コラム
2024年07月23日

区間が重なる確率の問題-ある区間が他のすべての区間と重なっている確率は?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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数学の問題やパズルで、確率を題材にしたものは多い。直感的な確率と、正答の確率の間にギャップがあると、なにか意外な感じがして楽しめることが多いからかもしれない。
 
今回は、確率に関するパズルで、愛好家(?) の間ではかなり有名なものを見ていきたい。読者には、答えの“意外感”を味わっていただければ幸いである。

◇ ある区間が他のすべての区間と重なる部分を持つ確率は?

まず、パズルの問題を見ていこう。
 

(区間が重なる確率の問題)
nを2以上の整数とします。数直線上で、1から2nまでの2n個の整数の点を考えます。これらのなかからランダムに2つずつ点を取り出して、その2点を端点とする区間を書いていきます。(区間の数は全部でn個になり、数直線上にn個の区間がランダムに設定されたことになります。)
このとき、ある区間が他のすべての区間と重なっている確率は、どれくらいでしょうか?

区間とか、数直線とか、数学の用語がいっぱい出てきてうんざり、という読者もいるだろう。また、「重なっている」という表現が、文章ではイメージしづらいかもしれない。そこで、次のn=5の例を見ながら、問題の意味を確認しておくことにしよう。
ある区間が他のすべての区間と重なる部分を持つ
5つの区間に色をつけて書いてみた。紫色の区間[6,8]は、水色の区間[4,7]と共有部分があるので、重なっている。同様に、緑色の区間[5,9]とも重なっている。しかし、赤色の区間[1,3]とは、共有部分がないため重なっていない。

この例では、青色の区間[2,10]が、他の全ての区間と重なっている。つまり、問題の「ある区間が他のすべての区間と重なっている」状態になっている。
 
それでは、このように区間をランダムに書いていったときに、「ある区間が他のすべての区間と重なっている」状態になる確率は、どれくらいだろうか? ― それが、この問題の題意だ。

◇ ある区間が他のすべての区間と重なっている確率を予想してみる

ある区間が他のすべての区間と重なっている確率を考えてみよう。2n個の点のうち、端のほうにある点が作る区間が重なりから漏れやすそうな気がしてくる。
 
上の例では、左端のほうの赤色の区間[1,3]が、たまたま青色の区間[2,10]と重なっていたからよかったが、例えば、赤色の区間が[1,3]ではなく、[1,2]だったとしたら、この区間が他の区間と重なることはない。つまり、「ある区間が他のすべての区間と重なっている」状態にはならない。
 
同じことが、右端のほうの9や10の点にも言える。
 
さらに、nがもっと大きくなって、例えば、n=10、n=100、…、n=100000000(1億)などとなったら、「ある区間が他のすべての区間と重なっている」状態など、めったに起こらないような気がしてくるだろう。(読者を、やや誘導している感はあるが..。)
 
そう考えると、ある区間が他のすべての区間と重なっている確率は、n=5の場合1/2より小さく、nが大きくなるとどんどん小さくなっていく、というのが自然な感覚ではないだろうか。

◇ 実際に図示して確かめてみる

それでは、この感覚が正しいかどうか、実際に図示して確かめてみよう。
 
まずは、n=2の場合。次の3つのケースが考えられる。このうち、真ん中と右のケースが重なっている。ある区間が他のすべての区間と重なっている状態になる確率は、2/3ということになる。
n=2の場合
n=3の場合。次の15個のケースが考えられる。このうち、一番上の段の3つと、二段目と三段目の段の左の1つの5個以外は、ある区間が他のすべての区間と重なっている。つまり、ある区間が他のすべての区間と重なっている確率は、10/15=2/3ということになる。
n=3の場合(1)
n=3の場合(2)
n=3の場合(3)
n=3の場合(4)
n=3の場合(4)
次にn=4の場合を図示したい。だが、図の数は全部で105個となり、もし書くと、本稿は図が何ページも続いて常軌を逸した感じになるため自重させていただく。さて、n=2の場合も、n=3の場合も、ある区間が他のすべての区間と重なっている確率は、2/3であった。― これは、偶然ではない。
 
実は、nがどれほど大きくなろうとも、ある区間が他のすべての区間と重なっている状態になる確率は、2/3となる。2/3という水準が1/2を超えていてかなり大きいことと、それがnによらないことの2点に対して、読者は意外な感じを持たれたかもしれない。

◇ まともに数え上げていくやり方は、数が大きすぎて通用しない

前節の最後に問題の答えを示したが、納得感がないという方もいるはずだ。そこで、少し説明を試みたい。
 
まず、そもそもn個の区間が作り出す状態の数はどれだけあるのか、計算してみよう。n=2のとき、状態の数は3。n=3のとき、ある1点から1つ目の区間を作る方法が5つあり、それに応じて残りの点から2つ目と3つ目の区間を作る方法がn=2の場合と同じで3ずつあるから、掛け算して、状態の数は15。先ほど図示したのは、これら15個の状態だ。
 
さらに、n=4のときは、15に7を掛け算して状態の数は105。n=5のときは、105に9を掛け算して状態の数は945。という感じで、nが大きくなるにつれて、状態の数は飛躍的に増えていく。nが大きくなると、図示するのにも限界が生じてくるわけだ。
 
一般のnの場合、(2n-1)×(2n-3)×…×5×3 = (2n)!/(2 n×n!) 個の状態がある。階乗の記号“!”が出てきており、とてつもない大きさの数になることがうかがえる。
 
膨大な数のこれらの状態をすべて図示したうえで、そのうち、「ある区間が他のすべての区間と重なっている」状態がどれだけあるかを数える、というやりかたは、もはや通用しない。

(2024年07月23日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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