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- タイ経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比2.3%増~観光と輸出に支えられ5四半期ぶりの+2%成長に加速
2024年08月19日
2024年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比2.3%増1(前期:同1.6%増)と上昇し、市場予想2(同2.2%増)を上回った(図表1)。前期比(季節調整後)の成長率は0.8%増だった。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に純輸出と政府支出の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる。
まず民間消費は前年同期比4.0%増(前期:同6.9%増)と鈍化した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同20.9%増)の大幅な増加が続いたほか、娯楽・文化(同6.7%増)や衣類・靴(同6.4%増)、食料・飲料(同4.3%増)、通信(同4.2%増)、住宅・水道・電気・燃料(同3.8%増)、家具、備品、メンテナンス(同3.7%増)、保健衛生(同3.2%増)が順調に増加した。一方、交通(同2.5%減)は自動車の購入が落ち込み低迷した。
政府消費は同0.3%増(前期:同2.1%減)と増加した。現物社会給付(同6.9%増)が2年ぶりのプラス成長となったが、雇用者報酬(同0.8%増)と財・サービスの購入(同3.8%減)が停滞した。
総固定資本形成は同6.2%減(前期:同4.2%減)と低迷した。投資の内訳を見ると、公共投資は同4.3%減(前期:同27.7%減)とマイナス幅が縮小した一方、民間投資が同6.8%減(前期:同4.6%増)と減少した。
純輸出は成長率寄与度が+3.1%ポイントとなり、前期の▲1.6%ポイントからプラスとなった。まず財・サービス輸出は同4.8%増(前期:同2.5%増)と加速した。サービス輸出が同19.8%増と大幅な増加が続いたほか、財貨輸出が同1.9%増(同2.0%減)と増加した。一方、財・サービス輸入は同0.5%増(前期:同5.2%増)と鈍化した。
供給項目別に見ると、主に第二次産業の改善が成長率上昇に繋がった(図表2)。
まず鉱工業は同1.8%増(前期:同1.0%減)と増加した。主力の製造業は同0.2%増(前期:同2.9%減)と小幅に増加した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同1.6%減)は前期の同6.6%減からマイナス幅が縮小したほか、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同1.0%増)と石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.1%増)が増加した。また鉱業は同13.2%増(前期:同4.8%増)と加速、主要油田の生産量が改善して3四半期連続で増加した。他方で電気・ガス業が同5.3%増(前期:同10.8%増)と鈍化した。
全体の6割を占めるサービス業は同3.1%増(前期:同3.6%増)と鈍化したものの、底堅い伸びを保った。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同7.8%増)と運輸・倉庫業(同8.1%増)が好調を維持したほか、情報・通信業(同5.1%増)や保健衛生・社会事業(同4.7%増)が順調に増加した。一方、建設業(同5.5%減)は公共事業の縮小により大幅に減少したほか、金融・保険業(同1.9%増)や教育(同1.2%増)、国防・社会保障(同0.3%増)、不動産業(同1.1%増)小売・卸売業(同3.0%増)は比較的緩やかな伸びにとどまった。
農林水産業は前年同期比1.1%減(前期:同2.7%減)と3四半期連続で減少した。エルニーニョ現象を背景とした高温と干ばつの影響によりコメやキャッサバ、パイナップル、ゴムなどの主要作物の収量、漁業が減少したことが響いた。
1 8月19日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2024年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
まず鉱工業は同1.8%増(前期:同1.0%減)と増加した。主力の製造業は同0.2%増(前期:同2.9%減)と小幅に増加した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同1.6%減)は前期の同6.6%減からマイナス幅が縮小したほか、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同1.0%増)と石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.1%増)が増加した。また鉱業は同13.2%増(前期:同4.8%増)と加速、主要油田の生産量が改善して3四半期連続で増加した。他方で電気・ガス業が同5.3%増(前期:同10.8%増)と鈍化した。
全体の6割を占めるサービス業は同3.1%増(前期:同3.6%増)と鈍化したものの、底堅い伸びを保った。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同7.8%増)と運輸・倉庫業(同8.1%増)が好調を維持したほか、情報・通信業(同5.1%増)や保健衛生・社会事業(同4.7%増)が順調に増加した。一方、建設業(同5.5%減)は公共事業の縮小により大幅に減少したほか、金融・保険業(同1.9%増)や教育(同1.2%増)、国防・社会保障(同0.3%増)、不動産業(同1.1%増)小売・卸売業(同3.0%増)は比較的緩やかな伸びにとどまった。
農林水産業は前年同期比1.1%減(前期:同2.7%減)と3四半期連続で減少した。エルニーニョ現象を背景とした高温と干ばつの影響によりコメやキャッサバ、パイナップル、ゴムなどの主要作物の収量、漁業が減少したことが響いた。
1 8月19日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2024年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
タイ経済は、2023年は輸出低迷が響いて通年の成長率が同+1.9%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により回復傾向にあった2022年の同+2.5%から低下した。しかし、今回発表された2024年4-6月期の成長率は前年同期比+2.3%となり、5四半期ぶりに2%台まで加速し、緩やかながらも景気の回復が確認できる結果となった。
4-6月期の成長率上昇は財・サービス輸出と政府消費の改善した影響が大きい。まず財貨輸出(同+1.9%)は2四半期ぶりに増加した。仕向け地別にみると、米国や欧州、中国、ASEAN向けが拡大する一方、日本向けは減少した。また品目別にみると、コンピュータ(同+147.9%)やコンピュータ部品・付属品(同+22.5%)、通信機器(同+58.5%)、自動車(同+3.3%)などの工業製品に加えて、米(同+53.0%)やゴム(同+37.3%)といった農産物の輸出が増加した。
またサービス輸出(前年同期比+19.8%)は大幅な伸びが続いた。タイでは新型コロナ対策の入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いており、今年3月には中国との間で観光ビザの相互免除を開始している。4-6月期の外国人観光客数は前年同期比+26.3%の813万人(コロナ禍前の9割超の水準)となり、好調を維持している(図表3)。
このほか、4-6月期は政府消費(同+0.3%)が2年ぶりに増加した。執行が遅れていた24年度(23年10月~24年9月)国家予算が4月に成立したことで年金や公務員の医療費などの経常支出が増加した。
一方、民間消費は同+4.0%となり、前期の同6.9%から鈍化した。観光業の持続的な回復により失業率は1%程度の低水準が続いているものの、タイ政府が昨年実施したエネルギー価格の引下げ政策の影響が一巡してインフレ率が上昇したことや、金融機関の融資審査の厳格化と高金利が消費の重石になったとみられる。実際、4-6月期の消費者信頼感指数は景気回復の遅れや生活費の上昇を反映して低下傾向に転じている(図表4)。また投資(同▲6.2%)については、民間投資(同▲6.8%)が引き締め的な金融政策等により落ち込み、公共投資(同▲4.3%)が公共事業の遅れにより5四半期連続のマイナス成長となった。
先行きのタイ経済は遅れていた2024年度政府予算の執行により国内需要が押し上げられて成長率が加速すると予想される。タイ政府は24年通年の成長率予測を+2.3~2.8%とし、従来予想の+2.0~3.0%から上限を引き下げ、下限を切り上げており、昨年の1.9%から加速すると予測している。タイ経済は一見すると先行きを悲観する必要はないようにみえるが、中国経済の減速による輸出の低迷に加え、高水準の家計債務と借入コストの上昇に直面するなか、足元ではタイの憲法裁判所が現職の首相の解職を命じたことで政治情勢が不安定化している。新首相に選出されたタクシン元首相の娘でタイ貢献党のペートンタン・シナワット党首は政治経験が乏しいとの見方が多く、景気刺激策として期待されるデジタル通貨1万バーツの給付金事業が実施されるかどうか、財政政策を巡る不透明感が高まっている。
4-6月期の成長率上昇は財・サービス輸出と政府消費の改善した影響が大きい。まず財貨輸出(同+1.9%)は2四半期ぶりに増加した。仕向け地別にみると、米国や欧州、中国、ASEAN向けが拡大する一方、日本向けは減少した。また品目別にみると、コンピュータ(同+147.9%)やコンピュータ部品・付属品(同+22.5%)、通信機器(同+58.5%)、自動車(同+3.3%)などの工業製品に加えて、米(同+53.0%)やゴム(同+37.3%)といった農産物の輸出が増加した。
またサービス輸出(前年同期比+19.8%)は大幅な伸びが続いた。タイでは新型コロナ対策の入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いており、今年3月には中国との間で観光ビザの相互免除を開始している。4-6月期の外国人観光客数は前年同期比+26.3%の813万人(コロナ禍前の9割超の水準)となり、好調を維持している(図表3)。
このほか、4-6月期は政府消費(同+0.3%)が2年ぶりに増加した。執行が遅れていた24年度(23年10月~24年9月)国家予算が4月に成立したことで年金や公務員の医療費などの経常支出が増加した。
一方、民間消費は同+4.0%となり、前期の同6.9%から鈍化した。観光業の持続的な回復により失業率は1%程度の低水準が続いているものの、タイ政府が昨年実施したエネルギー価格の引下げ政策の影響が一巡してインフレ率が上昇したことや、金融機関の融資審査の厳格化と高金利が消費の重石になったとみられる。実際、4-6月期の消費者信頼感指数は景気回復の遅れや生活費の上昇を反映して低下傾向に転じている(図表4)。また投資(同▲6.2%)については、民間投資(同▲6.8%)が引き締め的な金融政策等により落ち込み、公共投資(同▲4.3%)が公共事業の遅れにより5四半期連続のマイナス成長となった。
先行きのタイ経済は遅れていた2024年度政府予算の執行により国内需要が押し上げられて成長率が加速すると予想される。タイ政府は24年通年の成長率予測を+2.3~2.8%とし、従来予想の+2.0~3.0%から上限を引き下げ、下限を切り上げており、昨年の1.9%から加速すると予測している。タイ経済は一見すると先行きを悲観する必要はないようにみえるが、中国経済の減速による輸出の低迷に加え、高水準の家計債務と借入コストの上昇に直面するなか、足元ではタイの憲法裁判所が現職の首相の解職を命じたことで政治情勢が不安定化している。新首相に選出されたタクシン元首相の娘でタイ貢献党のペートンタン・シナワット党首は政治経験が乏しいとの見方が多く、景気刺激策として期待されるデジタル通貨1万バーツの給付金事業が実施されるかどうか、財政政策を巡る不透明感が高まっている。
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(2024年08月19日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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