2024年09月26日

東南アジア経済の見通し~輸出の回復とインフレ圧力の緩和により、堅調な成長が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2-4.フィリピン
フィリピン経済は、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気が鈍化して通年の成長率が前年比+5.5%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+7.6%から低下した。しかし、2024年4-6月期の成長率は前年同期比+6.3%と、昨年10-12月期の同+5.5%から2四半期連続で加速しており、今年に入って景気が回復している(図表11)。

4-6月期は建設投資の回復が成長率上昇に繋がった。まず総固定資本形成は同+9.5%(前期:同+2.1%)と加速した。同国中銀の金融引締めに伴う借入コストの高騰により設備投資(同▲4.7%)は低迷したが、大規模インフラ整備計画の進展により建設投資(同+16.1%)が大幅に増加した。また社会保障や教育など様々な政府プログラムを通じて支出が進んだため、政府消費が同+10.7%(前期:同+1.7%)と回復した。他方、民間消費はインフレ圧力の高まりを受けて前期から横ばいの同+4.6%となり伸び悩んだ。また外需は、輸出全体の約6割を占める電子機器の出荷が停滞して財貨輸出が同+0.5%(前期:同+15.9%)と鈍化したが、サービス輸出(同+8.0%)はインバウンド需要やIT-BPO産業が好調で堅調な伸びを維持した。

先行きのフィリピン経済は内需を中心とした堅調な拡大が予想される。消費はインフレの鈍化により実質所得の目減りが和らぐほか、労働需給の引き締まりによる賃金上昇、ペソ安に伴う海外フィリピン人労働者(OFW)の海外送金の増加を受けて回復するだろう。投資は公共投資の拡大が引き続き景気の牽引役となりそうだ。2024年度国家予算ではインフラ整備計画「Build Better More」プログラムに前年度比+6.6%の1.4兆ペソが割り当てられている。また金融緩和により、これまで借入コストの上昇で遅れていた融資が促進されて、企業の設備投資が持ち直すだろう。外需については、世界経済の底堅い成長が続くなか財輸出が緩やかな増加傾向で推移するほか、外国人観光客の回復とIT-BPO産業の成長によりサービス輸出が順調に拡大するだろう。一方、輸入も内需拡大に伴い増加傾向が続くものとみられ、外需の成長率への影響は限定的となりそうだ。

金融政策はフィリピン中銀が2022年5月に金融引締めを始めて政策金利(翌日物借入金利)を約17年ぶりの高水準となる6.5%まで引き上げていたが(図表12)、長引く高金利により個人消費が鈍化したため今年8月の金融政策会合で金融緩和に踏み切った。8月の消費者物価上昇率はコメの輸入関税の引下げにより同+3.3%に低下しており、落ち着きがみられる。足元では米国の利下げ開始によりペソ高が進みインフレ警戒感が和らいでおり、インフレ率は物価目標圏内(+2.0%~4.0%)で推移するだろう。フィリピン中銀は米国利下げに追随する形で年内2回0.25%ずつの追加利下げを実施し、来年には更に0.75%の引下げを予想する。

実質GDP成長率は2024年が前年比+5.8%(2023年:同+5.5%)となり、政府目標の+6.0%~7.0%を下回り、2025年が同6.0%と小幅に加速すると予想する
(図表11)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表12)フィリピンのインフレ率と政策金利
2-5.ベトナム
ベトナム経済は、2023年は欧米向けの輸出が落ち込み成長率が前年比+5.0%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化が進んだ2022年の同+8.1%から低下して政府目標の6.0%~6.5%を下回った。しかし、年後半に輸出が増加に転じると景気が持ち直しに向かい、2024年4-6月期の成長率は前年同期比+6.9%と7四半期ぶりの高成長となった(図表13)。

4-6月期は鉱工業とサービス業の改善が成長率上昇に繋がった。製造業(同+10.04%)は電子部品やスマートフォンなIT関連需要の増加により外資系企業の出荷が伸びて好調だった。サービス業(同+7.06%)はビザ規制の緩和や滞在可能期間の延長といった観光促進策によりインバウンド需要が回復し、モノの貿易量も増加したことにより宿泊・飲食業(同+11.26%)と運輸・倉庫業(同+11.51%)が好調だった。インフレは加速したものの、良好な雇用所得環境を背景に卸売・小売業(同7.62%増)は堅調に推移した。不動産市場は回復傾向にあるが、不動産(同+3.12%)は緩やかな伸びにとどまり、建設業(同+7.07%)は増勢が鈍化した。

先行きのベトナム経済は、輸出拡大や不動産市場の回復により景気の回復傾向が続くと予想する。ベトナムは多国籍企業のサプライチェーンを多様化する動きやシリコンサイクルの回復を背景に、1-8月累計の海外直接投資(FDI)認可額(同+13.1%)が加速している。こうした投資の動きに外需の増加が加わり、製造業生産は好調が続くとみられる。またビザ優遇政策や観光促進策により観光業が引き続き回復すると予想される。ベトナム政府は6.5%成長の達成に向けて付加価値税の2%減税の継続や公共投資の拡大などにより経済を活性化させようとしている。7月には民間企業の最低賃金が平均+6%、公務員の基礎賃金が+30%引き上げられている。旺盛な外需に対して内需は伸び悩んでいたが、こうした積極的な経済対策によりサービス業や建設業などの内需中心の産業は堅調に推移するだろう。不動産市場は回復が遅れているが、今年8月に土地法などの不動産関連の法律が3本施行されており今後は回復が加速して、銀行の与信が増加する展開も予想される。

金融政策は、ベトナム中銀が2022年に累計+2%の利上げを実施したが、景気減速を受けて昨春に累計1.5%の利下げを実施、その後は政策金利を4.5%で据え置いている(図表14)。8月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.5%と5ヵ月ぶり3%台に低下した。先行きのインフレ率は昨年低インフレだったことによるベース効果の剥落や自国通貨高を受けて安定して推移し、2024年通年では政府目標(+4.5%以内)に収まるだろう。ベトナム中銀はドン安を警戒して利下げに慎重だったが、米利下げによりドン高に振れたため、米国に追随して来年0.5%の利下げを実施すると予想する。

実質GDP成長率は2024年が前年比+6.2%(2023年:同+5.0%)と上昇して政府の成長目標(+6.0%~6.5%)を達成、2025年が6.5%に加速すると予想する。
(図表13)ベトナムの実質GDP成長率(供給側)/(図表14)ベトナムのインフレ率と政策金利
 
 

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(2024年09月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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