コラム
2024年02月20日

曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その4)-クロソイド曲線-

中村 亮一

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はじめに

学生時代に、複雑な算式を図表で表すと、いろんな形の曲線が描かれるのを勉強したと思う。この時には、「へー、そうなんだ」ぐらいの認識でおられた方も多く、むしろ、こうした算式の取扱いに四苦八苦して、結果として得られている曲線が、社会において、あるいは自然界において、どのような形で現れていて、どう役立っているのか、については、あまり説明がなく、殆ど勉強する機会もなかったのではないかと思われる。

ということで、今回の研究員の眼のシリーズでは、「曲線」について、どんな種類があって、それらが実際の社会における、どのような場面で現れてきて、どう社会に役立っているのかについて、報告している。前々回までの2回の研究員の眼では、楕円、放物線、双曲線等の「円錐曲線」について報告した。前回は、「カテナリー曲線」について報告した。

今回は、「クロソイド曲線」について報告する。

クロソイド曲線とは

クロソイド曲線(clothoid curve」というのは、「曲率1が曲線の長さに比例して線形に変化する曲線」である。この曲線が使用されている分野によって、「オイラー螺旋(Euler spiral」や「コルヌ螺旋(Cornu spiral」とも呼ばれている。

と説明したものの、殆どの人は、この定義では何が何だかよくわからないというのが本音だろう。
クロソイド曲線 具体的には、クロソイド曲線は、右図のような渦巻きの形状をしている。

最初はほぼ直線の形状が、曲線に沿って進むほど曲率が大きく(曲率半径が短く)、急な曲線になっていき、螺旋状で(無限に)1点に収束していくような形になる。

身近な例としては、一定の走行速度の下で、車のハンドルを一定の角速度2で回転させたときに、車が走行する軌跡、がクロソイド曲線になっている。

因みに、曲率が常に0の場合に直線となり、曲率が0でない一定値の場合に円になる。
 
1 曲線の曲がり具合を表す量で、例えば半径 r の円周の曲率は 1/r でrが曲率半径となる。曲率が1次関数で表される場合がクロソイド曲線になる。
2 ある点を回る回転運動の速度を単位時間に進む角度で表したもの

クロソイド曲線の歴史

クロソイド曲線については、複数の分野において、その発見と応用がなされてきたことを反映して、複数の名前が付けられている。このうちの3つの主要なものとして、弾性理論における「オイラー螺旋(Euler spiral」、光回折のグラフィック計算における「コルヌ螺旋(Cornu spiral」、鉄道の(直線部分から曲線部分の間の)移行における「鉄道遷移螺旋(railway transition spiral」が挙げられる。

後にクロソイド曲線として知られる螺旋については、1700年前後から、スイスの数学者であるジェイコブ・ベルヌーイ(Jacob Bernoulli)とその弟のヨハン・ベルヌーイ(Johann Bernoull)、さらにはヨハンの息子のダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)らのベルヌーイ家の人々によって、問題が提起され、研究されてきた。

ダニエル・ベルヌーイと同時代の親友だったスイスの数学者・物理学者であるレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)は、弾性理論における研究を通じて、1744 年に、現在において「オイラー螺旋」と呼ばれている、螺旋の特性を確立した。

フランスの物理学者であるオーガスチン・フレネル(Augustin Fresnel)は、1818年に光の回折の研究に取り組んで、オイラー螺旋と同じ螺旋を定義する「フレネル積分」を開発した。

1874年、フランスの物理学者であるマリー・アルフレッド・コルヌ(Marie Alfred Cornu)は、光の強度を計算するためのグラフィカルデバイスを考案し、これが彼に因んで「コルヌ螺旋」と名付けられた。

また、イタリアの数学者であるアーネスト・チェザロ(Ernesto Cesaro)は、1886年に、ギリシャ神話で運命を決める3人の女神の1人で、運命の糸を紡ぐ女神であるクロソ(Clotho)に因んで、この螺旋を「クロソイド」と名付けた。この名前は、スピンドル(紡錘)の周りに無限に巻き付く毛糸を連想させるものとなっている。

さらに、1800年代には、遠心加速度の変化による横方向の衝撃を最小限に抑えるために、多くの鉄道技術者が線路の形状を緩やかに湾曲させる方式を模索していたが、 1880年までに、米国の土木技師であるアーサー・ニューウェル・タルボット(Arthur Newell Talbot)が解決策を導き出し、これが「タルボットの螺旋」とも呼ばれる「鉄道遷移螺旋」になっている。

クロソイド曲線の基本式

クロソイド曲線を算式で表すと、以下のようになる。

Rを曲率半径、Lをクロソイド曲線の長さ、とすると、Aをクロソイドパラメータとして、

R×L=A2

となる。これにより、R、L、Aのうちの2つの要素が与えられれば、クロソイド曲線の形が決まることになる。

なお、座標空間上は、媒介変数θと曲線長ℓを用いて、フレネル積分として知られる積分を用いて、以下の形で表される。
クロソイド曲線の基本式

クロソイド曲線の応用-道路のカーブ-

道路のカーブの設計においては、クロソイド曲線が使用されている。具体的には、先に述べたように、一定の走行速度の下で、車のハンドルを一定の角速度で回転させたときに、車が走行する軌跡、がクロソイド曲線になることから、道路のカーブもこれに対応した形で設計されている。

具体的には、以下のような形になっている。

直線区間からカーブの区間に入って、また直線区間に戻っていく場合を考える。
道路のカーブ
この時もし、カーブが円弧になっていたとすると、円弧区間に入った瞬間に円弧のカーブに対応する形でハンドルを一気に切らなければいけなくなる。また円弧区間から直線区間に戻った瞬間に今度は一気にハンドルを元に戻さなければならなくなる。このハンドル操作はかなり危険で運転者に負担のかかるものになる3

一方で、もし直線区間から円弧区間に入る前や円弧区間から直線区間に戻る前に、クロソイド区間があれば、この区間ではハンドルを一定速度で回したり、戻したりすることができる(円弧区間ではハンドルは固定していればよい)ことになり、ハンドル操作がかなり安定的なものとなり、運転者の負担も軽いものとなる。

このように、クロソイド曲線の利用は、車の安全運転のために欠かせないものとなっている。

クロソイド曲線は、このように直線部分と円弧部分をつなぐ「緩和曲線4の一種となっている。

因みに、世界で最初に高速道路にクロソイド曲線を取り入れたのは、ドイツのアウトバーンだと言われている。また、日本で最初に道路設計に導入された場所は国道17号線三国峠だと言われている。

以下のジャンクションの写真は、クロソイド曲線が見られる実際例となっている。
東大阪ジャンクション/ドバイのフライング・ジャンクション
 
3 速度が一定の円運動においては、向心力や遠心力は曲率に比例する。直線区間から円弧区間に入ることで、曲率が不連続に変化する場合、遠心力が急激にかかることになり、車に乗っている人にも負担がかかることになる。
4 曲率0の直線から円曲線へ曲率を変化させる線が「緩和曲線」となる。例えば、鉄道の場合、鉄道車両が直線路から急に曲線路に進入したり、曲線路から別の曲線路に進入したりするときの激しいショックを避けるために設ける特別の線路の曲線となり、「遷移曲線(transition curve)」ともいう。緩和曲線には、クロソイド曲線に加えて、後述の三次放物線やサイン半波長逓減曲線等がある。
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