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スパゲッティにみる主観確率-麺の端を結んでいったら、“輪” はいくつできる?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
楽しい確率としては、宝くじをはじめとしたくじの当せん確率だ。くじを買うときには参考になる。反対に、交通事故や自然災害などに遭う不運な確率もある。リスクに対する意識を高めるうえで、こうした確率も重要だ。
確率に応じて行動を起こす(または起こさない)ときに、ポイントになるのは、主観確率とされる。今回は、欧米でよく知られるスパゲッティに関する確率の問題をみながら、主観確率の大きさを味わってみよう。
◇ 主観確率ならば、「地球にUFOがやって来る確率」も論じられる
これに対して、主観確率は、人間が考える主観的な確率をいう。客観的には求められない信念や信頼の度合いをいう。これを用いれば、たとえば、「地球にUFOがやって来る確率」のように、過去にほとんど(もしかしたら、全く)経験したことがないような事象の確率についても論じることができる。ただし、取り扱う人の見方によって、異なることがある点は要注意だ。
◇ レアケースについて、主観確率は客観確率よりも大きい
客観確率が30~40%の場合、主観確率も同程度となり、両者は大体一致するといわれる。降水確率40%のときには、主観確率も同じぐらいとなり、外出する際には「念のために傘を持っていこう」という人が出てくることになる。
客観確率が60~70%の場合、主観確率はそれよりも少し低くとらえられる。降水確率70%と聞いても、主観確率はそこまで高くなく、外出の際に傘を持っていかないという人が一定数存在することとなる。
客観確率が0~10%といったレアケースについては、主観確率は、それよりも大きいと感じられることが多いという。降水確率10%の場合でも、外出時に傘を持っていく人は、それなりに居ることになる。
主観確率は、あくまで主観的な確率に過ぎない。しかし、その確率に応じて、行動を起こすとした場合、客観確率と大きく乖離することは、判断のミスやムダな行動につながりかねない。このため、両者の乖離は小さいことが望ましいと考えられる。
◇ スパゲッティの “輪” の個数問題 : 麺の端を適当に2つずつ結んでいくと、“輪” はいくつできる?
(スパゲッティの “輪” の個数の問題)
50本の麺を茹でて、それにパスタソースをかけてできたスパゲッティがあります。麺の端は、全部で100個あります。この麺の端を無作為に2つとって、結んでいくことにします。100個の麺の端をすべて結び終えたときに、平均的に、麺の“輪”はいくつできているでしょうか? ただし、麺が切れることはないものとします。
まず、最初に注意しておくが、この問題は、麺がスパゲッティである必要はない。うどんでも、そばでも、ラーメンでも、フォーでも、麺であればなんでも構わない。
また、パスタソースは(まさに)問題の味付けに過ぎない。トマトソースでも、ペペロンチーノソースでも、イカスミソースでも、たらこソースでも、なんでもよい。特に、かけなくてもよい。
大切なのは、50本の切れない麺が(まさにスパゲティ的に)こんがらがっていて、そこから、ランダムに2つの端同士を結んでいくということだ。
そして、できあがった“輪”は、いくつもの麺からなる大きい輪も、一つの麺だけからなる小さい輪も、一つとしてカウントしていく。
ここで、2つの端を結ぶことを、「タイ作業」と呼ぶことにする。この問題では、タイ作業を50回行うことになる。また、もともとの一つひとつの麺を「単麵」と呼ぶことにしよう。
まず、輪の数がとりうる範囲について考えてみよう。輪の数が最も多くなるのは、タイ作業で、50本の単麵のそれぞれ端を結んだ場合だ。全部で50個の小さい輪ができることになる。
一方、輪の数が最も少なくなるのは、50本の単麺全体で、1つの大きな輪ができる場合だ。49回目までのタイ作業で単麵が1本の長い長い麺につながり、50回目のタイ作業で輪となるケースだ。このように考えると、輪の数は最少で1個、最多で50個ということになる。
さて、ここで、主観確率にしたがって、この問題の答えを予想してみよう。平均して、いくつぐらい輪ができるだろうか。読者の皆さんの考えは、次の3つの説のどれに近いだろうか?
A:「大きいものでも、小さいものでも輪は輪だ。少なくても1個は確実にできるわけだし、最多で50個もできるというのだから、まあ自然に考えれば、平均して7、8個ぐらいできる、というのが妥当な線だろう。」
B:「いやいや、初めのほうのタイ作業では、適当にとったら、たまたま単麺の端同士だったという偶然も結構起こるだろう。そう考えれば、答えはもう少し多くて、平均的には10個以上輪ができるはずだ。」
C:「ちょっと待て。筆者は、『主観確率云々』と述べたうえで、この問題を出しているのだから、そこそこ輪ができると思わせておいて、実は思いのほか輪の数は少ない、というオチではないか? そう考えると、平均的にできる輪の数は、せいぜい2、3個なのかもしれない。」
Cの説の“ヨミ”は、なかなか鋭い。筆者の心理をうまく突いている。それでは、そろそろ平均的にできる輪の数を計算してみよう。
◇ 1つの端をとったときに、それを結んで “輪” ができるような端は1つだけ
まず、最初のタイ作業。50本の単麺の中から1つの端を選ぶ。残り99個の端があるが、このうち輪ができるのは、選んだ端と同じ単麵のもう片方の端だけだ。つまり、99分の1の確率で輪ができ、99分の98の確率で輪ができないことになる。
次に、2回目のタイ作業。端は98個あり、その中から1つを選ぶ。残り97個の端があるが、このうち選んだ端と結んで輪ができるのはやはり1つだけだ。つまり、97分の1の確率で輪ができ、97分の96の確率で輪ができないことになる。
続いて、3回目のタイ作業。同様にして、95分の1の確率で輪ができ、95分の94の確率で輪ができないことになる。
以下、4回目、5回目…と、タイ作業を繰り返していく。そして最後の50回目のタイ作業。この段階で、残っている端は2つだけとなっている。この端同士を結べば、(大きい輪か、小さい輪か、はともかく) 必ず1個輪ができる。つまり、確率1で輪ができる。
そして、50回のタイ作業で輪ができる確率を、全部足し合わせていく。
※ 少しまじめに平均(期待値)の計算を行うとすれば、n回目のタイ作業で、輪ができる場合に1、できない場合に0となる確率変数を考える。輪のできる個数の平均は、
(この確率変数(1または0)) × (n回目のタイ作業で輪ができる確率 または できない確率)
をn=1~50について足し合わせたものだ。つまり、輪ができる確率を50回分、足し合わせていけばよいことになる。
紙と鉛筆だけでは大変だが、パソコンの表計算ソフトなどを使えば、簡単に計算できる。
1/99 + 1/97 + 1/95 + …… + 1/3 + 1 = 2.9377… ≒ 2.9個
つまり、100個の端を結んでできる輪の数は、平均して、3個未満ということになる。Cの説が正しいという結果だ。読者の皆さんの予想は、当たっただろうか? 予想がAやBの説に近かった人は、主観確率と客観確率の違いを実感することができた、といえるだろう。
(2023年02月14日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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