コラム
2024年04月16日

山を分けていく問題-得られた答えをどのように解釈する?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

数学のパズルでは、小石がよく用いられる。日本では、大きさや形がそろっている小石として、碁石が使われる問題もよく目にする。
 
大昔の人は何かの数を数えたり、計算したりするときによく小石を使った。小石は、野原や河原にたくさん転がっており、ちょっとした計算のツールとして、うってつけだったのだろう。英語で、「計算する」という動詞は“calculate”という。これは、小石を表すラテン語“calculus”を用いて数を数えたことからきているそうだ。(「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)より)
 
さて、その小石を使ったパズルとして、今回は、“Pile Splitting Problem”という問題をみていきたい。ここで、pileは、小石のような何か小さなものが積み上がってできた“山”を意味している。筆者には、この英語の問題名の上手な日本語訳が思いつかないが、あえて和訳すれば、「山を分けていく問題」とでも言えるだろうか。

◇ 問題の内容と、n = 2, 3, 4の場合

まず、問題の内容を見ていこう。
 

(山を分けていく問題)
nは2以上の自然数とします。n個の小石からできた山を作ります。この山を2つの小山に分けます。そして、できたそれぞれの小山に含まれる小石の数を掛け算して、その結果を点数として獲得します。つぎに、小山をさらに2つの小小山に分けます。そして、できたそれぞれの小小山に含まれる小石の数を掛け算して、その結果を点数として獲得します。……こうして、すべての山が1個の小石となるまで、「山を2つに分けて掛け算をして点数を得る」操作を続けていきます。

獲得する点数の合計を最大にするには、どのように山を分けていけばよいでしょうか?

最初に、読者諸氏に謝っておきたい。この問題には、出題の仕方にやや問題がある。山の分け方によって獲得する点数の合計が違ってくることを前提としている。追々、解答を見ていくが、その際に「そもそも出題がおかしいだろう!」と、不満の声を挙げられるかもしれない。そのご指摘はその通りだが、ここは少し我慢していただきたい。
 
それでは、解答を見ていこう。
 
まず、こういうnを使った問題やパズルでは、nを適当な小さな数に置き換えて、具体例を見ていくことが解法のスジ(筋)といえる。今回は、nは2以上の自然数とされているので、n = 2とおいてみよう。すると、2個の小石からできた山を2つの1個の小石の小山に分けて、1×1 = 1と掛け算することになる。1点を獲得して、そこで終了となる。山の分け方について、他の選択肢はない。
 
つぎに、n = 3として、3個の小石からなる山を考える。1個の小山と2個の小山に分けて、掛け算は2。つづいて、2個の小山を、2つの1個の小小山に分けて、掛け算は1。つまり、合計3点を獲得して、そこで終了となる。n = 3の場合も、山の分け方について、他の選択肢はない。
 
つぎに、n = 4として、4個の小石の山からスタートする。山の分け方は、1個と3個、2個と2個の2通りがある。ここでは、2個と2個に分けてみよう。掛け算は4だ。そしてそれぞれの2個の小山をどちらも2つの小小山に分ける。小小山は1個からなるので、掛け算は1。それを2回計算する。こうして4+1+1=6で、獲得する点数は6点となる。
 
4個の小石の山を1個と3個に分けていたらどうなっただろうか。掛け算は3だ。そして3個の小石からなる小山を2つの小小山に分ける。1個の小小山と2個の小小山に分けて、掛け算は2。さらに、2個の小石からなる小小山を、2つの1個の小小小山に分けて、掛け算は1。こうして、3+2+1=6で、獲得する点数は6点となる。
 
結局、最初に4個の小石からできた山をどう分けても、獲得する点数は6点となる。ここで、「これは果たして偶然なのか?」という疑問がわいてくるかもしれない。

◇ n = 5の場合

つづいて、n = 5として、5個の小石の山からスタートする。山の分け方は、1個と4個の小山、2個と3個の小山の2通りがある。
 
ここでは、1個と4個の小山に分けてみよう。掛け算は4だ。そして4個の小山について、小小山に分ける方法として、1個と3個、2個と2個の2通りがある。
 
2個と2個に分けるとすれば、掛け算は4だ。そしてそれぞれの2個の小小山をどちらも2つの小小小山に分ける。小小小山は1個からなるので、掛け算は1。それを2回計算する。こうして4+4+1+1=10で、獲得する点数は10点となる。
 
1個と3個に分けるとすれば、掛け算は3だ。そして3個の小小山を、さらに1個と2個の小小小山に分ける。掛け算は2だ。さらにさらに2個の小小小山を、1個と1個の小小小小山に分ける。掛け算は1だ。こうして4+3+2+1=10で、獲得する点数は10点となる。
 
一番最初の山の分け方で、2個と3個の小山に分けていた場合はどうなるだろうか。掛け算は6だ。そして、2個と3個の小山を小小山に分けていく。
 
2個の小山は、1個と1個の小小山に分ける。掛け算は1だ。
 
3個の小山は、1個と2個の小小山に分ける。掛け算は2だ。そして、2個の小小山を1個と1個の小小小山に分ける。掛け算は1だ。こうして、6+1+2+1=10で、獲得する点数は10点となる。
 
結局、最初に5個の小石からできた山をどう分けても、獲得する点数は10点となる。「これはもはや偶然ではないだろう」という気がしてくる。

◇ “証明問題” に変化した

ここまでくると、どうやら山をどう分けていっても、獲得する点数は同じになるようだ、ということが見えてくる。点数は、最初の山の小石の数だけで決まるというわけだ。
 
n = 2のとき、点数は1点。n = 3のとき、点数は3点で2点増えた。n = 4のとき、点数は6点で3点増えた。n = 5のとき、点数は10点で4点増えた。このように、nが1増えるごとに、点数の“増え方”が1増えていることがわかる。
 
そこで、n = 6のとき、点数は1+2+3+4+5で15点。n = 7のとき、点数は1+2+3+4+5+6で21点。n = 8のとき、点数は1+2+3+4+5+6+7で28点。……といった感じになるものと予想できる。
 
これは、一般のnについて、点数は1+2+3+…+(n-2)+(n-1) = n(n-1)/2となるのではないだろうか、という予想だ。
 
つまり、冒頭の問題は、この予想が正しいかどうかを確認する“証明問題”に変化したことになる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【山を分けていく問題-得られた答えをどのように解釈する?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

山を分けていく問題-得られた答えをどのように解釈する?のレポート Topへ