コラム
2024年06月06日

曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その6)-トロコイド・リマソン・カージオイド等-

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はじめに

学生時代に、複雑な算式を図表で表すと、いろんな形の曲線が描かれるのを勉強したと思う。この時には、「へー、そうなんだ」ぐらいの認識でおられた方も多く、むしろ、こうした算式の取扱いに四苦八苦して、結果として得られている曲線が、社会において、あるいは自然界において、どのような形で現れていて、どう役立っているのか、については、あまり説明がなく、殆ど勉強する機会もなかったのではないかと思われる。

ということで、今回の研究員の眼のシリーズでは、「曲線」について、どんな種類があって、それらが実際の社会における、どのような場面で現れてきて、どう社会に役立っているのかについて、報告している。以前の4回の研究員の眼では、楕円、放物線、双曲線等の「円錐曲線」、「カテナリー曲線」及び「クロソイド曲線」について報告した。

前回から、「サイクロイド曲線」等について、複数回に分けて報告することとしている。今回の研究員の眼では、「トロコイド」、「パスカルの蝸牛形」とも呼ばれる「リマソン」及び前回の研究員の眼でも紹介した「カージオイド」等について報告する。

トロコイド

前回の研究員の眼で説明したように、「トロコイド(trochoid)」については、通常は狭義の意味で「円が直線に沿って転がるときに、その円周上、円の内部又は外部にある定点が描く曲線」のことを指している。そして、定点が、円周上にある場合「コモン(common)」(又は「サイクロイド」)、円の内部にある場合「カーテート(curtate)(収縮)」、円の外部にある場合「プロレート(prolate)(拡張)」と呼んでいる。

トロコイドの媒介変数表示は、円の半径をa、円の中心からの定点の距離をbとすると、以下の通りとなっている。
トロコイドの媒介変数表示
a=bのとき、定点が円周上にあることになり、サイクロイドになる(曲線は尖点を有している)。
a=bのとき
a≠bのとき、曲線は尖点を有しない。

a>b のとき(カーテートトロコイド又はカーテートサイクロイド)
a>b のとき(カーテートトロコイド又はカーテートサイクロイド)
a<b のとき(プロレートトロコイド又はプロレートサイクロイド)

このとき、曲線は自分自身と交わっている。
a<b のとき(プロレートトロコイド又はプロレートサイクロイド)

エピトロコイドとハイポトロコイド

前回の研究員の眼で述べたように、他の円に沿って転がるときで、その円周上、円の内部又は外部にある定点が描く曲線で、円周の内側を転がる場合「エピトロコイド(epitrochoid)(外トロコイド)」、円周の外側を転がる場合「ハイポトロコイド(hypotrochoid)(内トロコイド)」、これらを合わせて、「中心トロコイド(centered trochoid」と呼んでいる。

「エピトロコイド」の媒介変数表示は、定円(その周りを転がられる円)の半径をa、動円(定円の外側を転がる円)の半径をb、その円の中心からの定点の距離をcとすると、以下の通りとなっている。
「エピトロコイド」の媒介変数表示
また、「ハイポトロコイド」の媒介変数表示は、定円(その周りを転がられる円)の半径をa、動円(定円の内側を転がる円)の半径をb、その円の中心からの定点の距離をcとして、以下の通りとなっている。
「ハイポトロコイド」の媒介変数表示
c=bのときが、まさに前回の研究員の眼で示したエピサイクロイド、ハイポサイクロイドとなる。

また、ハイポトロコイドで、a=2b、0<2c<a  のとき、楕円となる。楕円はハイポトロコイドの一種ということになる。

パスカルの蝸牛形(リマソン)

パスカルの蝸牛形(Limaçon de Pascal」は、単に「蝸牛線」あるいは「リマソン」と呼ばれている図形で、以下のような図形である。

「リマソン」というのは、フランス語で「蝸牛(かたつむり)」のことであり、ラテン語の「かたつむり」を意味する「limax」に由来しており、まさにその形状から名付けられている。また、ここでの「パスカル」というのは、「人間は考える葦である」などの名文句やパスカルの三角形、定理、原理等で有名な哲学者かつ数学者等であるブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)ではなくて、彼の父のエティエンヌ・パスカル(Étienne Pascal)のことを指している。1650年にロバ―ヴァル(Gilles-Personne Roberval)によって、この名が付けられた。なお、リマソンについては、パスカルより前に、有名なドイツの画家であるアルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)によって発見されており、1525年の「Underweysung der Messung」(測定の仕様)に、リマソンの幾何学的な描き方が述べられているようだ。

「リマソン」は、以下の形で表される1
パスカルの蝸牛形(リマソン)
ここで、リマソンの形状については、aとbの関係によって、以下のように特徴付けられる。

(1) b≧2a のとき、凸(convex)図形になる。

(2) 2a>b≧ のとき、くぼみ(dimple)を有する。

特に、a=bのとき、カージオイド(cardioid)になる。

(3) b<a のとき、内部ループを有する。

特に、b=0 のとき、円になる。  

また、b=a/2 のとき、トリセクトリックス(trisectrix)2(三等分線)となる。

トリセクトリックスは、角度を三等分するために使用できる曲線である。
リマソンの形状
なお、リマソンで囲まれている領域の面積3については、以下の通りとなる。

b≧a のとき
リマソンで囲まれている領域の面積
b<a のとき、上記算式では、内部ループで囲まれた領域がダブルカウントされることから、まずは、外側の曲線で囲まれた領域の面積を求めると、として、
b<aのとき
また、内部ループの面積は、
内部ループの面積
従って、2つの曲線で囲まれた領域の面積は、上記の2つの値の差として
2つの曲線で囲まれた領域の面積
となる。
 
1 リマソンは、以下のように、いくつかの曲線との関係の中で現れてくる。その中で、aとbの意味合いを示すものとして、例えば、「長さaの線分OAを直径とする円周上に動点Qをとり、直線OQ上に長さbの線分QPとQP´をQの両側にとるとき、点P、P´の描く軌跡」がリマソンとなっている。
(1) P6~P7で述べるように、「円錐曲線の反転図形」になっている。
(2) 円周上の点に対する円の「コンコイド(concoid」になっている。
点Oと曲線ℓが与えられたとき、曲線ℓ上を点Aが動くとき、直線OA上の点Aから一定の距離にある2点P、Qの軌跡を「曲線ℓのコンコイド」と呼んでいる。曲線ℓが直線の場合として、古代ギリシアの数学者ニコメデスが発見した「ニコメデスのコンコイド」が有名である。
(3) 点(a,0)、半径bの円に対する「垂足曲線(pedal curve」になっている。なお、定点Oから定曲線Cの各接線に下ろした垂線の足の軌跡をOに対するCの「垂足曲線」と呼んでいる。
(4) 点Pとこれを中心としない円Cがあるとき、中心がC上にありPを通過する円の「包絡線(envelope」となっている。「包絡線」は与えられた曲線族と接線を共有する曲線である。
これらの曲線については、機会があれば、別途のレポートで報告することとする。
2 以前の研究員の眼「ギリシアの3大作図問題-数学を通じて、ギリシアという国の歴史的位置付けの重みを再認識してみませんか-」(2017.6.19)で述べたように、任意の角度はコンパスと定規のみを使用して三等分することはできない。ただし、(他の手段を用いて構築された)特定の曲線を使用して三等分できる。このような曲線には様々な種類があり、リマソン・トリセクトリックス、マクローリン・トリセクトリックス等が有名である。
3 極方程式r=f(θ)(α≦θ≦β)で表される曲線上の点と極Oを結ぶ線分が通過する領域の面積は以下の式で表される。

(2024年06月06日「研究員の眼」)

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