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- 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その8)-リサージュ曲線・バラ曲線-
コラム
2024年09月18日
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はじめに
学生時代に、複雑な算式を図表で表すと、いろんな形の曲線が描かれるのを勉強したと思う。この時には、「へー、そうなんだ」ぐらいの認識でおられた方も多く、むしろ、こうした算式の取扱いに四苦八苦して、結果として得られている曲線が、社会において、あるいは自然界において、どのような形で現れていて、どう役立っているのか、については、あまり説明がなく、殆ど勉強する機会もなかったのではないかと思われる。
ということで、今回の研究員の眼のシリーズでは、「曲線」について、どんな種類があって、それらが実際の社会における、どのような場面で現れてきて、どう社会に役立っているのかについて、報告している。これまでの7回の研究員の眼では、楕円、放物線、双曲線等の「円錐曲線」、「カテナリー曲線」、「クロソイド曲線」、「サイクロイド曲線・トロコイド曲線」について報告した。
今回は、「リサージュ曲線」や「バラ曲線」と呼ばれるものについて、報告する。
ということで、今回の研究員の眼のシリーズでは、「曲線」について、どんな種類があって、それらが実際の社会における、どのような場面で現れてきて、どう社会に役立っているのかについて、報告している。これまでの7回の研究員の眼では、楕円、放物線、双曲線等の「円錐曲線」、「カテナリー曲線」、「クロソイド曲線」、「サイクロイド曲線・トロコイド曲線」について報告した。
今回は、「リサージュ曲線」や「バラ曲線」と呼ばれるものについて、報告する。
リサージュ(曲線・図形)とは
「リサージュ(曲線・図形)(Lissajous(curve・figure))」1というのは、互いに直交する2つの単振動を合成して得られる図形、である。それぞれの振動の振幅、振動数、初期位相の違いによって、多様な曲線が描かれる(以下の図を参照)。
1815年に米国の数学者ナサニエル・バウディッチ(Nathaniel Bowditch)によって先行的に研究されたが、その後1857年にフランスの物理学者ジュール・アントワーヌ・リサージュ(J.A. Lissajous)によって詳細に研究されたことから、彼の名に因んだ名前が付けられている。
リサージュ曲線の媒介変数表示は、(その定義に基づいて)以下の通りとなる。
x=A sin(aθ+δ)
y=B sin(bθ)
ここで、AとBは振幅、aとbは振動数、δは位相差、となる。
具体的には、これらのパラメータの違いで、以下のような図形となる(下記の図が示しているように、これらには、線分や円や楕円や放物線等も含まれる)。
AとBはそれぞれ横(水平方向)と縦(垂直方向)の幅となるので、ここではA=B=1の場合についての例を示している。
1815年に米国の数学者ナサニエル・バウディッチ(Nathaniel Bowditch)によって先行的に研究されたが、その後1857年にフランスの物理学者ジュール・アントワーヌ・リサージュ(J.A. Lissajous)によって詳細に研究されたことから、彼の名に因んだ名前が付けられている。
リサージュ曲線の媒介変数表示は、(その定義に基づいて)以下の通りとなる。
x=A sin(aθ+δ)
y=B sin(bθ)
ここで、AとBは振幅、aとbは振動数、δは位相差、となる。
具体的には、これらのパラメータの違いで、以下のような図形となる(下記の図が示しているように、これらには、線分や円や楕円や放物線等も含まれる)。
AとBはそれぞれ横(水平方向)と縦(垂直方向)の幅となるので、ここではA=B=1の場合についての例を示している。
これらの図形をみれば、そう言えば、オシロスコープ2で見かけたことがあるという方々も多いと思われる。実際に、リサージュ曲線はオシロスコープを使用して生成できる3。
実は、(先の媒介変数表示による)リサージュ曲線について、以下のことが成り立つ。
(1) 振動数の比b/aが有理数の場合、閉曲線となる。
(2) 振動数の比b/aが無理数の場合、閉曲線にはならず、軌道は、縦2A、横2Bの長方形領域を塗りつぶすように稠密に埋める。
(1)については、先の媒介変数表示によれば、xの周期は2π/a、yの周期は2π/b となることから、閉曲線となるためには、(2π/a)×M=(2π/b)×N となる整数MとNが存在すればよいことになる。これは、b/a=N/M となることから、そのようなMとNの存在は明らかである。また、これにより、このような最小のMとNは、b/aを既約分数表示したときの値となる。
(2)の前半については、逆に閉曲線になるとすれば、(2π/a)×M=(2π/b)×N となる整数MとNが存在することになり、これは、b/a=N/M となって、b/aが無理数であることに矛盾することになる。(2)の後半については、ここでの証明は難しいので割愛する。
(1)の例については、上の図が示している通りである。
(2)の例としては、以下の通りとなっている。
実は、(先の媒介変数表示による)リサージュ曲線について、以下のことが成り立つ。
(1) 振動数の比b/aが有理数の場合、閉曲線となる。
(2) 振動数の比b/aが無理数の場合、閉曲線にはならず、軌道は、縦2A、横2Bの長方形領域を塗りつぶすように稠密に埋める。
(1)については、先の媒介変数表示によれば、xの周期は2π/a、yの周期は2π/b となることから、閉曲線となるためには、(2π/a)×M=(2π/b)×N となる整数MとNが存在すればよいことになる。これは、b/a=N/M となることから、そのようなMとNの存在は明らかである。また、これにより、このような最小のMとNは、b/aを既約分数表示したときの値となる。
(2)の前半については、逆に閉曲線になるとすれば、(2π/a)×M=(2π/b)×N となる整数MとNが存在することになり、これは、b/a=N/M となって、b/aが無理数であることに矛盾することになる。(2)の後半については、ここでの証明は難しいので割愛する。
(1)の例については、上の図が示している通りである。
(2)の例としては、以下の通りとなっている。
1 日本語では「リサジュー曲線」と呼ばれることも多い。
2 入力した信号の電圧の変化を時間の関数として視覚的に表示する電気計器。
3 現代の電子機器が登場する前は、リサージュ曲線は「ハーモノグラフ(harmonograph)」を使用して機械的に生成できた。ハーモノグラフは、振り子を使用して、幾何学像を生成するための機械的装置で、これにより、リサージュ曲線やより複雑な関連図を生成できる。
リサージュ(曲線・図形)の応用
リサージュ曲線は、その図形の定義から明らかなように、各種の振動が現れてくる分野で使用されている。
最も典型的なものは、「比較法」と呼ばれる周波数測定法での使用である。横軸に基準波、縦軸に被測定波を入力すると、(最初の図が示しているように)上下の山の数と左右の山の数が、基準波と被測定波の周波数比となるので、これを基に周波数を測定することができる。
また、2つの信号の位相が安定していないと曲線は常に変化を繰り返すことから、複数のモーターの位相合わせ、IC(集積回路)等の信号の同期合わせ、テープレコーダーのアジマス調整4等に利用されている。
こうしたエンジニアリングでの応用に加えて、以下のような分野でも使用されている。
4 テープに対するヘッドの方位、ヘッドの角度、左右前後の傾き等を調整することで、音を正常な状態に戻すこと。
最も典型的なものは、「比較法」と呼ばれる周波数測定法での使用である。横軸に基準波、縦軸に被測定波を入力すると、(最初の図が示しているように)上下の山の数と左右の山の数が、基準波と被測定波の周波数比となるので、これを基に周波数を測定することができる。
また、2つの信号の位相が安定していないと曲線は常に変化を繰り返すことから、複数のモーターの位相合わせ、IC(集積回路)等の信号の同期合わせ、テープレコーダーのアジマス調整4等に利用されている。
こうしたエンジニアリングでの応用に加えて、以下のような分野でも使用されている。
4 テープに対するヘッドの方位、ヘッドの角度、左右前後の傾き等を調整することで、音を正常な状態に戻すこと。
音楽教育
音程間や調律システム間の違いを、リサージュ曲線でグラフィカルに表現することで観察できるようになるため、音楽教育に応用されている。
会社のロゴ
リサージュ曲線は、会社のロゴとして使用されることがある。
例えば、Meta Platforms(旧Facebook)のロゴやマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所(MIT Lincoln Laboratory)のロゴは、リサージュ曲線に基づいていると言われているようだ。
芸術作品
数学の図形は、多くの芸術作品で使用されているが、ダダイストのアーティスト、マックス・エルンスト(Max Ernst)は、キャンバスの上で底に穴の開いた絵の具が入ったバケツを振ることによって、リサージュ図形を描いている。この技法は、1942年の「The Bewildered Planet(当惑した惑星)」や1942年~1947年にかけての「Young Man Intrigued by the Flight of a Non-Euclidean Fly(非ユークリッドのハエの飛行に興味をそそられた若い男)」等で使用されている。
音程間や調律システム間の違いを、リサージュ曲線でグラフィカルに表現することで観察できるようになるため、音楽教育に応用されている。
会社のロゴ
リサージュ曲線は、会社のロゴとして使用されることがある。
例えば、Meta Platforms(旧Facebook)のロゴやマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所(MIT Lincoln Laboratory)のロゴは、リサージュ曲線に基づいていると言われているようだ。
芸術作品
数学の図形は、多くの芸術作品で使用されているが、ダダイストのアーティスト、マックス・エルンスト(Max Ernst)は、キャンバスの上で底に穴の開いた絵の具が入ったバケツを振ることによって、リサージュ図形を描いている。この技法は、1942年の「The Bewildered Planet(当惑した惑星)」や1942年~1947年にかけての「Young Man Intrigued by the Flight of a Non-Euclidean Fly(非ユークリッドのハエの飛行に興味をそそられた若い男)」等で使用されている。
(2024年09月18日「研究員の眼」)
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