コラム
2024年09月10日

モンティ・ホール問題とベイズ推定-追加情報に応じて取るべき行動をどう変えるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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確率を用いたパズルのなかで、最もメジャーなものの1つとして、モンティ・ホール問題がある。読者のなかには、どこかで聞いたことがある、という人も多くいるだろう。
 
実は、筆者はこれまでモンティ・ホール問題をあえて取り上げてこなかった。問題があまりに有名過ぎて、もはや新たに書くことは残されていないように感じられたからだ。
 
ところが、ベイズ推定を用いて答えを求めようとしていくうちに、この問題の変形版の問題がいろいろ考えられることに気がついた。今回は、その一端を見ていこう。

◇ そもそもモンティ・ホール問題とは

まず、モンティ・ホール問題を見ていく。「よく知っているよ」という読者も振り返ってみてほしい。
 

(モンティ・ホール問題)
モンティ・ホールという人が司会を務めるテレビのゲームショーがある。

解答者の目の前には(1)、(2)、(3)の3つのドアがある。このドアの部屋のどれか1つに宝物が入っていてそのドアはアタリ、残りはハズレとなる。解答者はアタリのドアを当てたら宝物をもらえる。解答者は、どれか1つの部屋を選ぶように言われる。選んだ後、答えを知っている司会者は、解答者が選んでいない2つの部屋のうちハズレの部屋のドアを1つ開ける。例えば、解答者が最初に(1)を選んだときは、ハズレである(2)か(3)のどちらかを開ける。そして、「もう一度よく考えてみてください。最初に選んだ(1)のままにしますか? それとも選択を変えますか?」と問う。


このとき、解答者は最初に選んだ(1)のままにすべきか、それとも選択を変えるべきか?

まず、答えを先に言ってしまおう。解答者は(1)のままにすると1/3の確率でアタリ、選択を変えると2/3の確率でアタリとなる。つまり、アタリの確率を上げるために選択を変えるべきということになる。

この問題の話は、アメリカの“Let's Make a Deal”というテレビ番組の中で、実際に行われていたゲームショーだ。1975年にアメリカの統計雑誌に統計学者から、この問題についての投稿が最初に行われたという。1990年には、ニュース雑誌の読者質問コーナーにこの問題に関する投書があり、このコーナーを担当する著名なコラムニストが答えを説明した。ところがその後、この答えに対して、約1万通もの投書が殺到する大論争に至ったそうだ。その中には、1000人近くの数学等の博士号取得者からのものも含まれていたという。
 
このゲームショーでは、アタリの賞品は高級車、ハズレは動物のヤギであった。また、論争のきっかけとなったコラムニストは何回か手法を変えて説明したが受け入れられなかった。他にもさまざまな逸話があるが、それらは、インターネット上で簡単に検索できるので、ここでは取り上げないことにする。
 

◇ 解くためにはベイズの定理を用いる

モンティ・ホール問題を解くためには、確率論のベイズの定理によることが一般的だ。ベイズの定理は、ある事象の事前確率について、ある条件の下でその事象が起きる確率、つまり条件付確率がわかれば、その事象の事後確率が計算できるとするベイズ推定の根幹をなす数式だ。
 
記号を使って書いてみる。AやBを、事象を表す記号とする。P(・)を、確率を表す記号(・には事象が入る)として、ベイズの定理は次のように表される。

P(A|B) = P(B|A)/P(B) × P(A)

P(A)は、何も情報がない状態で事象Aが起きる確率。これは「事前確率」と呼ばれる。

P(A|B)は、事象Bが起きる条件のもとで事象Aが起きる確率を表す。これは「事後確率」と呼ばれる。事象Bの発生という“情報”が加わることにより、事前確率P(A)が事後確率(A|B)に更新される。
 
実際には、事象AもBも、単独の事象ではなく、互いに共通部分を持たない複数の事象の集合{Ai}(i=1, 2, …)、{Bj}(j=1, 2, …)となり、次の形で計算に用いられる。(右辺の∑記号は、とりうるkすべてについて和をとることを意味する。)

P(Ai|Bj) = P(Bj|Ai)/P(Bj) × P(Ai) = P(Bj|Ai)/∑{P(Bj|Ak)×P(Ak)} × P(Ai)

◇ ベイズの定理を用いてモンティ・ホール問題を解いてみる

実際にモンティ・ホール問題を解いてみよう。
 
まず、事象を表す記号を定める。アタリのドアに関して、A1 をドア(1)がアタリの事象、A2 をドア(2)がアタリの事象、A3 をドア(3)がアタリの事象とする。解答者は、最初にドア(1)を選ぶものとする。そして、司会者がハズレとして開く1つのドアに関して、B2をドア(2)を開く事象、B3をドア(3)を開く事象とする。
 
各事象の確率を考えてみよう。まず、何も情報がない状態では、A1、A2、A3は同じ確率で起こると見てよいだろう。したがって、P(A1)=P(A2)=P(A3)=1/3。
 
次に、P(B2|A1)を考えてみる。ドア(1)にアタリがある場合に、司会者がドア(2)を開く確率だ。これは同じ場合にドア(3)を開く確率に等しく、それぞれ1/2とみることができる。つまり、P(B2|A1)=P(B3|A1)=1/2。
 
P(B2|A2)は、ドア(2)にアタリがある場合に、司会者がドア(2)を開く確率だが、司会者がアタリのドアを開けることはありえないので、P(B2|A2)=0。一方、P(B3|A2)は、ドア(2)にアタリがある場合に、司会者がドア(3)を開く確率だが、この場合、司会者は(2)を開けられず(3)を開くしかないため、P(B3|A2)=1となる。同様に、P(B2|A3)=1、P(B3|A3)=0となる。
 
ここで、いよいよベイズの定理のお出ましだ。まず、解答者が最初に選んだドアを変えなかった場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)を開けた場合にドア(1)がアタリの確率は、

P(A1|B2) = P(B2|A1)/ {P(B2|A1)×P(A1)+P(B2|A2)×P(A2)+P(B2|A3)×P(A3)} × P(A1)
     = 1/2 / {1/2×1/3 + 0×1/3 + 1×1/3} × 1/3
     = 1/3

司会者がドア(3)を開けた場合にドア(1)がアタリの確率も同様に計算可能だが、ドア(2)とドア(3)の対称性を踏まえると計算しなくても、P(A1|B3) = 1/3 とわかる。
 
次に、解答者が最初に選んだドアを変えた場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)を開けた場合にドア(3)がアタリの確率は、

P(A3|B2) = P(B2|A3)/ {P(B2|A1)×P(A1)+P(B2|A2)×P(A2)+P(B2|A3)×P(A3)} × P(A3)
     = 1 / {1/2×1/3 + 0×1/3 + 1×1/3} × 1/3
     = 2/3

司会者がドア(3)を開けた場合にドア(2)がアタリの確率は、ドア(2)とドア(3)の対称性を踏まえると、P(A2|B3) = 2/3 とわかる。
 
まとめると、司会者がハズレのドアを開いた後も、解答者が最初に選んだドアを変えない場合、そのドアがアタリの確率は1/3。解答者がドアを変えた場合、変えたドアがアタリの確率は2/3となる。1ページに書いた答えが正しいことを確認できたわけだ。

◇ アタリが2つあるモンティ・ホール問題 (変形その1)

モンティ・ホール問題では、アタリの確率を上げるためには選択を変えるべきという、教訓(?) を得ることができた。この教訓は常に正しいのだろうか?
 
そこで、これを確かめるために、モンティ・ホール問題の変形版の問題をいくつか考えて、それを解いていくことにしよう。まず、アタリが2つあるケースを見ていく。
 

(変形その1(アタリのドアが2つあり、司会者はアタリを1つ開く場合))
解答者の目の前には(1)、(2)、(3)の3つのドアがある。このドアの部屋のうち2つに宝物が入っていてそのドアはアタリ、残り1つはハズレとなる。解答者はアタリのドアを当てたら宝物をもらえる。解答者は、どれか1つの部屋を選ぶように言われる。選んだ後、答えを知っている司会者は、解答者が選んでいない2つの部屋のうちアタリの部屋のドアを1つ開ける。例えば、解答者が最初に(1)を選んだときは、アタリである(2)か(3)のどちらかを開ける。そして、「もう一度よく考えてみてください。最初に選んだ(1)のままにしますか? それとも選択を変えますか?」と問う。

このとき、解答者は最初に選んだ(1)のままにすべきか、それとも選択を変えるべきか?

ベイズの定理を使って、問題を解いてみよう。
 
まず、事象を表す記号については、先ほどとほぼ同じとする。アタリのドアに関して、A1 をドア(1)がアタリの事象、A2 をドア(2)がアタリの事象、A3 をドア(3)がアタリの事象とする。解答者は、最初にドア(1)を選ぶものとする。そして、司会者がアタリとして開く1つのドアに関して、B2をドア(2)を開く事象、B3をドア(3)を開く事象とする。
 
ただし、今回の変型版にはアタリが2つある。そこで、“∩”という記号を導入して、A1∩A2を(1)と(2)が両方ともアタリの事象、などと表す。∩は日本語では「かつ」という言葉が当てはまるだろう。
 
各事象の確率を考えてみよう。まず、A1、A2、A3は同じ確率で起こると見てよいだろう。したがって、P(A1)=P(A2)=P(A3)=2/3。
 
また、「かつ」事象の確率として、A1∩A2、A1∩A3、A2∩A3は同じ確率で起こると見てよいだろう。したがって、P(A1∩A2)=P(A1∩A3)=P(A2∩A3)=1/3。
 
次に、P(B2|A1∩A2)を考えてみる。ドア(1)と(2)にアタリがある場合に、司会者がドア(2)を開く確率だ。この場合、司会者はアタリのドアとして(2)を開くしかない。つまり、P(B2|A1∩A2)=1。ドア(1)と(2)にアタリがある場合に、司会者が(3)を開くことはありえないので、P(B3|A1∩A2)=0 となる。同様に、ドア(1)と(3)にアタリがある場合について、P(B2|A1∩A3)=0、P(B3|A1∩A3)=1。
 
P(B2|A2∩A3)を考えてみよう。ドア(2)と(3)にアタリがある場合に、司会者がドア(2)を開く確率だが、これは同じ場合にドア(3)を開く確率に等しく、それぞれ1/2ずつとみられる。つまり、P(B2|A2∩A3)=P(B3|A2∩A3)=1/2。
 
ここで、ベイズの定理を用いて確率の計算を行う。まず、解答者が最初に選んだドアを変えなかった場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)を開けた場合にドア(1)がアタリの確率は、

P(A1|B2)
=P(A1∩A2|B2)+P(A1∩A3|B2)
=P(B2|A1∩A2)/{P(B2|A1∩A2)×P(A1∩A2)+P(B2|A1∩A3)×P(A1∩A3)+P(B2|A2∩A3)×P(A2∩A3)}×P(A1∩A2)
+P(B2|A1∩A3)/{P(B2|A1∩A2)×P(A1∩A2)+P(B2|A1∩A3)×P(A1∩A3)+P(B2|A2∩A3)×P(A2∩A3)}×P(A1∩A3)
=1/{1 ×1/3 + 0 × 1/3 + 1/2 × 1/3}×1/3  +  0/{1 ×1/3 + 0 × 1/3 + 1/2 × 1/3}×1/3
=2/3

司会者がドア(3を開けた場合は、ドア(2)とドア(3)の対称性を踏まえると、P(A1|B3)=2/3 とわかる。
 
次に、解答者が最初に選んだドアを変えた場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)を開けた場合にドア(3)がアタリの確率は、

P(A3|B2)
=P(A1∩A3|B2)+P(A2∩A3|B2)
=P(B2|A1∩A3)/{P(B2|A1∩A2)×P(A1∩A2)+P(B2|A1∩A3)×P(A1∩A3)+P(B2|A2∩A3)×P(A2∩A3)}×P(A1∩A3)
+P(B2|A2∩A3)/{P(B2|A1∩A2)×P(A1∩A2)+P(B2|A1∩A3)×P(A1∩A3)+P(B2|A2∩A3)×P(A2∩A3)}×P(A2∩A3)
=0/{1 ×1/3 + 0 × 1/3 + 1/2 × 1/3}×1/3  +  1/2  /{1 ×1/3 + 0 × 1/3 + 1/2 × 1/3}×1/3
=1/3

司会者がドア(3)を開けた場合にドア(2)がアタリの確率は、ドア(2)とドア(3)の対称性を踏まえると、P(A2|B3)=1/3 とわかる。
 
まとめると、変形版の問題では、司会者がアタリのドアを開いた後も、解答者が最初に選んだドアを変えない場合、そのドアがアタリの確率は2/3。解答者がドアを変えた場合、変えたドアがアタリの確率は1/3となる。アタリの確率を上げるためには選択を変えるべきという教訓は、変形版の問題では通用しないこととなる。

(2024年09月10日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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