料(2023年=100)は、2024 年に「107」、2025年に「109」、2028年に「104」となる見通しである(図表-23)。
図表-22 東京都心部Aクラスビルの空室率見通し
図表-23 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
25 ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2024春」によれば、東京23区に所在する企業に「今後のオフィス面積の意向」をたずねた所、「拡張(19%)」との回答が「縮小(6%)」を大きく上回っている。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。

(2024年09月26日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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