コラム
2024年01月23日

天気予報の精度-適中率さえ高ければ、よい天気予報といえる?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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天気予報は、日々の生活のなかに定着している。テレビのニュースをはじめ、パソコンのインターネット上でも、スマートフォンのアプリからでも、簡単に天気予報を見ることができる。
 
天気予報は、過去の気象データ等をもとに将来の天気を予報するものだ。当然ながら、予報が当たることもあれば、外れることもある。
 
それでは実際に、天気予報の適中率はどれくらいなのか。適中率さえ高ければ、よい天気予報といえるのか。今回は、天気予報の精度について、考えてみよう。

◇ 降水の有無について、「明日の予報」の適中率は83%

一般に、天気予報では、降水の有無、最高気温、最低気温など、天気に関するさまざまなことを予報している。最高気温や最低気温のような数量的な予報では、予報誤差を算出し、その大きさをもとに予報精度が評価される。
 
一方、降水の有無については、予報に対して、実際に雨(または雪)が降ったか、降らなかったかの2つに1つとなるため、わかりやすい。予報精度の評価には、適中率が用いられる。今回は、この降水の有無について見ていくこととしよう。
 
気象庁は、定期的に、天気予報の精度検証の公表を行っている。ただし、ひと口に適中率といっても、予測技術の改善による精度の向上がある一方、毎年天候の状況が異なるため予測の難易度が変化することから、各月、各年の予報精度は変動する。また、地域によっても、予報精度は異なる。
 
そこで、長期間にわたって平均した適中率の例年値を、月ごとおよび年平均として、11の地方予報区と全国を対象に算出し、その結果を公表している。1992~2022年の平均の公表結果(例年値)を見ると、全国平均の年平均の適中率は、17時発表の「明日の予報」では83%、「明後日の予報」では80%となっている。どちらも約8割という水準だ。
 
全国平均の適中率の例年値は、月ごとには、次のとおりとなっている。10月から翌年5月にかけては適中率が高い一方、6月からは9月にかけては適中率が低いことがわかる。夏場によく見られる夕立などの予報は難しい、ということかもしれない。
全国平均の適中率の例年値
つづいて、地方予報区別に年平均の適中率を見てみる。関東甲信から九州南部にかけて適中率が高い一方、東北ではやや低く、北海道や沖縄では80%を下回ることがうかがえる。これは、北海道では、冬季に雪が広い予報対象領域全体にではなく部分的に降りやすいこと。沖縄は島嶼からなるため、地形の影響を受けにくく、降水発生場所の特定が困難なこと、などが影響しているものと考えられる。
地方予報区別の年平均の適中率

◇ 適中率だけでは降水の有無の予報の精度は測れない

一般に、適中率が高い予報は、よく当たる予報ということになる。それでは、適中率さえ高ければよい予報と言えるだろうか?
 
ここで、具体的なケースをもとに考えてみる。降水の有無を100回予報したところ実際の結果はどうだったかを数える。
 
降水ありと予報して実際にも降水があったケースが10回、降水ありと予報したが実際には降水はなかったケースが10回、降水なしと予報したが実際には降水があったケースが10回、降水なしと予報して実際にも降水がなかったケースが70回あったとしよう。これを、(1) 100回予報した事例として、次のように表の形で表すことにする。
(1) 100回予報した事例
この事例では、予報も実際も降水ありの10回と、予報も実際も降水なしの70回の、合計80回が予報適中となる。つまり、適中率は80%だ。
 
これは、次の (2) 完全に予報が適中した事例 (適中率100%の事例) よりも、適中率が低い。
(2) 完全に予報が適中した事例 (適中率100%の事例)
ここで、悩ましいのは、次の (3) 降水なしの予報がすべて適中した事例や、(4) 降水の予想をせずに、すべて降水なしと予報した事例だ。
(3) 降水なしの予報がすべて適中した事例
(4) 降水の予想をせずに、すべて降水なしと予報した事例
(1)も(3)も(4)も、適中率は80%である。適中率を見る限り、予報の精度には差がないこととなる。
 
ここで、(3)は降水なしの60回の予報がすべて適中している。これは、降水なしの予報にしたがって傘を持たずに外出しても、雨に降られることは1回もなかったことを意味する。(1)では、同様のケースで雨に降られることが、降水なしと予報した80回のうち10回あったことと比べると、(3)の予報はよく適中したと言えるだろう。(ただし、その代わり(3)では、降水ありの予報にしたがって傘を持って外出したが、雨が降らずに傘が無用の長物となった、ということが、予報した40回のうち20回あった。) (3)は、(1)に比べれば、予報の精度が高いように思われる。
 
一方、(4)は降水の予想をせずに、すべて降水なしと予報した事例だ。これは、「過去に当時期の当地域には、降水があまりなかった」等の何らかの気象関連の情報を頼りにした予報と言えるかもしれない。だが、日々の予想を一切せずに降水なしと予報し続けたわけであり、たまたま適中率は80%となったが、予報の精度は低いような気がしてくる。
 
このように見ていくと、どうも、適中率だけでは、予報の精度は測れないように感じられるだろう。

◇ 予報の精度を測る際はスキルスコアも見る

ここで、予報の精度を測るために、適中率とは別に、「スキルスコア」という指標が用いられる。これは、気候学的に期待される降水の有無の適中回数を算出して、この回数を適中率の分子と分母から除く、というものだ。
 
(1)の事例をもとに見ていこう。(1)では、予報も実際も降水ありの適中は10回であった。実際の降水の有無は、100回のうちの20回降水ありだったのだから、降水ありの出現確率は20%だ。20回降水ありと予報すれば、その20%の4回は適中する計算だ。つまり、予報も実際も降水ありの10回の適中のうち、4回は天気の予想をせずとも気候学的に期待される適中回数といえる。
 
同様に、予報も実際も降水なしの適中は70回であった。実際の降水の有無は、100回のうちの80回降水なしだったのだから、降水なしの出現確率は80%だ。80回降水ありと予報すれば、その80%の64回は適中する計算だ。つまり予報も実際も降水なしの70回の適中のうち、64回は気候学的に期待される適中回数といえる。
 
予報も実際も降水ありと、予報も実際も降水なしを合わせると、(1)の事例で、気候学的に期待される適中回数は68回となる。したがって、(1)は、スキルスコアは、37.5%(=(80-68)/(100-68))となる。
 
他の事例についても、同じように、スキルスコアを計算してみる。
 
(3)は、気候学的に期待される適中回数が56回で、スキルスコアは、54.5%(=(80-56)/(100-56))。(4)は、気候学的に期待される適中回数が80回で、スキルスコアは、0(=(80-80)/(100-80))。なお、(2)は、気候学的に期待される適中回数が68回で、スキルスコアは、100%(=(100-68)/(100-68))となっている。
 
スキルスコアで比較すると、(3)のほうが(1)よりも高い。降水の予想をしていない(4)は0となる。適中率が100%だった(2)は、スキルスコアも100%のままとなる。
 
このように、スキルスコアで見れば、予報の精度を表すことができる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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