コラム
2024年06月25日

確率を使った分配問題-優勝賞金をどう分ける?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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確率というと、「昔、数学の問題で出てきたけど、一体、社会で何の役に立っているのかわからない」という人が多いのではないだろうか。
 
一般の人にとって、日常生活でよく目にする確率と言えば、天気予報の降水確率や、宝くじの当せん確率だろう。ただし通常は、天気予報で、降水確率が70%か、80%かという違いが問題になることはあまりない。雨が降る確率が高いという予報だから、とりあえず外出の際は傘を持っていこうと考えるからだ。
 
宝くじのほうも、確率の違いを重視する人はあまりいないと考えられる。もし、年末ジャンボ宝くじで、「1等前後賞合わせて10億円」の当せん確率が2000万分の1ではなく、2倍の1000万分の1だったとしても、くじを購入する大多数の人にとって、その違いを実感できることはないと思われるからだ。
 
そうなると、確率は何の役に立つのか、が問題になる。数学の確率の問題ではおなじみの、サイコロの目、コインの裏表、トランプのカード、壺の中の色付きの球といった品々について、それらがどのような確率で出るのかわからなくても、日常生活で困ることはまずない。
 
ただ、確率を使うと状況が数字で表現できて理解しやすくなるということもある。今回は、確率を使った有名な分配の話を見ていきたい。

◇ 分配問題

各種の球技スポーツや、チェス、囲碁、将棋などのボードゲームでは、世界一、日本一、名人位などのタイトルをかけた頂上決戦が行われる。決戦のやり方はタイトルごとにさまざまだが、2つのチームや2人のプレイヤーが、何回か試合や対局を繰り返して勝者を決める方式がよく見られる。
 
通常、頂上決戦に勝利して見事タイトルを得たチームやプレイヤーは、優勝賞金を手にする。優勝の栄誉とともに、賞金の授与で勝者を称えるわけだ。この優勝賞金を巡り、次のような問題がある。

(優勝賞金の分配問題)
あるスポーツで、頂上決戦シリーズが行われる。シリーズは最大7試合で、先に4勝したチームが優勝を手にする。優勝チームには優勝賞金が与えられる。このシリーズを、AチームとBチームが戦っている。第5戦が終了してAチームの3勝、Bチームの2勝だった。

この状況で未曽有の天災が発生して、シリーズは中止にせざるを得なくなった。さて、優勝賞金を2チーム間で分けるとしたらどのように分配すべきか?

この問題の例として、メジャーリーグベースボール(MLB)のワールドシリーズが挙げられる。
 
実際には、こうした頂上決戦シリーズが行われる場合には、何らかの不測の事態によりシリーズが中止されたときの優勝賞金の分配について、あらかじめレギュレーションなどに規定されていることが多いだろう。だが、この問題では、事前にそうした規定がなかったものとして考えてみる。
 
まず、AチームとBチームの未消化の試合の勝率は2分の1ずつと置こう。実際には、どちらの本拠地で試合を行うかによって、ホームアドバンテージが生じることもあるだろうが、それを優勝賞金の分配に加味することは、両チームの関係者の納得感が得られないと考えられるからだ。
 
その上で、こんなふうに考える。もし第6戦が行われてAチームが勝ったとすると、Aチームが4勝となりAチームの優勝が決まる。その確率は、1/2だ。逆に第6戦にBチームが勝利したとすると、両チーム3勝ずつのタイとなり、第7戦が優勝のかかる大一番となったはずだ。その確率も1/2だ。
 
第7戦に進んだ場合、Aチームが勝利する、つまり優勝する確率は1/2だ。これらをまとめると、現状(第5戦を終えた状況)で、Aチームの優勝する確率は、1/2 + 1/2×1/2 = 3/4と計算できる。つまり、優勝確率は75%だ。Bチームの優勝確率は残りの25%ということになる。
 
そこで、優勝賞金の分配は、Aチームに総額の3/4、Bチームに総額の1/4とすればよい。このようにして、確率を使って分配ができるわけだ。

◇ 確率を使わない解法もある

この問題には、確率を使わずに、もっとわかりやすく解く方法もある。シリーズは、最大7試合で、現状では第5試合まで終了しているのだから、残り2試合。その勝敗パターンを全部書き出してみる。
 
勝利チームを第6戦、第7戦の順に並べると、AA、AB、BABBの4通りがある。ここで、注意したいのは、第6戦でAが勝利して優勝を決めたとしても、消化試合として第7戦を行うと想定している点だ。
 
これら4通りは、1試合での勝率を五分五分と置くと、同じ確率で起きる。このうち、太字で記したAA、AB、BAの3通りがAチームの優勝、細字下線付きで記したBBの1通りがBチームの優勝なので、優勝賞金は、AとBに3:1の比率で分配すればよいことになる。
 
この方法は、確率の計算を用いずに、場合の数を使って分配比率を算定できるため、わかりやすい。確率についてよく知らないような子どもに説明しても理解してもらえるかもしれない。こうしてみると、やっぱり確率なんて日常生活には必要ないのでは? という気がしてくる。

◇ やっぱり確率が必要

では、日本のプロ野球の日本シリーズで、同様の状況になったらどうするか。日本シリーズで考慮しないといけないのは、MLBのワールドシリーズとは異なり、第7戦までは延長回に制限があり、試合が引き分けになる可能性がある点だ。
 
この引き分けの可能性を考慮すると、問題で示されている状況から、第6戦、第7戦とも引き分けになって、第9戦まで最大あと4試合行われることがあるわけだ。
 
そこで、消化試合となっても、また途中で引き分けがあろうがなかろうが第9戦まで行うものと仮定する。第8戦以降は引き分けがないものとして、第6戦~第9戦の勝利チームのパターンをすべて書き出してみる。引き分けの場合は、Tの文字を使うことにしよう。
 
まず、第6戦、第7戦に引き分けを含まないケースは、AAAAAAABAABAAABBABAAABABABBAABBBBAAABAABBABABABBBBAABBABBBBABBBBの16通り。Aが優勝するパターンは、太字で記した12通り。Bチームが優勝するパターンは細字下線付きで記した4通りとなる。
 
つぎに、第6戦、第7戦に1試合引き分けを含むケースは、TAAA、TAAB、TABA、TABB、TBAA、TBABTBBATBBBATAAATABATBAATBBBTAABTABBTBABTBBの16通り。Aチームが優勝するパターンは、太字で記した12通り。Bチームが優勝するパターンは細字下線付きで記した4通りとなる。
 
第6戦、第7戦とも引き分けとなるケースは、TTAA、TTAB、TTBATTBBの4通り。Aチームが優勝するパターンは、太字で記した3通り。Bチームが優勝するパターンは細字下線付きで記した1通りとなる。
 
結局、どのケースでもAチームの優勝確率は75%、Bチームの優勝確率は残りの25%となる。
 
優勝賞金は、AとBに3:1の比率で分配すればよいことになり、先ほどと同じ結果が得られる。ただし、面倒な場合分けが必要となり、一気に複雑になってしまった。
 
一方、確率を使うとつぎのようになる。
 
Aチームの優勝する確率は、次の3つに分けて考えられる。(1)第6戦で勝つケースと、第6戦で負けるケースの半分。(2)第6戦を引き分けて、第7戦で勝つケースと、第7戦で負けるケースの半分。(3)第6、7戦を引き分けて、第8戦で勝つケースと、第8戦で負けるケースの半分。
 
いま、第7戦までは1試合でAやBが勝つ確率をp、引き分けの確率をt (2p+t=1) とすると、

Aの優勝確率 = p+p/2 + t(p+p/2) + t2(1/2+1/4) = 3p/2×(1+t) + 3/4×t2 = 3/4

Bの優勝確率 = p/2 + t×p/2 + t2×1/4 = p/2×(1+t) + 1/4×t2 = 1/4

となり、Aチームの優勝確率は75%、Bチームの優勝確率は残りの25%となる。優勝賞金は、AとBに3:1の比率で分配すればよいことになる。

◇ 延々と続くかもしれないデュースでも確率を使えば賞金の分配ができる

もっとややこしい状況もある。テニスや卓球などでみられるデュースのアドバンテージだ。1つのゲームでテニスでは40-40、卓球では10-10となると、デュースとなる。デュース後は、2本差がつくまで、ゲームは延々と続く。この場合、アドバンテージのプレーヤーが次の1本を取るとそのゲームをとり、次の1本をとれないと再びデュースに戻る。
 
いま、テニスのウィンブルドン選手権の決勝戦でCとDの2人のプレーヤーが対戦しているとする。試合はフルセットにもつれ込み、最終セットも第12ゲームを終えて6-6のタイスコア。
 
試合は、ついに10ポイント先取のタイブレークに入った。そのタイブレークも、9-9とまったくの互角。ここで、プレーヤーCが1本とって、10-9になったとしよう。Cが次の1本をとれば、Cの優勝。Dが次の1本をとれば10-10となり、2ポイント差がつくまで試合が続く。
 
そこで、まさかの天変地異が発生。試合は、続行不可能となった。(読者の皆さんは、「そんなこと、あるわけないだろ」とツッコミを入れたくなる気持ちをこらえてほしい。)
 
このような場合、もし天変地異が発生しなかったとしても、試合がどこまで続くかはわからない。そのため、先ほどのように勝敗パターンを全部書き出す方法は通用しない。だが、確率を使う計算はできる。
 
ここで、1本のプレーをとる確率、とらない確率は、五分五分とする。(本当はサービス側か、レシーブ側かで確率は異なるだろうが、ここでは同じと仮定する。)
 
もし次の1本をCがとると、Cの優勝が決まる。その確率は、2分の1だ。次の1本をDがとると、再びゲームはタイに戻る。そうなれば、Cの勝利の確率は2分の1となる。1/2 + 1/2×1/2 = 3/4と計算して、Cの優勝確率は75%とわかる。Dの優勝確率は残りの25%ということになる。
 
このように確率を使うことで、状況の優勢、劣勢を数字で表現できる。
 
一体、確率は何の役に立つのか? ― こんなことが気になったときには、確率を用いた状況の評価という役立て方があることを振り返ってみるのもよいかもしれない。

(参考文献)
 
「確率パズルの迷宮」岩沢宏和著(日本評論社, 2014年)
 
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
 
「開催要項 SMBC日本シリーズ2023」(NPB.jp 日本野球機構)
 
「テニス=四大大会が10ポイント制タイブレークに統一、全仏から」(ロイター, 2022年3月17日)

(2024年06月25日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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