コラム
2022年10月21日

ランキング考-「トップ10入りしたい」心理とは?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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人は常に社会で比較にさらされている。
 
生まれて間もない赤ちゃんが2人いれば、「先に言葉が話せるようになるのはどちらか?」や、「歩けるようになるのはどちらが先か?」など。子どものときは、「運動会の徒競走では何着だったか?」とか、「期末テストの成績はクラスで何番目だったか?」とか。そして、学校の入学試験は、こうした比較の最たるものといえるだろう。卒業して社会に出てからは、例えば会社に入って営業担当となれば、「先月の売上は営業部で何番目だったか?」とか、「顧客のリピート率上位には誰が入っているか?」など。会社を経営する立場になれば、「前期の業績は同業他社に比べてどうだったか?」等。 そして、会社を退職してセカンドライフに入ってからも、「体力年齢は、同じ地域の同世代の人と比べてどうか?」などなど、――人は、生まれてから死ぬまで、比較にさらされ続ける。
 
多くの人を一度に比較するには、ランキングが適している。「1番成績が良かったのは誰か?」、「上位の顔触れはどうか?」といったことが一目瞭然だからだ。今回は、ランキングについて考えてみたい。

◇ ランキングの要件

まず、ランキングは、いつでも作成できるわけではない、ということに注意しておこう。ランキング作成のためには、完備、非対称的、推移的という要件を満たす必要がある。完備とは、ランキングの対象から2つを取り出したときに、その優劣が定まること。比較できないもの同士ではランキングは作れない。非対称的とは、2つのものが同等ということがないこと。これは、同順位となることを避けるための条件となる。そして、推移的とは、例えば比較対象のA、B、Cについて、AがBに勝り、BがCに勝る場合には、AはCに勝っているということ。じゃんけんの手のような三すくみの状況はランキング作りには適さない。
 
ランキングを作る際は、レーティングによる評価が行われることが一般的だ。レーティングとは、何らかの共通の尺度を用いて各項目に点数や評価を付与して比較することだ。その際、用いられる評価には、大きく、客観的なものと主観的なものがある。通常は、客観的なものと主観的なものが混じり合ったものとなる。
 
客観的な評価は、例えば山の高さや、川の長さのように尺度が定まっていて、測定者によらず、同じ評価がなされるものだ。これに対して、文化・芸術など定量化が困難な分野では、評価をする側の主観に基づいて評価が行われることとなる。このような評価は、主観的な評価となる。

◇ ランキング作りに役立つレーティングとは

一般に、レーティングによる評価はランキング作りに役立つが、レーティングをすれば必ずランキングが作れるというものではない。評価の測定尺度には、いくつかの形態があるためだ。
 
ハーバード大学の心理学者であるスタンレー・スティーブンス教授が示した基準によれば、測定尺度には名義、順序、間隔、比率の4つがある。
 
名義尺度は、言葉で表現するものだ。例えば、花の美しさを表現するとした場合、「奇麗」「優美」「可憐」「鮮やか」「麗しい」など、いくつかの表し方がある。ただし、「奇麗」が「可憐」に勝っていたり、劣っていたりするわけではない。それぞれの表現に優劣をつけることは難しい。
 
順序尺度は、順序付けは可能だが、どれぐらい違うのかは測れないもの。例えば、囲碁・将棋や、空手・柔道・剣道などの段位では、通常、初段よりも二段のほうが強い。ただ、初段と二段の強さの差を定量的に表すことは困難だ。
 
間隔尺度は、項目間の違いが表示できるもの。ただし、その違いを比率で表すことは意味をなさない。摂氏温度がその例となる。37℃は36℃よりも高いが、36分の37倍高い、というわけではない。
 
比率尺度は、項目間の違いが表示でき、しかも違いの比率が意味をなす。時間や重さといった物理量が該当する。温度も絶対温度(原子や分子の熱運動がゼロになる温度を0度とした温度)であれば比率尺度となる。
 
これらのうち、名義尺度は、ランキングには向かない。順序尺度を用いれば、一応、ランキング作りは可能だ。ただし、同じ順序尺度は同順位とする必要がある。間隔尺度や比率尺度を用いたレーティングによって、ランキング作成が可能となる。

◇ 「トップ10入りしたい」心理

ランキングには、順位付けという本来の機能のほかに、ある特徴を持つものをリストアップするという役割がある。順位付けしてリストアップすることで、位置関係がわかりやすくなる。ただし、主観的な評価に基づいてランキングを行う場合には、心理的な影響がその中に紛れ込むため、注意が必要となる。
 
ランキングは切りのいい数字までで表示されることが多い。「トップ13」や「ベスト37」といったランキングは、あまり聞かない。「トップ10」や「ベスト100」といった表示の仕方が一般的だ。特に、トップ10として10個をリストアップすることは多用される。10くらいの個数は、脳への負担が少なくて、すんなり頭に入りやすいためと考えられる。キリスト教の旧約聖書で有名な「モーセの十戒」をはじめ、十進法を用いる人間にとって、10という数字はなじみやすいのだろう。
 
ヒット曲や新車販売台数などのランキングでは、よくトップ10が用いられる。この場合、第8位、第9位などの具体的な順位はあまり重要ではない。トップ10入りすることこそが、上位グループのステータスを表すため、大切なこととなる。こういうランキングでは、トップ10圏外となる第11位にランクダウンすることは、どうしても避けたいとの心理が働く。
 
もう1つ、ランキングの心理でいえば、スポーツで、オリンピックなどのメダリストの心理に関する研究も有名だ。金メダリストは当然気分がよい。その反面、第2位の銀メダリストは、金メダリストとの比較で惨めな気持ちになりやすい。一方、第3位の銅メダリストは、メダルを獲得できなかった第4位以下との比較で満足感を持ちやすいという。
 
ランキングをどうとらえるか、人間心理には単なる順位とは別の意味も潜んでいるといえる。

◇ ランキングが好循環や悪循環をもたらすことも

ランキングを作ることが、物事の変化を増幅させることもある。
 
例えば、大学ランキングでは、ある大学の順位が上がると、その大学では受験者の数が増えたり、その学力レベルが上がったりする。その結果、その大学のその後のランキングがさらに上昇するという好循環が起こる。
 
反対に、順位が下がると、これと逆のことが起こり、スパイラル的に順位が下がっていく悪循環に陥る恐れもある。
 
このように、何かの比較の結果として作成されたはずのランキングが、その後の比較に影響を及ぼすこともある。ランキングは、単なる比較結果のまとめにとどまらない、ということになる。

◇ ランキングが社会に弊害をなすことも

また、ランキングによって、測定尺度の活用が一部のものに集中することもある。ランキングへの注目が高まると、ランキング作成に用いられる評価要素に関係者の目が向くようになる。その一方で、ランキング作成に用いられない要素への関心は薄れていく。
 
こうした測定尺度の偏りが進むと、「キャンベルの法則」として知られる状況に陥る恐れがある。1976年に、アメリカの社会科学者ドナルド・キャンベルは、論文の中で次の指摘をした。
 
“The more any quantitative social indicator is used for social decision-making, the more subject it will be to corruption pressures and the more apt it will be to distort and corrupt the social processes it is intended to monitor.”
“Assessing the Impact of Planned Social Change”(Donald T. Campbell, Dec. 1976)
 
「いかなる定量的な社会指標も、社会の意思決定に用いられるようになるほど、腐敗の圧力を受けやすくなり、監視すべき社会プロセスを歪ませてダメにする傾向がある。」(試訳は筆者が行った。)
 
これは、定量的指標が(ランキングに)用いられるようになるほど、社会に弊害をなす傾向がある、という趣旨だ。
 
その典型例として、旧ソビエト社会主義の計画経済がよく取り上げられる。
 
計画経済においては、工業の生産目標は数量で設定された。品質や利用者の満足度は問わずに、製品や材料の重さだけが測定尺度として用いられた。
 
その結果、例えば、重いシャンデリアや、重い鉄の土台が付いた機械がたくさん作られるようになったという。「重いものほど高く評価される」という測定尺度の活用が、生産のあり方を歪めてしまったといえるだろう。
 
ランキングの作成や利用に偏りがあると、こうした弊害も生じうる。もし、何らかの悪循環や測定尺度活用の歪みが起こるようであれば、ランキング作成そのものを考え直すべきかもしれない。
 
今度何かのランキングを目にしたら、それがどういう人間心理や社会的影響をもたらすか、考えてみるのもよいだろう。

(参考文献)
 
“Assessing the Impact of Planned Social Change” Donald T. Campbell (Dec. 1976)
 
「レイティング・ランキングの数理 - No.1は誰か?」Amy N. Langville, Carl D. Meyer(著),  岩野和生, 中村英史, 清水咲里(翻訳)(共立出版, 2015年)
 
「ランキング-私たちはなぜ順位が気になるのか?」Péter Érdi(著), 高見典和(翻訳)(日本評論社, 2020年)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年10月21日「研究員の眼」)

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